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閑話 竜の牙の引退……!?

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 これは『竜の牙』の3人が、相真のダンジョンに戻ってくるまでの話。
 視点は3人のまとめ役、アリアが主な視点で話は進む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『竜の牙』の3人。アリア、ソル、シルヴィは自身たちが拠点にしていたここ、トゥーリスの町に戻ってきていた。
 3人は町に戻ってきたその足で、依頼の報告の為に冒険者ギルドへ向かう。


「よう、ミーニャ。今回もきっちり依頼を達成したぜ」

 ソルが依頼達成の報告を受付で行う。まとめ役はアリアだが、竜の牙のリーダーはソルだ。

「あ、ソルさん! 今回の依頼もお疲れ様です!」

「おう! ……それでな、ちょっとギルマスに伝えたいことがあるんだけどさ。できれば竜の牙の3人で」

「はい、わかりました。竜の牙の3人で、ですね? 今、ギルドマスターに確認してきますので、少し待っていてください」

 そう言って、ミーニャと呼ばれる女性は、冒険者ギルドの2階へと上がっていった。
 ソルは受付から離れ、2人の元へ。

「よーし、報告終わったぜ」

「はいはい、お疲れ様」

「……お疲れ」

 ここは冒険者ギルド。
 世界中に存在する、数多の依頼を管理し、ランクに合った適切な依頼を冒険者に受けさせる場所。
 ランクは下から数えてFからSまであり、冒険者の強さや貢献度に応じてランクが付けられている。
 冒険者ギルドはそのランクに沿って依頼を分けていた。

 そんなトゥーリスの町支部の冒険者ギルドで、Cランクパーティー『竜の牙』はコラク草原での依頼の達成報告を終えると、次はとある目的でギルドマスターに会おうとしていた。

「それで? ギルドマスターには会えそうなの?」

 私は、ギルドマスターに会えるのかをソルに聞く。

「うーん。多分無理じゃないか? 確か今の時期ってギルドマスター会議があるだろ?」

「あー、そういえばそうだったわね」

 ギルドマスター会議とは、1つの国に存在する冒険者ギルドのギルドマスター達が、その国の首都にある冒険者ギルド本部に集まり、報告やら議論をしたりする会議の事。

「そうね。できれば伝えておきたかったけど……。ま、それなら普通に、受付で申請しちゃいましょ」

「ん、そうするのが一番」

 ほら、シルもこう言ってることだし。さっさと退申請しちゃいましょ。

「よし。じゃあいくぞ」

「ええ」

「……(コクッ)」

 私たちが受付に向かって着くと、ちょうど2階からミーニャが降りてくる。
 彼女は猫の獣人で、その栗色の髪からは、立派な猫耳が生えている。

「あっ、皆さん! すいません。ただ今はギルドマスターは本部の会議に出席中でして、皆さんにはお会いすることはできません……」

「いいのいいの。そこまで伝えたいことでもないしね。別にあなたでもいいのよ」

「そうですか! もう……。それなら、そうと言ってください。……それで、ご用件はなんでしょうか?」

 ミーニャが不安そうな顔をする。ふふ、そんな顔してちゃまだまだね。

「大丈夫よ、そんな重たい話ではないから。実は私たち3人、今日をもって冒険者を引退することにしたの」

「……え?」

 その日は依頼帰りの冒険者が多くギルドに滞在している時間帯だった。
 他の受付や、3人の後ろに並んでいた冒険者たちに、アリアが放ったその声はどんどん浸透していく。
 ギルド全体が急に静かになり、……そして爆発する。

「ええー!?」

「あのベテラン冒険者パーティー『竜の牙』が引退だとぉ!?」

「嘘……ソル様……」

「あの若さでCランクに上がってからは、順調に依頼をこなしていたはずだ! なのにどうして!」

「最近はギルドマスターからBランクへの推薦を受けていたとも聞いているぞ!?」

「アリアお姉さまぁー!」

「シルヴィちゅわーん!」

「お前ら、なんで引退なんかを!」

 突然に引退宣言に、周りの冒険者たち、ギルド職員に受付嬢までが疑問の声を上げる。
 それを聞いた者たちも次々と叫びだしていく始末。……弱数名ほどは悲鳴に近い声を上げているが。

「ど、どうしてですか!? 竜の牙の皆さんはとっても優秀で、お金に困っていないのも知っていますが……」

 ミーニャがそう私に聞いてくる。すると、隣の受付から私たちがよく知る人物が話しかけてきた。

「ちょっとちょっと、あなた達。本当にどうしちゃったの? なにか悩みでもあるなら私に相談してみなさいよ」

 彼女の名前はエリス。容姿は、金髪にストレートロングのお嬢様っぽい姿で、元貴族令嬢らしい。
 今はこの町でギルド職員を勤めていて、私たちが駆け出しの頃から、よく話し相手や相談相手になってくれる、よく知る友達。

 私たちはエリスに引退する理由を伝える。

「実は私たち、冒険者を引退して、ある方に仕え働くことにしたの」

「そうだな、これが終わったら宿に戻って、明日にはこの町を出て行く」

「ん、楽しみ」

 その言葉にエリスとミーニャ、その周りで見ていた者はとても驚く。
 そう言うアリアたちの表情が、すごく輝いて見えたからだ。
 あの普段は無表情、がデフォルトのシルヴィまでが笑顔なのは、周りの男女問わず多くの人がそのかわいさに胸を押さえた。

「そう……。ギルドマスターがいたなら、なんとしてでも止めようとしたし、私も説得したけど。……そんな顔見せられちゃ、もう私には止められないわ」

 エリスが苦笑しながら、そう言う。
 エリスは私たちからギルドカードを受け取り、ある魔道具にかざし少し待つと、引退登録が完了したのか、私たちにギルドカードが返ってきた。

「これであなたたちは、よ。でも、このカードを渡して再試験を受ければ、また冒険者に戻れるから、辛くなったらいつでも帰ってきなさいよ」

 エリスが目を潤ませて、私たちにそう伝える。

「ありがとね、エリス。それじゃ、私たちは引っ越しの準備があるから、またいつか会いましょう」

「ええ、いってらっしゃい」

 エリスが笑顔で言ってくれたので、私たちはギルドの入り口に向かって歩きだす。
 周りの冒険者からは惜しまれつつも、祝いの声やありがとうの声が聞こえてくる。
 ソルとシルがギルドの外に出て、私も出ようとすると、ミーニャが声をかけてきた。

「アリアさん! ソルさん! シルヴィさん! 新しい所でも頑張ってください! ……それでなんですけど、皆さんはどこで働かれるんですか? ヒントでも良いので教えて下さい!」

 その質問を聞いて、私の顔がこわばるのが分かった。

「こら! せっかく笑顔よく送り出そうとしたのに、詮索しちゃ悪いじゃない。……ごめんねアリア。ミーニャも悪気があったわけじゃないの」

「ええ、わかってるわ。でもごめんなさい、あなた達に言えない仕事なのは確かね」

「そう、ですか……」

 ミーニャが、耳をぺたんっ、と悲しそうにする。
 それを見た私は考えると、今までの友情に免じてヒントを忠告として教えることにした。

「そうね……。ただ1つだけ教えてあげる」

「は、はい!」

 ミーニャが嬉しそうな顔で返事をする。……ごめんなさいね。

「アリア、あなた……」

 冒険者達やエリスは、冒険者の勘なのか突然不穏な空気を感じて困惑する。

「私たちは、この町の近くで働くことになるの。……そして、それは私からのお願いと忠告よ。絶対にとある選択を間違えないことを薦めるわ。もし、間違えてしまったら、最悪、私たちはあなた達を殺さないといけなくなるから」

 私はおそらく怖い顔をして喋っているのだろう。
 彼女たちは、ひどく困惑や恐怖した顔をする。

「あ、アリアさん!? ど、どういうことなんです!? アリアさん!!」

「アリア……何があったの……?」

 私は2人の言葉を無視して喋り続ける。

「それじゃあね。できればあなた達とは戦いたくないわ」

 そう言うと、私は冒険者ギルドを出た。
 外で私の声を聞いていたソルとシルも、どうやら同じ思いと覚悟をしてたようね。
 ふぅ、この町とは争いたくないけど……。
 頼むわよ、エリス。みんな。


 私たちは、すぐにこの町を出ることにした。
 じゃないと質問攻めや、最悪引き止められると予想したから。

 幸い、私たちの荷物はそこまで多くなかったから、3人のマジックバックで事足りた。
 途中、看板娘のネネちゃんに引き止められたけど。また会おうと約束して、行かせてもらった。
 ……私たちは今日、長年過ごした思い出深い宿を引き払い、町の門を出てとある場所へ向かう。
 私たちの仕える、あの子のいるダンジョンへ。

 こうして1日ほど使い、早朝にあの子のダンジョンがある、コラク草原の端まで帰って来た私たち。
 さぁ、これからあの子のためにも頑張るわよ!



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