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第13話 心を許せる仲間

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「3人共。目を輝かせてるところ悪いけど、本来のダンジョンのことを忘れてない?」

 僕は真剣に語りかける。
 彼女達に現実を知ってもらうために。

「は? 本来のダンジョンだって?」

 ソルさんが間抜けな顔をする。シルヴィさんやアリアさんもよく分からないという顔をする。

「思い出してみてよ、君たちが今まで聞いたダンジョンってどんな感じだっけ?」

 そう言うと3人は考えだし、すぐさま真剣で苦虫を噛みつぶしたような顔に変化する。

「……ダンジョンは危険な存在で見つけたら直ちに冒険者ギルドに報告すること」

「……この国でも多くの人が、他の国もダンジョンによって相当な被害を受けたらしいわ」

「……魔物氾濫スタンピード、国の一大事」

「そう。ダンジョンは普通なら人類の敵だ、生物を魅力的なもので集め、それをダンジョン内のモンスターが殺しにかかる。放置していればダンジョンの限界量を越えて魔物氾濫スタンピードが起こり、村や町を襲っては絶望を撒き散らす。……間違っても、安全にお宝や資源が手に入る場所じゃない」

 3人は黙って僕の声に耳を傾ける。

「僕がたまたま人で、殺生が嫌いだったから良かっただけで、これが極悪人や犯罪者、……正直、元悪人やただ性格の悪いダンジョンマスターだったとしてもどうなっていたか……」

 それを聞いた彼女達は、顔を青ざめて震えだす。いかに自分達が軽率なことをしていたのかを実感したみたいだった。

「だから真剣に聞いてほしい。僕は人を殺したい訳じゃない。それでも、ここはダンジョンだから、様々な思惑や悪意がこれから先、たくさん降り注ぐと思う」

 震えながらも、真剣に聞こうとする彼女達。

「多分これから先、国や教会、ギルド。モンスターや人外と呼ばれる存在も動き出すと思います。僕はこの世界でたった一人のダンジョンマスターですから」

「僕は、3人に出会って、会話して、協力してほしいと思いました。しかし、それはそれは危険な道です。だから、僕は3人がこのまま町に戻り、冒険者ギルドに報告してもいいし、知らなかったことにして日常に戻るのもいいと思ってます。……時間はあるからよく考えてほしい」

 ……僕は目を閉じ、じっと待つ。彼女達がどんな選択をとったとしても、僕は気にしない。ただ、一緒に笑い会えるような関係になれたら……と思う。

「――決めたわ」

「――決めたぜ」

「――決めた」

 ……早いな、もう決まったのか。
 僕はあえて声を出さない、彼女達から答えを聞くまで。
 いや、声は出せないと言った方がいいか。それだけ、今の僕は緊張していた。

「「「私(俺)たちはあなた(あんた)に付いて行く」(ぜ)」(わ)」

「…………え?」

 聞こえた言葉に、思わず声が出る。

「本当に?」

 信じられない僕は、彼女達にもう一度聞いてしまう。

「もう! あなたに付いて行くって言ってるのよ。……全く、これから先が思いやられるわ」

 やれやれと肩をすくめるアリアさん。

「協力だなんて水くさいこと言うなよ! 俺らは今日初めて出会った中だが、それでもお前と話していていい感じだなって、思ったんたぜ」

 拳を此方へ向けて、笑いながら言うソルさん。

「……あなたに興味は尽きない。でも、この四人で一緒にいられたらった思うと、なんだか心がポカポカするの」

 これまでに、一度も表情を動かさなかったシルヴィさんが満面の笑みを見せる。……ま、眩しくて可愛すぎる!

「うわっ! シルの笑顔なんていつぶりかしら? ……いえ、そもそも、一度も見たことが無かった気がするわね」

 アリアさんがそう言うと、シルヴィさんの表情が元に戻る。……すごく可愛かったな。
 いやいやいや、それよりも!

「本当にそれでいいんですか!? もしかしたら全人類から敵認定されるかもしれないんですよ! 大勢の人から蔑まれて、狙われるかもしれない……!ダンジョンマスターに付いて行くとは、つまりそういうことなんですよ!?」

 別に協力関係だけだったならよかった。それなら、彼女達はいつバレたとしても、しらを切ったり、僕が突き放せば大丈夫だから。でも……仲間になってしまったら、もうそれは使えない……。

「いいよの、それで」

「え?」

 なぜ? 僕の心中はその気持ちでいっぱいだった。

「はぁー。これは私たちが自分で決めたことなのだから、あなたはただはい! って言えばいいのよ。危険? 全人類の敵? 私たちは冒険者よ! これから先、誰から、どんなことを言われようとも、私たちはあなたの味方でいると約束するわ」

「そうだ! 俺たちはまだ若い。だけどな、ちゃんと自分の意思を持っているんだ。お前は黙っていればよかったことなのに、自分に危害が及ぶとわかっていても、俺たちにダンジョンの危険性を教えてくれた。あれだけで、お前を信頼するには十分だったわけだ」

 二人がそう教えてくれる。言葉の一つ一つから二人の思いが伝わってきた。

「あなたは、一人じゃない。異世界からたった一人でこの世界に来て、ダンジョンマスターという全人類の敵になるなんて、私たちが許さない」

 3人は、考えた。もし、自分達がたった一人。誰も知り合いのいない異世界で人類全員から狙われたらと。それを考えた3人は、会って間もない自分達に真剣になってくれた相真を放っておくなんて選択肢は消え去っていた。

「「「それに何より、あなた(あんた)を放っておけない」」」

 ……知らず知らずのうちに、僕の目からは涙が零れていた。
 あぁ、そうか。僕は暇潰しだのゲームだの思っていたけれど。……それはただの強がりだったのか。
 この世界でやっていくと決めた時の言葉は嘘じゃないし、今でもそう思っている。
 でも、ダンジョンマスターになっても人間をやめても人間だった僕の心は、孤独を嫌がり、人を求めていたのか。だから、虚空に向かっていろいろ説明したり、サポートさんに話しかけたりもしていた。
 ……ありがとう。

「ありがとう。アリアさん、ソルさん、シルヴィさん」

「……そのアリアさんってのやめない?」

「はは、俺のことはソルでいいぜ!」

「シルでいい。さん付けはいらない」

「うん、わかった。それじゃあ僕もソーマでいいよ。改めてよろしく、アリア、ソル、シル」




 この世界に来て、相真は初めての仲間と出会った。
 アリア、ソル、シルヴィ。
 この出会いがどうなるかは、それこそ最高神のみぞ知るだろう。



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