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目的の地へ!

181 ヤヨイ

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 百八十一話  ヤヨイ


 深夜、皆が寝静まった頃。偵察に向かっていたイルレシオンが静かに窓から入ってくる。


 「あ、おかえり」

 『他の方はお眠りですか』

 「うん。もう遅いしね」


 ーー…ん?

 イルレシオンが窓の外を気にしている。


 「どうしたの?」

 『あの、ここではなんなのでついてきていただけますか?』

 「え、あ、うん。分かった」


 私は皆を起こさないよう静かに部屋を出て、イルレシオンの後ろをついていく。


 「ーー…どうしたの?」

 『来ていただければ分かります』


 宿を出た私たちはやがて少し離れた場所にある廃屋のような場所に行き着く。


 「それでイルレシオン、ここに何がー…」


 ーー…ガサッ


 「ーー……!!??」


 廃屋の中からわずかに音がしたので私は覇王ミルキーポップを反射的に音のした方向へと向ける。


 『ナタリー様、大丈夫です。ーー…その、出てきてください』


 イルレシオンが優しめの口調で話しかける。
 

 「ーー…はい」


 「ーー…!!」


 そこから出てきたのは黒髪ボサボサのショートカットで茶色いボロボロの布を纏っただけの女の子。
 見ただけでわかる。かなり衰弱している状態だ。

 
 「あの…君は?」


 『この子は私がヤマタイ国探索中に見つけました。周囲に潜む者たちとは明らかに雰囲気が違っていましたので』

 
 「君、お名前は?」

 「ーー…ヤヨイ」


 私はヤヨイと名乗る女の子に向けて回復魔法【天使の口づけ】を発動。みるみると体中についていた切り傷やアザのようなものが綺麗に消えていく。


 「ーー…この力、、…魔…王?」

 「え?」


 私はヤヨイが意味深なことを口にしたので聞き返そうとしたのだがー…。


 「……スピー」


 「ーー…え?」


 傷や痛みが治って安心してしまったのか、ヤヨイはその場で眠りに落ちてしまった。



 ◆◇◆◇



 朝、ヤヨイを宿に連れて行き朝食を摂らせているとヒミコが目を擦りながら起きてくる。


 「あぁ! おはようございますヒミコ様!!」


 おばさんがヒミコに頭を下げながら席へと案内。やたら豪華な食事がヒミコの前に並ぶ。


 「もー、みーちゃん朝からこんなに食べれないよおー!」


 ヒミコが頬を膨らませながらお腹に手を当てる。


 「ーー…え?」


 その声にヤヨイが反応。ゆっくりとヒミコの方に視線を向ける。


 「ーー…ヒミコ…ちゃん?」

 「んー??」


 ヒミコもヤヨイの声に反応。豪華な食事からヤヨイに視線を移した。



 「ーー…え、ヤヨイちゃん?」

 「ヒミコちゃん!!!」


 ヤヨイが勢いよく席を立ち、ヒミコのもとへ。


 「ヒミコちゃん!! よかった!! 無事だったんだね!!」

 「うん! みーちゃん元気だったよ! ヤヨイちゃんも無事だったんだ、よかった!」


 「ヤ…ヨイ…さま?」


 2人の声を聞いていたおばさんが持っていたお皿を床に落とす。


 「ーー…え、大丈夫ですか?」


 「ヤ、ヤヨイ様まで!! ヒミコ様同様ご無事だったなんて!! こんなお姿になられて!! 今お風呂の用意をしてまいります!!!」


 おばさんが慌てた様子で奥へと消えていく。


 「あのー、ヒミコちゃん? ヤヨイちゃんとはどういう…?」


 「えっとねヤヨイちゃんは、みーちゃんの友達!」


 ヒミコの言葉にヤヨイが私を見上げながら頷く。


 「そうなんだ」

 「そうだよ! それでね、ヤヨイちゃんは退魔師っていう珍しい力を持ってるんだよー」


 余程友達と再会できたことが嬉しかったのだろう。ヒミコは眩しい笑顔を私に向けた。

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