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古代遺跡

130 イルーナ式

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 百三十話  イルーナ式


 「あぁ!! 恥ずかしいですわ! 穴があったら入りたいですわ!!」


 ホーリー研究所内の一室。ベッドの上で横になっているウルゼッタが顔を赤くしながら薄い掛け布団に身を隠す。


 あのあとウルゼッタは【神の聖水】により意識を取り戻し、その後幼児化モードを解除したツクヨミがイルレシオンとともに最下層へ。スキル【飛翔】を使って上まで引っ張ってもらったのだ。
 ウルゼッタは体力こそ回復したものの、なぜか体の調子が優れないらしくこうして横になっている。


 「あぁ…生きていたのは嬉しいのですが…どうして私はナタリーにあんなことを言ってしまったんでしょう!」


 そう、それは私を結界から出す術がないと悟り自分も死のうと覚悟そた時の私に向けてのウルゼッタの言葉。

 
 ー…私が何かを成し遂げたいと思った時、力になるその日まで絶対一緒にいる…ー


 「でも私は嬉しかったよ?」

 「そうだとしても言った方は恥ずかしいんですの!! 」


 ウルゼッタが掛け布団から真っ赤な顔をヒョコッと出す。



 そんなウルゼッタがあまりにも可愛くて私は上から抱きしめた。

 
 「な…なんですの!?」

 「あー! もうウルゼッタ大好き!!」

 
 抱きついただけでは物足りなかった私は周りに誰もいないことを確認した後、ウルゼッタの唇にキスをする。


 「ー…!! んんっー…!?」


 はじめは体全身に力の入っていたウルゼッタだったが、次第に力が抜けていく。


 「ー…ぷはっ、もう…どうしたんですの? 今日のナタリーなんか積極的ですわ。」


 ウルゼッタが少し戸惑いながら下から手を伸ばして私の唇に人差し指を当てる。


 「だって嬉しかったんだもん。あの言葉聞いて私…ずっとウルゼッタと一緒にいたいって思ったよ?」

 「ナタリー……。」


 お互いに見つめあったまま時が流れる。
 何も言葉を発していないけど幸せな時間ー……。


 『お二人とも。そろそろよろしいでしょうか。』


 沈黙を破ったのはイルレシオン。
 気づけば私たちの真横で飛んでいた。


 「え! イルレシオン!?」

 「い…一いつからいたんですの!?」


 『最初からおりました。あまりにもお二人がただならぬ空気を醸し出していたため、イルレシオン…空気を読んでいたのでございます。』


 あまりにも恥ずかしい台詞を淡々と語るので私とウルゼッタは顔を見合わせてクスリと笑った。


 「ごめんねイルレシオン。ウルゼッタに用があるんでしょ。いいよ。」


 私はウルゼッタから離れてそのまま同じベッドに腰掛ける。


 「私になんか用ですの?」

 『はい。ユニゾニアのことをしっかりと説明できていなかったもので。』

 「あー、聞いたところによるとあなたが私の中に入って戦って下さったのでしたよね。感謝いたしますわ。」

 
 「うん! 本当にすごかったよ! 石像たちをあっという間にやっつけちゃってたもん!」


 『そのことなのですが。』


 イルレシオンはウルゼッタの寝ている枕の上に着地。静かにウルゼッタを見据える。


 「ーー…なんですの?」

 『ユニゾニアですがあれは主人様がピンチの時以外は許可なさらぬようお願いいたします。』


 イルレシオンは深く頭を下げる。


 「なんでです? そのユニゾニアを使えば一気に強くなるんでしょう?」

 『主人様の身体が持ちません。』

 「私の身体が…?」

 『この際です。皆様は古代イルーナ文字をお読みになられないようなので簡単に説明いたします。』


 こうしてイルレシオンは機械人形のことを説明し出した。



 ___________


 
 機械人形は遥か昔、イルーナとその周辺諸国で誕生した奇跡の産物。
 人ではないという観点から人々は機械人形をまるで家政婦のように扱い日々を楽して過ごしてきた。


 その後、時代の流れにより機械人形も戦争に参加ー…戦うようになる。
 はじめは物資調達などの任を任されていたがいつしかその役割はサポートから前線へ。

 いかに高火力で敵を殲滅できるか。いかに敵からの攻撃から仲間を守ることができるか。

 そういうことに重きをおいた研究者たちは攻撃型機械人形と防御型機械人形の製作にかなりの時間を費やしていた。

 しかしやがては天井を迎える。

 壊れて動かなくなった機械人形を敵国が持ち帰り中身を分析。これによりどの国の機械人形も最高の力を手に入れていったことにより戦力が均衡し、国はまだ見ぬ新しい機械人形の製作に明け暮れた。

 そんななか当時のイルーナが作り出したのがイルーナ式機械人形だったのだ。


 イルーナ式は他の機械人形と違ってかなり特殊。
 個体の力はそこまで強くない代わりに人体と合体ー…ユニゾニアすることによりその能力を発揮できる作りにしたのだ。
 なので仮に敵国に持ち帰られても強さの秘密は不明のまま。
 圧倒的な力を手に入れたイルーナはそのまま国土を広げていき、かなり大きな大国を築きあげたに至った。


 しかしすぐにその時は訪れる。


 ユニゾニアを駆使して戦っていた戦士たちの身体が言うことを聞かなくなってしまったのだ。
 調査の結果、急激なパワーアップに人間の体が耐えられなかったことが原因とのこと。
 
 戦士をなくしてしまっては本末転倒。
 研究者たちはこのイルーナ式機械人形を禁忌として封印。今後のことを見据え、稼働しているイルーナ式は全て処分されたのだった。
 
 
 ___________


 
 『そして私こそがその禁忌として封印されたバージョンアップされていたイルーナ式の最新モデル・イルレシオン。』



 イルレシオンはそれまでのイルーナ式機械人形と比べても強さは圧倒的。
 しかしその分ユニゾニアした際、人間に多大な負荷をかけてしまうー…とのことだった。


 「ーー……。」


 なんて重い話なんだ。
 ウルゼッタなんかその言葉を聞いて固まってしまっている。


 『初めのうちに説明するべきでした。怠ってしまい申し訳ございません。お怒りが収まらないようでしたら私を破壊してくれても構いません。』


 イルレシオンが再び頭を下げる。

 
 ウルゼッタはゆっくりと上半身を起こしお腹を押させる。
 そしてー…。


 「なんか難しすぎて頭を使っていたらお腹すきましたわ。何か食べに行きましょう。」

  
 「ーー…ん?」


 「ほらナタリーにイルレシオン、行きますわよ。」


 ウルゼッタは少しフラつきながらも立ち上がり部屋を出る。


 『あの、ナタリーさんでしたか。主人様、私の説明を聞いていらっしゃいましたよね?」


 イルレシオンの無表情の顔からも困惑がうかがえる。


 「まぁお腹空いたって言ってるんだし、とりあえず行こうよ。」


 この後のウルゼッタはすごかった。
 本当にお腹が空いていたんだろう。ラーメンにオムライス、デザートにパフェとケーキ…すごい量の食べ物を美味しそうに平らげていった。

 これもイルレシオンに対する気遣いだったんだろう。 
 私の中でのウルゼッタへの好感度がまた上昇した。
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