誰とでも寝る黒ギャルビッチな彼女が僕の『彼女』になるまで

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第四話

夏の始まりは官能的だ4

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「何すんだてめぇ!!」
「──ぅごッ!?」
「楠ッ!?」

 すぐさま返された拳が腹部に突き刺さる。
 痛みが走り、呼吸が止まり、初めて自分のした行動に気が付いた。
 無意識の内の行動。
 俺、今人を殴ったのか?

「調子に乗りやがって、このクソガキッ!!」
「ぅ、がッ、あ……あ゛ッ!!」
「もうやめて! 楠を殴らないで!」

 何度も殴られる俺を、茜が前に出て止める。
 だが、男は彼女の身体を突き飛ばし、再び攻撃を続けた。

「うるせぇ、どけよクソビッチ!」
「キャッ!!」
「お前……また言ったなぁぁぁぁぁああッ!!」
「ぐぁッ! こ、このッ!!」

 まただ、また俺の拳が勝手に動いた。
 一撃加える度、数倍の力で返ってくる。
 どうして、俺は殴った? 人なんて、殴ったことないのに。
 もう止めろって、身体も鍛えてなくて、喧嘩したこともない俺が勝てるわけないだろう。
 あぁ、また殴った。殴られた。殴った。殴られた、殴られた。
 徐々に痛みが無くなっていく。感じなくなっているのか。
 心と身体が剥離している。
 死ぬぞ、このままじゃ……本当に、そろそろやめた方がいい。

 自信がないんだろ? 茜を満足させる自信が。
 相応しくないと思っているんだろ? 自分自身で。

「お前は、何もっ……茜の何もッ……分かってないッ!!」
「彼氏面かよ……気持ちわりぃんだよッ!!」
「俺の事は……どう言おうが構わない……けど、けど──」

 あッ、わかった、そういうことか。

「茜を悪く言うことだけは、絶対に許せないんだぁぁああ!!!」

 顔を両手で守り、タックルで男の押し倒す。
 そして、拳を振り下ろそうとした時に、逆に身体を入れ替えられてしまった。

「この、うがッ! しつこいんだ、よッ!!」
「あ゛ッ!? ぐッ……謝れ、茜に……ちゃんと謝れよッ!!」

 膝で背中を蹴り、怯んだ隙に馬なりで殴る。
 けど、直ぐに同じ方法で返され、また殴られた。
 でも俺も、諦めずにもう一回、もう一回。
 地面を転がりながら、がむしゃらに攻撃を続けたのだ。

 はは、気が付いてしまえばこっちのもんだ。
 全部わかった、俺の気持ちも全部。
 痛みを感じない程、アドレナリンが出ちゃってる。
 これ以上やったら、マジで死ぬんだろうな。
 でも、彼女を馬鹿にするやつに一矢報いた。満足だ。
 唯一心残りがあるとしたら──

「ぅ、あ……くッ、この! このッ!!」
「謝れっ……ぁ、ぁやま……れ、よっ」
「はぁ、はぁ、クソッ、ゾンビかよ……付き合ってられっか。そんなクソビッチ、くれてやるッ!!」
「待てっ……ちゃんと、あやま────」

 走って逃げようとする男に手を伸ばす。
 だが、その瞬間に頭の中でプツンと何かが切れる音がした。
 全身から力が抜け、顔面から倒れてしまう。
 視界が徐々に暗くなり、闇に飲まれていく。

「──き──すの──楠ッ、ねぇ、起きて──の──」

 嬉しいな、俺の名前を全力で呼んでくれた。
 そんな幸福感の中、意識は完全に途切れた。
 
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