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第四話
夏の始まりは官能的だ2
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☆☆☆
スキップしながら前を歩く茜。
ご機嫌な背中を見ながら、俺はまだ今朝クラスメイト達から言われた事を考えていた。
「ふふん、あの店も中々美味しかったね!」
「あぁ、そうだな……」
放課後、彼女と立ち寄った新しいカフェ。
お洒落な店内にも入り慣れ、緊張することはなくなっていた。
しかし、結局今日も味が分からなかった。
目の前でニコニコしてる彼女を見ていると、心が騒ついた。
「もー何かリアクション薄くない?」
こちらに振り向き頬を膨らませながら問いかけて来る茜。
「いや、そんなことないよ」
「美味しくなかった?」
「美味しかった美味しかった」
「心がこもってない! ほんと、楠って隠し事苦手だよね」
「か、隠し事なんてしてないぞ!?」
「ほら、そーやって狼狽えるところとか」
「ぅ……でも、本当に隠し事とかじゃない」
「じゃあ、何?」
──聞きたい事がある。
とは、素直に言えなかった。
茜が言えるようになった時、自分から教えてくれると言ってたから。
「……別に、なんでもない」
「そっか」
茜も、あの日の事があるからか深くは詮索してこなかった。
なら気にしない、と言わんばかりに正面を向き再びスキップを始める。
友達にはなったが、まだ俺達の間には溝がある。
彼女に秘密があるから……だけじゃない。
一つ気持ちに整理がついたら、また一つ俺の気持ちに変化がある。
むしゃくしゃして、苛々して、モヤモヤする感情。
どうしたらいいのか自分でもわからなくなってしまうのだ。
「楠、なら私はここで」
この道を右に曲がれば彼女の家、左に曲がれば俺の家へ。
ここで別れ、次の日学校で会う、というのがいつもの流れだ。
けど、なんだか今日はもう少しだけ彼女と一緒にいたいと思った。
「家まで送ってくよ。時間も時間だし」
「え、まだ明るいから大事だよ」
「……それでも、女の子一人は危ない」
「心配してくれるのは嬉しいけど……あ、まさか私の家を特定する気!?」
「なら、バレない程度まででいい。近くまで送らせてくれ」
「ほんと、今日はどうしたの?」
「ん……駄目なら、いいんだが……」
あぁ、あの日茜が行為をするわけじゃなく一緒に寝たいとお願いした意味が少しだけ分かった。
人は不安になると一人が怖くなって、誰かと一緒にいて欲しくなるんだ。
「ごめん、変な事言った。忘れてくれ」
「ん~……」
「それじゃあ、また明日学校であ──」
「途中までなら、大丈夫かな……うん、楠様に送ってもらいましょうか!」
「え、いいのか?」
「いいよ、私も楠ともう少し一緒にいたかったしさ」
「……っ、ありがとう」
何故か彼女の優しい言葉にも素直に喜ぶことができない。疑心暗鬼とでもいうのだろうか。
自分からお願いしておいて、相手が受け入れてくれれば不満に思う。
矛盾した感情、わがままの極みだ。
「でも、一緒に帰るからには暗いのは無し! わかった?」
「おう、分かった。必ずや無事、家まで送り届けてみせましょう!」
「よろしいッ!」
これ以上、負担を掛けさせるわけにはいかない。
俺は全力で笑顔を買いに張り付けたまま、茜の隣を歩いた。
「明日はどこいこっかー?」
「そうだなぁ……行きたいところは一通り行ったしな」
「日御碕灯台でも行く?」
「なんであんなところに、面倒だろ」
「なんか青春って感じで、よくない? 海見に行くとかさ」
「分からんでもないが、もうすぐ夏休みなんだし、その時にしない?」
「──ッ、確かに!!」
そう、今月は6月。もう少しで楽しい楽しい夏休みの始まりだ。
「こんなに楽しみな夏休み、初めてだよ!」
「あぁ、俺も茜と全く同じ、すげぇー楽しみ」
「私達、どっちも同性の友達いないもんね。あ、林檎ちゃんがいた!」
「そうだ、林檎も誘って三人で行くのもありだな」
「人数がいればいる程楽しいもんね。バーベキューとかもしたいかも」
「親父が道具一式持ってたはずだから、聞いてみとくよ」
「やった! 思いでいっぱい作ろうね!」
長期休暇の予定組に夢を膨らませる。
楽しみ、という気持ちに嘘偽りはなかった。
でも、それまでのところでこのモヤモヤは消しておかなければならない。
「ねぇ、楠」
「ん、どうした?」
「私も、夏休みの入るまでには全部話せるように頑張るから、楠も、全部私に教えてね」
「……約束する」
俺は彼女の問いかけに、しっかりと頷いた。
どうやら、モヤモヤを感じていたのは俺だけじゃなかったみたいだ。
お互いに考えてる事は同じ、か。
そう思うと、心が軽くなった気がした。
今日、明日で解決する必要はないんだ。夏休み、その時までにちゃんと整理をつけよう、と、決意した。
──だが、運命は悠長な時間を与えてくれない。
「久しぶりだなぁ、夏希~」
「──ッ!?!?」
聞きなれない男の声が聞こえた瞬間、茜の方がビクっと跳ねた。
振り向かない彼女の代わりに後ろを向くと、そこには金髪で明らかにちゃらちゃらした人がこちらに近づいてきていたのだ。
スキップしながら前を歩く茜。
ご機嫌な背中を見ながら、俺はまだ今朝クラスメイト達から言われた事を考えていた。
「ふふん、あの店も中々美味しかったね!」
「あぁ、そうだな……」
放課後、彼女と立ち寄った新しいカフェ。
お洒落な店内にも入り慣れ、緊張することはなくなっていた。
しかし、結局今日も味が分からなかった。
目の前でニコニコしてる彼女を見ていると、心が騒ついた。
「もー何かリアクション薄くない?」
こちらに振り向き頬を膨らませながら問いかけて来る茜。
「いや、そんなことないよ」
「美味しくなかった?」
「美味しかった美味しかった」
「心がこもってない! ほんと、楠って隠し事苦手だよね」
「か、隠し事なんてしてないぞ!?」
「ほら、そーやって狼狽えるところとか」
「ぅ……でも、本当に隠し事とかじゃない」
「じゃあ、何?」
──聞きたい事がある。
とは、素直に言えなかった。
茜が言えるようになった時、自分から教えてくれると言ってたから。
「……別に、なんでもない」
「そっか」
茜も、あの日の事があるからか深くは詮索してこなかった。
なら気にしない、と言わんばかりに正面を向き再びスキップを始める。
友達にはなったが、まだ俺達の間には溝がある。
彼女に秘密があるから……だけじゃない。
一つ気持ちに整理がついたら、また一つ俺の気持ちに変化がある。
むしゃくしゃして、苛々して、モヤモヤする感情。
どうしたらいいのか自分でもわからなくなってしまうのだ。
「楠、なら私はここで」
この道を右に曲がれば彼女の家、左に曲がれば俺の家へ。
ここで別れ、次の日学校で会う、というのがいつもの流れだ。
けど、なんだか今日はもう少しだけ彼女と一緒にいたいと思った。
「家まで送ってくよ。時間も時間だし」
「え、まだ明るいから大事だよ」
「……それでも、女の子一人は危ない」
「心配してくれるのは嬉しいけど……あ、まさか私の家を特定する気!?」
「なら、バレない程度まででいい。近くまで送らせてくれ」
「ほんと、今日はどうしたの?」
「ん……駄目なら、いいんだが……」
あぁ、あの日茜が行為をするわけじゃなく一緒に寝たいとお願いした意味が少しだけ分かった。
人は不安になると一人が怖くなって、誰かと一緒にいて欲しくなるんだ。
「ごめん、変な事言った。忘れてくれ」
「ん~……」
「それじゃあ、また明日学校であ──」
「途中までなら、大丈夫かな……うん、楠様に送ってもらいましょうか!」
「え、いいのか?」
「いいよ、私も楠ともう少し一緒にいたかったしさ」
「……っ、ありがとう」
何故か彼女の優しい言葉にも素直に喜ぶことができない。疑心暗鬼とでもいうのだろうか。
自分からお願いしておいて、相手が受け入れてくれれば不満に思う。
矛盾した感情、わがままの極みだ。
「でも、一緒に帰るからには暗いのは無し! わかった?」
「おう、分かった。必ずや無事、家まで送り届けてみせましょう!」
「よろしいッ!」
これ以上、負担を掛けさせるわけにはいかない。
俺は全力で笑顔を買いに張り付けたまま、茜の隣を歩いた。
「明日はどこいこっかー?」
「そうだなぁ……行きたいところは一通り行ったしな」
「日御碕灯台でも行く?」
「なんであんなところに、面倒だろ」
「なんか青春って感じで、よくない? 海見に行くとかさ」
「分からんでもないが、もうすぐ夏休みなんだし、その時にしない?」
「──ッ、確かに!!」
そう、今月は6月。もう少しで楽しい楽しい夏休みの始まりだ。
「こんなに楽しみな夏休み、初めてだよ!」
「あぁ、俺も茜と全く同じ、すげぇー楽しみ」
「私達、どっちも同性の友達いないもんね。あ、林檎ちゃんがいた!」
「そうだ、林檎も誘って三人で行くのもありだな」
「人数がいればいる程楽しいもんね。バーベキューとかもしたいかも」
「親父が道具一式持ってたはずだから、聞いてみとくよ」
「やった! 思いでいっぱい作ろうね!」
長期休暇の予定組に夢を膨らませる。
楽しみ、という気持ちに嘘偽りはなかった。
でも、それまでのところでこのモヤモヤは消しておかなければならない。
「ねぇ、楠」
「ん、どうした?」
「私も、夏休みの入るまでには全部話せるように頑張るから、楠も、全部私に教えてね」
「……約束する」
俺は彼女の問いかけに、しっかりと頷いた。
どうやら、モヤモヤを感じていたのは俺だけじゃなかったみたいだ。
お互いに考えてる事は同じ、か。
そう思うと、心が軽くなった気がした。
今日、明日で解決する必要はないんだ。夏休み、その時までにちゃんと整理をつけよう、と、決意した。
──だが、運命は悠長な時間を与えてくれない。
「久しぶりだなぁ、夏希~」
「──ッ!?!?」
聞きなれない男の声が聞こえた瞬間、茜の方がビクっと跳ねた。
振り向かない彼女の代わりに後ろを向くと、そこには金髪で明らかにちゃらちゃらした人がこちらに近づいてきていたのだ。
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