誰とでも寝る黒ギャルビッチな彼女が僕の『彼女』になるまで

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第三話

雨の日は官能的ではない3

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 玄関の扉を開けるや、驚いた顔の林檎が出迎えてくれる。

「おにぃどうしたの? って、夏希さん!?」
「こ、こんばんわ……」
「林檎、タオル貸してくれ。後、風呂だ」
「えッ、お風呂!?」
「了解、ちょっと待っててね」

 状況を直ぐに理解し、お風呂を沸かし始める。
 俺はそのまま彼女の手を引き、家の奥へと連れて行った。
 握った手が凄く冷たい。
 濡れてた時間は数分レベルじゃないな。

「茜さん、そっちが洗面所だから濡れた服脱いで洗濯機に入れといて」
「い、いゃ、でも……」
「いいから、このままだと風邪ひいちまうだろ! 林檎、ちょっと頼めるか?」
「いいよ~、後は私に任せて。さ、夏希さん、こっちきて」
「あ、うん……」

 頼れる妹に後は任せ、俺はキッチンに向かった。
 何か温かい物をと思い、コーンポタージュと味付け済みの肉を焼いておく。ご飯は炊いてあるみたいだ。
 そうして飯の準備をしていると、洗面所から林檎がでてきた。

「おにぃ、夏希さんはシャワーを浴びてるよん」
「ありがと、林檎。面倒掛けた」
「全然。でも何があったの?」
「あぁ、それは──」

 俺は今日の出来事を林檎に話した。
 茜さんがずっと学校を休んでいたこと。
 それが気になって探しにいったら、家の近くの公園でびしょ濡れ状態で立っていたこと。
 林檎は少し考えると、俺に問いかける。

「周りに誰もいなかったの?」
「一人だったよ、平日夜の公園だしな」
「いや、でも……なんで制服だったんだろ。学校、ずっと休んでたんでしょ?」
「分からん。何か事情があるのは間違いないだろうが……」
「聞くんでしょ、今日。おにぃ、かなり茜さんにお熱みたいだし」
「やっぱり噂になってた?」
「早かったよー私の耳に届くまで。『林檎ちゃんのお兄さんが、茜って女に騙されてる』って」
「……悪いな、お前にまで変な噂に巻き込んで」
「大丈夫、『夏希さんの事何も知らないくせに、適当に悪く言うな』って一喝しといたから」
「相変わらず強いな、お前は。羨ましいよ」

 俺も林檎のような性格だったら、男子生徒達の猥談を否定することができたかもしれない。

「まぁ、私の場合はクラスも違うし、大きく関わってないから言えるんだよ。おにぃみたいに頭もよくないしね」
「そうか? 頭は大して変わらんだろ。問題は、勇気があるかどうかだよ」
「だったらおにぃも勇気出さないとね。火、見とくからご飯よそって」
「了解しました」

 肉を焼いていたフライパンを林檎に渡し、俺はご飯とお茶をテーブルに並べていく。そして、晩御飯の準備が全てできた時、茜さんが恐る恐る浴室から姿を現した。

「あの……お湯、お借りしましたぁ……」
「あ、夏希さん。温まった?」
「うん、ありがとう。服まで貸してもらって」
「ネットで間違えて買った大きめの服が、まさかこんなとこで役に立つなんてね。制服は乾燥器に入れておいたから、直ぐ乾くと思うよ」
「茜さん、ご飯食べてないならこれ、準備しといた」
「ぃ、いや、そんな……何から何まで……」
「遠慮せずに、ささっ、座って座って!」

 林檎は彼女を無理矢理座らせると、強引に箸を握らせる。
 いつもの活気な感じとは違い、借りて来た猫のようにおとなしい。
 しっかりとお礼を言えたり、遠慮したりする当たり、育ちがいいのかもしれない。

「楠、ほんと、ここまでしてもらって……」
「もしかして、もう晩御飯食べてた?」
「まだ食べてないけど……」
「じゃ、三人で一緒に食べるか。な、林檎」
「もう準備しちゃったし、それに今日はお父さんもお母さんもいないから、夏希さんがいてくれると私も嬉しいな」
「……ありがとうございます。なら、いただきます」

 そうして、ようやくと食事に手をつけてくれた茜さん。
 続いて俺達も合掌し、三人の夕食が始まった。
 談笑していくうちに彼女も緊張が解けていき、徐々に笑顔がこぼれ始めた。
 林檎はあえて、話題をゴシップネタやファッションの話にしてくれている。
 学校の話題を出して、雰囲気を悪くしないように。

「夏希さん、やっぱ色々詳しいなぁ~ねぇ、今度私とも一緒に服見にいきませんか? コーディネートしてくださいよ!」
「うん、いいよぉ~茜さんに任せなさいッ!」
「やったぁー! おにぃも一緒に服選んでもらえば?」
「俺はいいよ、別に。ウニクロの無地Tだけあれば」
「ダメダメ~だって、夏希さんと付き合ってるんでしょ?」
「──ッ、おま……わかってて……」
「真一くん、私の隣を歩くなら少しはオシャレになってもらわないとね!」
「……はいはい、わかりましたよ。じゃあ、次の休み、皆で行こう」
「やったー! じゃあ、我が家の『お礼先払い制度』を実行しないとね、おにぃ?」
「お礼先払い制度……? ん、そうだな、使わないとな」
「林檎ちゃん、もう充分にお礼は貰ったよ?」
「まだです! 夏希さん、今日は夜も遅いから家に泊って下さい!」
「「────ッ!?!?」」

 俺と茜さん、同時に言葉を失う。
 多分、表情も全く一緒だったと思った。

「泊るって……林檎、お前」
「お父さんがいれば家まで送ってもらえたけどさ。夏希さん、迎えとか呼べるんですか?」
「いや、それは……ちょっと、難しいかな……」
「おにぃ、なら泊ってもらうのが一番なんじゃない?」

 ……確かに、林檎の言う通りだ。
 茜さんの言い方的に、家が近いわけでもなさそうだし。
 どうせなら、泊って行ってもらった方がいいか。

「茜さん、せっかくなら嫌じゃなきゃ泊ってけよ」
「でも……」
「俺もその方が安心だし、できるなら泊って欲しいけど」
「──っ……そう、か……わかった」
「決まりだね! 寝る場所準備するから、夏希さんはおにぃと一緒に部屋で待ってて」

 そう言うと林檎は食器を片付け、和室へと向かった。
 俺も手伝おうと立ち上がると、こっちを見てウインクで返される。
 あぁ、なるほど、そういうことか。
 ……ありがとう、林檎、恩に着るよ。

「じゃあ、後は林檎に任せて。茜さん、俺の部屋に来ない?」
「あ、うん……行く」

 顔を赤らめ、小さく頷くと彼女も立ち上がり俺の後ろについてくる。こうして、俺と茜さんは同じ部屋で一時を過ごすことになったのだ。
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