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本家本元

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 ☆☆☆

 淫夢の中に入ることは、当然初めてではない。
 けれど今回目を開いた時、辺りの景色は見たことのないものだった。
 暗い闇とは正反対の、どこまでも続く真っ白な空間。
 その中でポツンと木造建築の家が置かれている。
 手作り感のある、木材を張り合わせた簡単なもの。

「様子が違う……でも、あの家は確か」

 いつもと違う雰囲気、でも、あの家は見たことがある。
 俺とメメが死に、手を合わさた時に連れてこられたメメの淫夢。
 そこで見たことのある家だった。
 あのステータスの中から声の主を探すつもりだったけど、もしかして導かれた?

「考えても仕方ないか。家があるんだ、中に入ってこいってことだろう」

 夢の中だから魔力も、身体も、右腕だって元通り。
 仮に戦闘になったとしても戦う準備はできている。
 俺は歩みを進め、家の正面に備わっている扉を開いた。

「お邪魔します」
「果報は寝て待てとは良く言ったものだ。そうは思わないかい、君も」

 殺風景な一室の中心に置かれた椅子。
 そこに座る一人の女性が顎肘を付き俺のことをジッと見つめていた。
 真っ白で腰まで伸びた長い髪。
 その髪色に相反するように焼けた小麦色の肌。
 へそが見えるノースリーブのシャツと短いひらひらのスカートと露出の激しい格好をしており、上着は腰に巻かれていた。
 奇抜な格好ではあるが、容姿に関しては完璧。
 丸く大きな黒い瞳、伸びた鼻筋、豊満な胸に細いクビレ、張りのあるお尻。
 わずかに見える八重歯が特徴的な、美しい人だった。

「貴女が俺を呼んだのですか?」
「ああ、いやいや、そんな硬い口調じゃなくていいよ。お世話になってるみたいだし」
「お世話に?」
「ちょっと失礼」

 彼女は白髪を揺らしながら立ち上がる。
 思ったよりも高い背丈。
 俺の前まで歩み寄り、見下ろすと顔を近づけジロジロと見てきた。

「なるほどぉ~中々良い顔つきしてるねぇ、昔の自分を見てるみたい」
「貴女は一体、何者なんですか……?」
「ん、気になるなら見てみればいいじゃん、ステータス」
「……じゃあ、遠慮なく」

 この女性の正体を知るには、確かに自分で見たほうがてっとり早い。
 俺は言われた通り、彼女に視線を向け、スキルを発動した。

 ===========

 名前:?????????
 種族:?????????
 性別:?????????
 状態:?????????
 スキル:?????????
 HP:?????????
 MP:?????????
 攻撃:?????????
 防御:?????????
 速度:?????????
 魔法:?????????

 ※裏

 ===========

「えッ……ステータスが──」
「全然見えないっしょ? あはは、そうだと思った」

 全ては?で表示されており、裏も同様な状態だった。
 それを分かっていたように彼女は腹を抱えて笑う。
 馬鹿にされているような、おちょくられているような。
 緊急事態に茶化され、イラッとした。

「分かっていたのなら言わないでください。俺には時間がないんです」
「ここは夢、精神世界の中、時間はまだ大丈夫でしょ」
「単刀直入に聞きます、答えてください、貴女は化け物の中の一人ってことですよね」
「そう、というよりも私が化け物の核って感じかな」
「核、つまり……」
「アタシを倒すことができれば、化け物は完全崩壊するってこと!」
「だったら、身勝手だけど俺は貴女を──」

 俺は彼女の腕を掴み、押し倒そうとする。
 化け物がどんな生物なのか理解できているわけじゃない。
 弱点が自らを弱点と語り眼の前にいるのだ。
 コイツを犯し、堕とすことができれば事態は解決する。
 だから早急に性行為を始めようとした。

「強引なの、嫌いじゃないけど。淫魔としての経験が少なすぎるかな!」
「うぇッ!? う、うがッ!」

 掴みかかった手を絡み取られ、背負投げされてしまう。
 床に叩きつけられると、直ぐに彼女は背中の上に乗り腕を後ろに回し拘束した。

「い、いてててッ!!」
「これで動けないでしょ、夢の中だからって油断したね」
「く、俺の淫夢の中のはずなのに、どうして……力負けする」
「夢を自在に操る淫夢、でも、その支配権を奪われていたとしたら、どうする?」
「まさか、貴女も淫魔じゃ……」
「それは不正解、ただ真似させて貰ってるだけだよん」
「真似って、簡単に言う」
「見ての通り、アタシはちょっとばかし特殊でね。でも、アンタに助けてもらいたいと思ってる」
「助け?」
「この世界からアタシを脱出させて欲しいのさ」
「これだけの力があるなら、一人で出ることができるでしょうに」
「できないんだよ、そういう契約だからね」
「……とりあえず、話を聞かせてもらえないですか?」

 もし仮に、彼女の言う通り淫夢を掌握されているのであれば実力行使は不可能。
 俺の問いかけに「いいよ」と返事を返すと、腕を離してくれた。

「ま、立ち話も難だし、こっちに来なよ」

 そう言って連れてこられたのは家の奥にある狭い部屋。
 柔らかい綿が詰められた布袋があり、その上にあぐらを掻く謎の女性。
 俺も対面するようにして、布袋に座る。

「それは座布団っていうんだ、この世界では見ないだろ」
「座布団……この世界って、どういうことだ?」
「色々語るべきことは多い。アタシの名前は桜木 涼子、アンタは?」
「……ケイオス、ケイオス・ヘルム」
「へえ~いい名前だね、ケイくん」
「……馴れ馴れしくないか?」
「ギャルは馴れ馴れしいもんだって相場が決まってるっしょ?」
「ギャル? 人間じゃないのか……?」
「種族の話じゃなくてさー。まぁいいや、ケイくんもアタシのことは涼子って呼んで、後敬語禁止」
「わ、わかった……」

 一方的に話を進めていくギャルに翻弄されてしまう。
 このグイグイと来る感じ、今までにないタイプだ。
 けど、なんというか……悪い人ではなさそう。
 常にニコニコしているし。
 敬語禁止って言われたし、今は彼女のペースに巻き込まれるとしよう。

「えっと、じゃあ涼子」
「はいはい、なんでございましょーか」
「君は……一体何者なんだ? 化け物の核って言ってたけど」
「あ~そうだねぇ、ケイくんはステータスを見たんでしょ?」
「あぁ、めちゃくちゃな量のステータスが現れて驚いた」
「ファウダーって簡単に言うと沢山の種族を混ぜ込んだ合成獣なんよ」

 合成獣、色々ぐちゃぐちゃに混ぜ込んだ獣。
 そんなものが現実的に可能なのか? と思ったが実際目にしてしまっている。
 だから、ライはその化け物を作り出すことに成功したのだろう。

「でも合成獣っていうが、魔力の性質が違うだろう?」
「お互いに反発しあう人と魔族の魔力、アンタだって内包できてるじゃん」
「俺は……なんか、不思議と……」
「疑問に思うのは当然だよね、今までの常識からすればあり得ない」
「もしかして、それを繋ぎ止めてるのが、涼子なのか?」
「勘がいいねぇ、女の子みたい。アタシはほら、特殊体質だからさ」

 どんな体質を持っているか、ステータスが見れない以上わからない。
 でも、名前とか、服装とか、口調。色々とおかしな点が見れる。
 人間なのか、それとも魔族なのか。
 ライの変貌っぷりを見た後では姿だけで判断することはできない。
 どちらの性質を持つ、俺のような存在なのかもしれない。

「だから、アタシを堕とせばファウダーは完全崩壊、自然に消滅するってこと」
「涼子は多分、俺の淫夢の支配権を奪えるくらいだから、相当強いんだろ?」
「あったりまえじゃん、だってアタシ、本家本元の勇者様だし」
「勇者様なら、自分で脱出することだってできるんじゃないのか?」
「……そこは『嘘ぉぉぉ! 涼子が、ゆゆゆ、勇者ぁ!?』ってリアクションするとこでしょ」
「驚いたけど、驚いたことが多すぎて、上手く驚けないんだ」

 本家本元の勇者、俺たちが勇者候補パーティーである所以。
 史上最強、常識度外視の超人的存在であり、絶対的英雄。
 だが、ある日を堺に幻の如く消えてしまった伝説の存在。
 確かに、そんな人物であるならあれだけ複数の魔力を統合するのも容易いだろう。

 黒幕がライで、実は魔族で、アルフレドは死に、ほぼ全滅の状況なのだ。
 もう生半可なことでは驚かない。

「ちぇ~つまんないの」
「状況が状況だけに、余裕がないんだ。できるなら、直ぐにでも涼子を堕としたい」
「めちゃくちゃスケベな男や……」
「でも、強引な手段はあまり取りたくない。だから、自力で脱出して欲しい」
「アタシはあのババアと『契約』を結び、この中にいるから無理なんだ」
「……さっきから言っている契約っていうのは、どういう条件だ?」

 魔族と結ぶ契約というのは、お互いの合意を得て結ばれるもの。
 俺とメメも始まりは『復讐の契約』を結んでいる。
 今でこそ飽和しているが、本来であれば絶対的守らなければならない規律となるのだ。
 もし、簡単な条件であれば俺が解除してやることもできるかもしれない。

「条件は簡単『アタシが化け物の核を担う変わりに、我が子を魔族に襲わせるな』ってこと!」
「あ──ッ、もしかして」

 小さな点と点が繋がり100%の確信を得ることがたまにある。
 今がその時であった。

「だからさっき、化け物の攻撃がメメに当たらなかったのか!」
「おおおーー! 凄い、流石ケイくん、大大大正解! ピンポンピンポーン!」

 拍手喝采で俺のことを褒め称えてくれる涼子。
 なんとなく、ヒントはいっぱいあったんだよなぁ。
 うんうん、つまり彼女がメメを捨てたお母さんってことだ。

 ……あえ。

「あ、ああ、あああ、もしかして、本当にあ、貴女が、おおおお、おお、お母さん!?!?」
「娘がいつもお世話になっております~なんちゃって、あはは」
「あ、ああッ、うわぁぁぁっぁぁぁッ!!!」

 俺はピースする涼子の顔を見て、あまりの衝撃に後ろへとひっくり返ってしまった。
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