上 下
41 / 57

死屍累々

しおりを挟む
 ☆☆☆

 復讐とは、何か。
 俺は勇者パーティーに裏切られ、捨てられ、そうして憎しみを抱いた。
 代わりにメメという相棒と、新たな力を手に入れた俺は復讐を誓う。
 勇者の取り巻きの女たちを寝取り、奴を孤独にしていった。
 そうすることで『仲間に裏切られる苦しみ』を味合わせたかったのだ。

 計画は紆余曲折ありつつも進み、最終段階へ。
 俺の隣には過去、勇者の仲間たちが並んでいる。
 後は勇者、アルフレドに対し現状を突き付けるだけ。

 きっと奴は激昂するだろう。
 刃を向け、命を絶ちにくるに決まっている。
 そう、戦闘は避けられないのだ。
 でも、今の俺たちであれば勝てるはずだ。

 前衛職の拳士レック、剣士カットルに加え、後衛職の聖女カタリナ、魔女カーラ。
 作戦立案の賢者ライロットに、情報分析の俺。
 このパーティーに一抹の隙もない。

 ──と、思っていた俺は浮かれていたのかもしれない。

 焦っていたとも言えるだろう。
 自身を蝕む謎の声、もう一人の恐ろしい人格。
 目標に手が届きそうで、あと少し伸ばせばこの鬱憤が晴らされると。
 そうすれば、全てが丸く収まると思っていた。
 でも、一番大事なことを忘れてしまっていたのだ。
 最も基本的な、この世界でごく当たり前の、常識的な事。

 人間の敵は人間ではなく、魔族である。

「カーラ……レック、カットル……無事か?」

 俺の問いかけに返事は返ってこない。
 閑散とした大地の上にうつ伏せに倒れる三人の仲間たち。
 服では吸収できない程の血を流し、ピクリとも動かない。
 ステータスチェック……よかった、死んではいない。でも、時間の問題だ。
 早く治療しなければ、彼女たちは二度と立ち上がることができなくなってしまう。
 だが、その為に差し伸べる手も、俺には半分しか残されていなかった。

「ぐッ、ぁぁあ゛あ゛ッ!!」

 吹きだす血飛沫が雨のように降り注ぐ。
 もう体と離れてしまった右腕の付け根を抑え、激痛に悶える。
 膝が折れ、意識が飛びそうになりながらも、正面から視線は外さなない。
 コイツを倒さなければ、俺たちに未来はないのだから。

「ケイオス、何があった!?」
「ケイオスさん、みなさん、これは一体──ッ!?」

 最後方で待機していたメメとカタリナが、騒ぎを聞きつけやってくる。
 そして、この状況を見て絶句した。

「来るな! 来るな、逃げろ!! メメ、カタリナ!!!!」
「なんだ……この、化け物は……」
「魔獣……いや、違いますね、魔族でも、魔獣でも、まして人でもない」

 俺たちの正面に対峙する化け物。
 様々な魔族と戦い、勝利してきた勇者パーティーでも体験したことのない脅威。
 黒く、丸い肉塊のような体から無数に生えた形状の違う手足。
 複数の口を持ち、それぞれに牙が生えている。
 不揃いで規則性のない角、翼、尻尾に、大きな目玉が一つ。
 生物としての「当たり前」を崩した化け物により、俺たちは死の淵に立たされていたのだ。

 加えて、二人を更に絶望へと追いやる者が化け物の後ろに立っている。
 奴は見慣れた笑みを浮かべ、いつもと変わらない声色で語り掛ける。

「お待ちしておりました、メメさん、カタリナさん。貴女方も是非、私の主催するパーティーに参加してください」
「お前、どうしてそっち側にいるんだ!?」
「……ライロットさん、裏切ったのですね」

 そう、俺たちに敵対する者の正体は、化け物と、それを従える賢者ライロット・リンクランであった。
 何故、こんな事になってしまったのか、それは数時間前に遡る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...