上 下
4 / 57

聖女観察

しおりを挟む
第一章『聖女編』

 週替わりの最後の日、聖女カタリナ・カルロッテは必ず一人で出掛ける。
 神の加護を受け、魔法へと転換する彼女は定期的に祈りを捧げる必要があるのだ。
 教会に行き、丸一日両手を結んだまま冷水で身体を清める。
 そうすることで生物の理を超えた回復、蘇生魔法を使えるのだ。

「そんなことで人を蘇らせることができるなら、いくらでもしますけどね」

 教会に忍び込み、物陰からカタリナが身体を清めている様子を監視しているとメメがボソッと呟いた。

「誰でもできるわけじゃない、清き魂の持ち主でなければ神には認められないからな」

 薄く白い布を纏い、瞳を閉じ滝のように落ちてくる冷水をただひたすらに受け続ける。
 これだけなら根性ある奴ならできるだろうが、その間一切の邪念を頭から消す必要があるのだ。
 メメは俺の説明に溜息を返すと呆れたように目を細める。

「清き? 勇者にヘコヘコ腰を振るような女がですか?」
「それは……あくまで俺の予想で、実際にしているかは分からないから」

 正直、彼女を一番最初の標的にしたのは確実に一人になる時間がある以外にも理由があった。

「……本当にカタリナは勇者のもんになった……のか」

 恋心なんて淡い感情は抱いていないが、パーティーの中でも最も清楚な女性だった。
 誰に対しても優しく、気弱だが勇気を持って手を差し伸べる姿は聖女と呼ぶに相応しい。
 俺は素直に尊敬していたんだ。
 なのに、あんな言葉を吐かれるだなんて。

『気持ち悪い』
「──ッ……ぅぅ……トラウマが蘇るぜ」
「いいじゃないですか、憎しみを忘れない為にも大事なことですよ」
「変なとこでポジティブだよな、メメは」
「ところで、そろそろ殺《ヤ》りますか?」
「ヤれねぇよ、戦闘能力低くてもエリート中のエリートだぞ」
「どのくらい強いのですか?」

 ポケットから紙を取り出し、俺の頭に見えている彼女の能力を書いてみせる。

 ===========
 名前:カタリナ・カルロッテ
 種族:人間
 性別:雌
 状態:良
 スキル:女神の加護
 HP:4950
 MP:2000
 攻撃:100
 防御:4500
 速度:10
 魔法:3200

 ※裏
 ===========

「ひ、ひぇ~ば、化け物じゃないですかぁ!?」
「耐久値お化けだ、身体が屈強というよりも物理攻撃を寄せ付けない性質がある」
「どうやって殺せばいいんだぁ~」
「だから、殺さないって。できることなら、眷属にしたい」
「眷属? 殺せないのにできるの?」
「あぁ、その為には『裏』を見る必要があるんだが……」
「この距離だと見えないのですね」

 エロステータスを見るためには、普通に見るよりも近くで凝視しなければならない。
 
「俺は顔が割れてるから、メメ、君が囮になってくれ」
「来ましたね、私の出番!」
「教会の出口付近に大きな木があったろ、彼処に誘き寄せてくれないか?」
「がってん承知の助ですよ」
「大丈夫か?」
「あーいった偽善者を騙すのは、得意です」
「そ、そうか……じゃあ、一度外で待機しよう」

 カタリナに見つからないよう教会の外に出た俺たちは、直ぐに木の裏へと隠れた。
 しばらく時間が空くから街を探索でもしたいが、俺もメメも正体がバレたら捕まる身。
 慎重に行動しなければならない。

 静かに瞳を閉じながら時を待つメメを横目に見る。
 同情はしない、と言った。
 けれど貧相な身体と汚い衣服を見ているとどうしても気になる。
 これが保護欲というものだろうか?
 少しはマシな生活を、これからはさせてやりたい。

「人の顔をジロジロ見て、不快ですよ」
「あ、いや……すまん」
「私はある程度感情を読み取れますから、言いたい事は分かります。期待せずに待つ事にしましょう」
「そうしてくれ」
「さぁ、来ましたよ、静かに」

 日が沈み辺りが暗くなり始めた時、ようやくとカタリナが教会から出てきた。
 いつもの修道服に着替え、落ち着いた様子でゆっくりとこちらに向かい歩いてくる。
 教会は町外れにあるから他の人に見られることはないだろう。

「頼んだぞ、メメ」

 俺の言葉にコクリと頷くと、彼女はカタリナの前に飛び出した。

「ぅ、ぅぅ……」

 ガクっと膝を付き、弱弱しくその場に倒れる。
 尻尾はちゃんと服の中へと隠し、人間の孤児を演じているようだ。
 なるほど、人間と魔族の戦いで飢えている子供は少なくない。
 教会に助けを求めやってきた少女になることで、カタリナに近づこうとしているのか。

「あ……っ」

 メメに気が付いたカタリナは、小さく声を漏らした。
 跪くメメの前に立ち、心配そうな眼差しを向ける。
 彼女の性格上、困っている人は見逃せないだろう。

「せ、聖女……様? ど、どうか……お恵みを」

 両手を皿のように出し、食べ物を求める。
 よし、カタリナがメメに構っている間にステータスを解析しよう。
 と、思ったのだが、彼女は思いもよらない行動に出た。

「……」
「えっ?」

 なんとカタリナは周囲に人がいないことを確認すると、目の前の孤児を無視し横を素通りしたのだ。
 この行動に驚いたのは俺だけではない。メメも目を見開いている。
 どうして……以前の彼女であれば、間違いなく救いの手を差し伸べる筈。
 だって、力がなくても人を助ける為に全力を尽くす慈悲深い女性だったのに。
 女性として受け付けなかった俺には手を差し伸べなかった、という理由ならまだしも、今目の前にいるのはやせ細った少女。
 俺でさえ保護欲を擽られる相手だぞ。それが、どうして──

「ちょ、ちょっと待ってください! む、無視しないでっ……ぅ」
「離して……下さい……」

 カタリナの足にしがみ付き、強行するメメ。
 時間を稼ごうと必死になってくれているのだ。
 色々思うところはあるが……今はとにかく解析に集中しろ。

「私は……貴女に手を差し伸べれるような者では……」
「少し、少しでいいんです……お、お恵みをぉ! うぉぉ!」
「ぐっ……は、離して……」

 メメがしがみ付いている間に、視線をカタリナに合わせ集中。
 よし、見えてきた。カタリナの『裏』は──
 
 ===========
 身長:165
 体重:55
 バスト:E
 経験人数:1人
 自慰回数:4889回
 淫乱度:10%
 開発箇所:無し
 性感帯:陰核・脇
 性癖:露出
 経験プレイ:通常
 ===========

 えッ、自慰回数4899回!?!?!?
 ちょっと待て、カタリナってまだ20代になったばかり、だったよな?
 いつから始めたのかは知らないが、単純に日に1度ではないだろう。
 経験人数1と言うのは、勇者だろうが……これはもしや、相当やべぇ女なのではないか。

「わ、私は先を……い、急ぎますので……」
「あっ!?」

 メメを振り払い、去っていくカタリナの姿を俺は唖然と眺めるしかできない。
 あの清らかな女性にこんな裏側があったとは驚きだ。

「ぅ、ぐぐ……ケイオス、見る事はできましたか?」
「ぁ、あぁ、大丈夫か、メメ?」
「まさか無視されるとは思いませんでしたが、怪我はありませんよ」

「俺も驚いた。カタリナがあんな女性になっていたなんて」
「……ただ、助けようとはしていたみたい、ですよ?」
「え、そうなのか?」
「はい、深いところまでは読み取れませんでしたが、複雑で絡み合った感情があの女の手を止めたようです」

 彼女も何か思い悩んでいることがある、ということか。
 俺の知らないもっと「裏」の事情がパーティーにはあるのかもしれない。
 単純に俺を「邪魔だから追放した」訳ではないのかもしれない。
 そりゃそうか、アイツらは力もあって知恵もあるから勇者パーティーなのだ。
 純粋な嫌悪だけで動くような奴らじゃないことは俺がよく知っている。つまり。

「好都合、だな」

 俺がそう呟くとメメはニヤリと口角を上げる。

「元仲間と言うことで心配してましたが、問題なさそうですね」
「受けた屈辱は屈辱で返す。それだけだ」

 思うところがあるのは奴らだけじゃない。
 こっちは死にかけたんだ。
 そんな都合、知ったこっちゃないんだよ。

「作戦、思い付きましたか?」
「勿論、次は……俺が身体を張る番だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...