上 下
6 / 11
第一章『格闘家編』

おやすみまでつながりっぱなし♡ おはようから戦いへ

しおりを挟む
「はぁ……ッ♡ はぁ……ッ♡」
 
 どれくらい時間が経っただろう。
 まだ朝までは遠いが、夜になってから続けていたエナジードレインのセックスは、六回目に全ての力を受け取り終わった。
 全身汗だくで弱々しく僕の腕に転がったアルカは、クール寄りの美貌を崩しきり、性格に近い子供っぽさが完全に露出している。
 
 反則的な可愛らしさに頭を撫でると、閉じていた瞼をぴくっと揺らし、開いてくる。
 
「……どうですか、力のほうは」
「死ぬ前には到底届かないけど、負ける気はしないかな」
「そうですか、えへへ。よかったです」
 
 全て素直に返すと、アルカも素直に答えてくる。
 抱きしめながら頭を撫で、愛おしさを全身で受け止める。
 完全復活には及ばないが、一歩近づいた力では、抱き寄せる力も加減しないと彼女を壊してしまいそうだ。
 
 僕のそんな心配を読み解いたのか、彼女は顔を上げて告げる。
 
「私、自分が思っていたより脆くないかもしれません。こんなに激しくしても、疲れるだけですから」
「でも無理はして欲しくないよ」
「鍛えるようなものですよ。いつか完全復活した時も、受け止められるように」
 
 腕を僕の身体に回して、抱きしめ返してくるアルカ。
 下腹部を逸物に擦り付け、足を自然に絡めてくる。
 
「ダメだよ、折角ネロと戦うために貰った力なんだから」
「なら、疲れないようにゆっくりやりましょうよ。ただ繋がって、イくかどうかなんて気にしないで、眠ってしまいそうなほど優しく」
 
 甘く、どこか理にかなったような提案で、誑かそうとしてくるアルカ。
 頭では無理があると思いつつ、逸物は肯定している。
 何より、一つ磨きのかかったアルカの蠱惑的魅力に抗えず、再び繋がる。
 
「ぁ……♡ は、ぁ……♡ ゆっくり奥まで入ってくるのも、形がわかって……♡」
 
 興奮と微睡の中、徐々に遠のく意識と共に、互いに静かに腰を振る。
 
「ぁ……ふ、ぁ……♡ じんじん、痺れるみたいで……♡ これも、いいですね……♡」
「すごく、幸せに眠れそう」
「です、ね……♡ ぁ、は……っ♡ 奥、こりゅ、って……♡ んぁ……っ♡」
 
 上がっていく互いの体温が、心身を癒していく。
 
「ぁ……♡ ぅぁ……♡ んぅ……♡」
 
 意識が睡眠に沈んでいくと共に、アルカの小さな喘ぎ声も遠のいていく。
 元々どんな音より奏で甲斐のある声は、子守唄のように染み込んでくる。
 
「……ッ♡ い、くぅ……ッ♡」
 
 びゅる、びゅ、く……。
 
 アルカが絶頂し、続いて射精する。
 ほぼそれと同時に、僕達は繋がったまま、微睡の中についた。

 *

 永遠の微睡にも思えた夜を超え、朝を迎え目覚める。
 小さなベッドに抱き合って収まる僕とアルカ。
 繋がったまま寝ていたが、いつの間にか抜けていたようだ。

 彼女を起こさないよう、腕枕を解き身を起こし、ベッドから這い出す。
 宿にあった共用のシャワーは使わず、昨日のうちに準備しておいた桶の水とタオルで、汗ばんだ身を清め、服を着る。

「行ってくるね」

 返事は無い。よく眠っているようだ。
 音を立てないよう扉を開け、彼女を置いて部屋を後にした。

 *

 街の中心にある、他の建物よりわずかに豪華な建物。
 城というにはみすぼらしいこの場所が、オーガの国を治めるネロ達の活動拠点。
 そしてアルカのいない時間、ネロに指定されたプライベート闘技場の場所だ。

 言われたとおりに建物をぐるりと回りながら観察していると、よく見なければわからない、しかし気づくとあまりにも違和感のある場所に、地下へ潜る階段があった。

「地下闘技場かぁ」

 ベタすぎるというか、それでもロマンがあるというか、とにかく地下に潜っていく。
 暗闇を少し進むと、階段の両端に自動的に松明がともっていく。

「……ベタだなぁ」

 これからオーガの命運を賭けた決闘だというのに、気が緩んでしまう。
 だらけた気持ちを占めるために頬を張り、階段を降り続けると、まるで外のように明るい光が差し込んできた。

「っ、ここは」

 階段を抜け、光の下に出る。
 ドームのようにくり抜かれたスタジアム。
 本当に地下かと疑ってしまう明るさと広さ。
 地面も細かな土で押し固められ、凹凸もない。

 そしてその中心、太陽のように明るいスポットライトの下で、スタジアムを整備していたらしいネロがストレッチをしていた。

「ネロさん、おはようございます」
「お、来たかダーリンくん。待っていたよ」

 呼び合って互いに近寄る。
 しかし静かだから互いの声が届いただけで、歩み寄ろうとするとちょっと煩わしくなる程度の距離があった。

「ちょっと広すぎないですか?」
「私にとって唯一の趣味だからね。半分は抑止力のようになってしまっているけれど」
「趣味だけを続けるというのは、力を持つほど難しいですからね」
「ははっ、さすが学者くんは文言だね。せっかくだしこのままストレッチでも手伝ってくれ」

 地面にぺたんと座り込むネロ、その背を押して筋を伸ばす。
 ゆったりと呼吸をし、一切の焦りはない。
 目に映るよりも大きい背中を前に、尋ねる。

「いいのですか、力を奪っても」
「私なりの慢心さ。少しでも戦いを楽しみたいからね」

 やっぱりか。
 思っていた通りの懸念が当たり、ため息を殺して続ける。

「いつからですか」
「一番最初は会った時だよ。キミがハニーと呼んでいた女の子は確かに、キミをアークス様と呼んでいたからね」
「騒ぎを聞いてあそこまで把握してるなら、僕達の会話も聞こえてましたよね」
「それだけなら同名の別人かもと考えたが、戦いの頼みや奇妙な疲労があったからな」

 結果を言えば僕らの偽装など意味はなく、ネロには気づかれていたのだ。
 最序盤で懸念留まりだったことで救われたが、もし容赦のない相手だったらあの時点で計画は頓挫していた。

 だが、そうはならなかった。
 というよりむしろ、最序盤を潜り抜けた時点で例えもっと偽装工作が杜撰でも、この場所には辿り着いていた。
 背中をより強く押しながら、その背に感謝する。

「なんでネロさんみたいな人間が、勇者パーティなんかに参加したのかわからない」
「勇者と聖女様に選ばれたから、と言えば簡単だ。もっと明確な理由をつけるなら、自分が正しいと思いたかったから、かな」
「正しさ、ですか」
「明確な信念はなく、力だけはある。そんな不安を抱えられるほど、私は強くない」

 僕に「ありがとう」と告げたネロは立ち上がると、尻の砂を払ってこちらに向き直る。
 視線は鋭く、こちらをいつでも狩れそうだ。
 同時に、人間らしい寂しさも宿っている。

「力は弱きものを助け、平和を保つためにある。そう教えられてキミ達、平和を乱す者との戦いに参加した」
「でも、ネロさん自身は誰も殺さなかったですよね」
「殺す必要なんてない。無力化して、自身の脅威さえ伝えれば。みんなそれを知らないから」

 憂を帯びた表情は、戦争の中で僕らが流した血を思い出しているのだろうか。
 脳筋で頑固、その側面に間違いはないだろうが、多角的に見た別側面はこんなにも博愛的で、自分の不器用さに嘆いている。
 戦闘前だというのに漂う湿っぽさに、僕が言葉を出しあぐねていると、ネロは不敵に、不器用に笑った。

「でも勘違いしないでほしい。血が流れたことも、キミにも正義があったことも理解している。その上で私は、私の正義を疑っていない」
「……あの時、助けてもらったことは感謝しているよ。でも、お前のやっていることは弾圧だ」
「力は弱い者のために使わなければいけない、それをオーガ達は理解していない。だから教え込んでいるだけだ」
「最強の基準しかない物差しは、弱者の尺度を測りきれないようだね」
「なら正してみるといい、私の尺度を。気にしなくていいぞ、例えキミが負けても勇者には報告しない。他のオーガ達と同じように、力の使い方を教えてやる」

 ゆらりと、まるで踊るように、ネロは拳を構える。
 愛対する僕も慣れないファイティングポーズを取り、挑発を受け取る。

「逆に教えてあげるよ、力の強さなんてものは、簡単に歪む価値基準だって事を」

「——行くぞ」

 ブツッ!
 太い縄がちぎれるような音と共に、視界からネロが消える。

 全身が総毛立つ感覚、自分にかけた感度強化は、第六感のように迫る危険を察知する。
 頭上から振り下ろされる攻撃、ただ回避するだけでは余波に巻き込まれる。

 最適な回避方法は。
 答えがまとまるより早く、全身全霊で背後に跳躍する。
 次の瞬間、まるで隕石のように、拳を真下に振り下ろしたネロが降ってくる。

「やるなッ!」

 眼下でネロが声を張る。
 アルカが集めてくれた力のおかげで、僕は闘技場の空中半分程度まで飛び上がっていた。
 身体能力だけならば、死ぬ前の二割程度まで戻っているようだ。

 だがそんな手応えも、ネロの拳が地面に衝突した瞬間、たち消える。

 瞬きする暇もなかった。
 地面に網目の亀裂が入り、クレーターのように抉れる。
 空間を揺らす振動に、全身を焼かれるような痛みすら覚える。
 天井からは雨のように細かな瓦礫が降り注ぐ。

 整備されていた闘技場を一瞬で後輩させたネロは、クレーターの真ん中に立ち、拳についた砂利を吐息で飛ばして叫ぶ。

「逃げ切れると思うなよ、私の強さはキミの予想を凌駕するッ!」

 彼女の慢心の声を聞き、地面に着地する。
 僕の顔は戦慄と余裕の二律背反に、笑っていた。

 ネロの強さは予想通りだ。
 あとは僕が一切のミスをせず、全力を尽くすのみ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい彼女に浮気され、絶望で川に飛び込んだ俺~死に損なった時に初めて激しい怒りが込み上げて来た~

こまの ととと
恋愛
休日の土曜日、高岡悠は前々から楽しみにしていた恋人である水木桃子とのデートを突然キャンセルされる。 仕方なく街中を歩いていた時、ホテルから出て来る一組のカップルを発見。その片方は最愛の彼女、桃子だった。 問い詰めるも悪びれる事なく別れを告げ、浮気相手と一緒に街中へと消えて行く。 人生を掛けて愛すると誓った相手に裏切られ、絶望した悠は橋の上から川へと身投げするが、助かってしまう。 その時になり、何故自分がこれ程苦しい思いをしてあの二人は幸せなんだと激しい怒りを燃やす。 復讐を決意した悠は二人を追い込む為に人鬼へと変貌する。

勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。

レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。 田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。 旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。 青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。 恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!? ※カクヨムにも投稿しています。

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する

花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。 俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。 だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。 アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。 絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。 そんな俺に一筋の光明が差し込む。 夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。 今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!! ★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。 ※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...