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◇第1章
【26】リーシェの考察 - 狐は怒る
しおりを挟む「はあ!? それは……どないな行動取ったところで、主様が死ぬんは可避できへんっちゅうことか!?」
先ほどまで空中で寝ころんでいたノインは、体制を整えて机の上に立ち、そこを右足でダンッと強く叩いた。
「……ええ。原作のストーリー通りなら、そういうことになるわね」
「そんなんっ……今までの時戻しも全部無意味やったっちゅうことか!?」
彼はその場でそのまましゃがみこみ、額に手を当てて考え込むような姿勢になった。
その後バッとこちらを向き、私に向かって噛みつくように吠える。
「主様も主様や! そない大事なこと、何で今の今まで黙っとったんや!? そういうことは、もっとはようわしに言うんが筋っちゅうもんやろ!?」
「待って、ノイン。まだ話は終わってないわ。だからとりあえず落ち着いて……ね? 私、言ったでしょう? 『まず最初に』って……あなたに話したいことがまだ残っているの。だからそんなに怒らないで、私の話を聞いてちょうだい?」
「…………わかった。怒るかどうかは全部聞いてからにするわ……ほら、大人しゅう聞いてるから、続き話しぃや」
彼はそのまま机の上で、かつ私の目の前で胡坐を組み、じっと私を見つめた。
ふうっと息を整えてから再び彼に向かって話す。
「ありがとう。そういう理由もあって、私はこの世界が『オオカミルート』を辿っているのではないかと考えたわ。それなら学園入学時の好感度が高いのも頷けるし、ルナが最終的にオオカミのことを好きになることも、どうしたところで私が死んでしまうことにも納得がいくわ…………でも、それだと矛盾してくることがあるの」
「矛盾?」
「ええ。確かに私は原作のオオカミルートをほぼやっていないわ。物語の最初の部分……プロローグをちょっとプレイした程度ね。だからオオカミルートのメインストーリーも分岐するそれぞれのストーリーも知らないけれど……友達が話してくれた内容は断片的にいくつか覚えているの。その友達は攻略対象の中で一番オオカミが好きだったから、推しであるオオカミルートの話を何度も聞かされたの……もちろん、『是非プレイしてほしいから』って言われて、重大なネタバレになる物語や設定は聞かされていないのだけれど……」
それでもこうして「リーシェ・クランシュタイン」として生きている今になってみれば、むしろ鬱陶しいくらい話してくれていて助かった。
おかげでプレイしていなかったオオカミルートの情報を少なからず得られているし、何より今こうして「ここがオオカミルートの世界だ」と安易に決めつけず、慎重に物事を考えることができている。
「その友達が言っていたオオカミルートの部分的な情報と照らし合わせてみると、三つほど、どうしても矛盾してくる部分があるの。一つ目は、学園入学から私が死ぬまでの間、どの人生でもルナがオオカミ以外の攻略対象にも少なからず恋愛感情を抱いていること。原作のオオカミルートでは『ルナは他の攻略対象と必要最低限しか関わらず、オオカミ以外の他の誰にも一切の恋愛感情を持つことがない』って言っていたの。他の攻略対象のルートでは別の異性に心が動く場面もあったりしたんだけど、オオカミルートでは彼との絆がより引き立つようにするためか、そういった描写が一つもないって言っていたわ。二つ目はオオカミルートでは『オオカミ以外のすべての攻略対象に恋愛感情は抱かないものの、円満な関係で終わる』っていう点。思い返してみると攻略対象との関係がよくないことも多かったように思うの……そうね、特に八回目と九回目の人生なんかはルナが周囲と円満な関係を築いていたとは言えないでしょうね」
「確かにそうやな……八回目は小娘と小僧の結婚式直前に嫉妬に狂ったオオカミに野郎どもは全員殺されとるし、九回目やった前回も眼鏡小僧と騎士小僧が小娘にずっと執着しとったからなぁ……その後もれなく殺されとったし」
彼は口元に手をやり、頭の中の情報を整理するようにそう呟いた。
どうしようもない性格や態度でも一応神様だからか、やはり過去九回分の記憶に関しては私よりノインの方が物事をより正確に覚えているようだ。
「そうでしょう? やっぱりこれもどう考えても矛盾しているのよね…………そして最後、三つ目ね。正直これが一番引っかかっているの……『ルナはオオカミに恋心を抱くものの、他のストーリー同様、メインの要素である光属性の能力覚醒と魔王討伐は必ず行う』っていう点よ」
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