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◇第1章
【20】アグニスコルト家の訪問日 - 真夜中の密会② /《リアム視点》
しおりを挟む「……それで? 僕と何を話したいの?」
そう問いかけると、彼女はすぐに話し始めた。
「えーっと……まずは、あのっ……私、意識がなくなる前に、確かリアム様のマナ石を見つけたような気がしてるんですけれど…………手元には見当たらなくって………」
「ああ、それならここにあるよ。ほら。君がずっと握りしめていたものを、途中でメイドが持ってきてくれたんだ」
ポケットからマナ石を出して説明すると、彼女の表情は少し和らいだように見えた。
がしかし、またぱっと暗い表情になり、再度口を開いた。
「あっ……その…………だいぶ小さく、なってしまいましたわね……」
なるほど、聞いていた大きさと違っていることに気づいたからそんな顔をしているのか。
僕の手のひらの上にある角が丸く整えられたそのマナ石は、見た感じ二センチに満たない程度の大きさだった。
元々は彼女に伝えていた通りの大きさだったが、水の中にあった時間が思っていたよりも長かったようで、半分ほど吸収されてしまったみたいだ。
「……それでも、本当にとても大切なものだから……君には感謝してるんだ。だから、その……見つけてくれて本当にありがとう」
マナ石をぎゅっと握り、できるだけまっすぐ彼女の方を見てそう口にした。
すると彼女はようやく安心したようで、ふわっと朗らな笑みを浮かべた。
「でも、マナ石は紫とか青とかの寒色が多いと聞いておりましたので、白色のマナ石だなんてとっても珍しいものをお持ちなんですのね」
「……驚いた。弟と同じ年って聞いてたけど……詳しいんだね。君はマナ石についてどれくらい知ってるの?」
思わずそう聞き返した。
同じ年頃の子でマナ石の知識がある子はそういない。思っていたよりも彼女が知識を持っていることにとても興味を引かれた。
「うーん…………以前少しマナ石に関する本を読んだから知っているというだけなので……本当に基本的な知識だけ、という感じですわ」
なぜか気まずそうに視線を逸らしながら彼女はそう答えた。
彼女の年でそういった本を読み、それをある程度覚えているだけでもすごいことだと思うのだけれど……ひょっとすると周囲から子供らしくないと思われたりして、彼女なりに大変な思いをしていたりとかするのだろうか?
そんなことを思いながら当たり障りのない言葉を返す。
「そっか。まあ、僕もこのマナ石をもらうまではあまり知らなかったし、そんなに詳しい方ではないけどね」
僕が微笑むと彼女も微笑み返してくれた。
その後は当たり障りない雑談をいくつか交わした。弾んではいなかったものの、非常に穏やかな会話だったように思う。
しばらくするとお互い、何を話せばいいかわからなくなったように黙り込んだ。
仲良くなりたいとは言ってくれていたものの、今日数時間遊んだ程度ではこのくらいの距離感が普通なのではないかと思えた。
そんな中、僕はあることを考えていた。
……いや、実際後になって思い返してみるとどうなのだろう?
…………考えていたと言えば考えていたし、考えていないと言えば考えていなかったように思う。
ただ、衝動的に彼女になら話してもいいような気がして、あるいは単に、なぜか口にした方がいいような気がして、そうしたようにも思える。
また別の角度から考えるなら、大切なものを見つけてくれた彼女に対して、僕も何かしなければならないという気持ちになっていただけかもしれない。
とにかく、そのとき僕がそれを口にした理由をはっきりさせるのは、今でも難しい。
「…………君は……秘密とかそういうの、守れるタイプ?」
「え?」
突然の言葉に、彼女は明らかに動揺していた。
今日初めてみるその表情にくすっと小さく笑ってしまった。彼女は本当に色んな表情をするんだな。
「君は僕と仲良くなりたいんだよね?」
「えっ、ええ。そうですわ」
「そっか……じゃあもし僕に、多くの人に言えない秘密があったとしたら、どう? ……それでも仲良くなりたいって思ってくれるのかな? そして…………それを誰にも言わず、僕と一緒にその秘密を守れる自信、ある?」
「……あっ、あの……それは一体どういった意図の質問ですの? リアム様に何か秘密があって、私がそれを守ると言えば私と仲良くしてくれるというお話ですのっ?」
彼女の顔は先ほどよりもさらに真っ赤になっていた。
熱と予期していない話題のせいで余計にオーバーヒートしているようだ。
『――――何があっても絶対に知られてはダメよ』
もう一度顔が綻びそうになったとき、またどこか遠くからそれが聞こえた。
……わかってる。ただ朦朧としている彼女を少しからかってみただけだ。
「ふふっ……違うよ。話題がなかったから適当に言ってみただけ……ほら。もう十分話したしそろそろ休まないと……部屋まで送るよ」
席を立ち、彼女の方に近寄ってから背中を向けしゃがむ。すると数秒後に彼女が背に乗ってきた感覚があった。最初に約束していたからか、渋々、と言った感じだが応じてくれたようだ。
立ち上がり、彼女の部屋の場所を聞いてからそこを目指して歩き出す。
「……私…………たとえリアム様にどんな秘密があったとしても、リアム様と仲良くなりたいですし……私はそれを誰にも言いませんわ…………絶対に、言いませんわ……」
彼女を部屋まで送る途中、ぽつりぽつりと呟く声が耳に届いた。
なぜさっきあんなことを言ってしまったのか……と、またしても後悔の念に駆られながら、答えることなく薄暗い廊下を進んでいった――――――。
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