貴方から逃げます

まる

文字の大きさ
上 下
2 / 7

家を出たい2

しおりを挟む
 コンコン

「沙羅です。お話があります」

 執務室のドアをノックすると、従者がドアを開けてくれた。

「ありがとう。」
  
 従者の笑顔は冷たい。
 この家で私を冷たく扱うのは、お兄様だけじゃない。使用人は全員、ある日を境に私を避けるようになった。

 理由は解ってる。両親が亡くなったのが、私のせいだから。
 結婚記念日に、私は演劇の鑑賞券を贈った。それを観に行った帰りに、両親は事故で死んだ。
 誰も責める事は無かったけれど、私の居場所はなくなった。

 結婚して幸せになれるか保証はないけど、この家にいるよりましよ。

「お仕事中に申し訳ございません。お兄様にお話があります」
「……」
「私の縁談の話を進めて下さいませんか。私は雨宮の血を継いないので、断る家は多いかもしれません。もしお相手が見つからないようなら、静かな場所で仕事をして暮らしたいのです」
「…仕事?君に何が出来る?」

 どうして何も出来ないと決めつけるのかしら。

「雨宮家に来る前は、自分の事は自分でしていました。母が亡くなってからは、お料理もお裁縫も教えて貰ってるので、全く何も出来ない女ではありません」

 お兄様にいつ『出ていけ』と言われてもおかしくないと思ったから、料理以外にも出来る事は色々教えて貰った。

「女が1人働いて、生活出来るはずがないだろう」
「『結婚相手が見つからなかった場合はそうする』と申し上げているだけです。お兄様も、結婚をしなければいけませんし、邪魔者は消えます」
「わかった。いくつか当たってみよう」
「ありがとうございます」

 良かった。私がこの家にいて出来る事なんて何もないし、早く決まってほしい!!



 部屋にかえってから、大切な物をテーブルに並べた。

 お母様の形見のネックレス。一緒に作った刺繍の入ったクッション。お義父様に貰ったブローチ。他にも細々としたものが沢山。

 今見てみれば、お兄様からのプレゼントは何もないわね。形だけでも妹にプレゼントを渡そうって気持ちすら無かった。……そうとう嫌われてるのかも。


 いつも通り、1人で夕飯を食べて、今は夜10時。

 コンコン

 小さく部屋をノックする音が聞こえる。

 こんな時間に人がくるなんて、珍しい。

「だれ?」
「俺だ」

 これって、お兄様の声だよね?こんな時間に…というか、私の部屋に来るなんて、今日が初めてだけど。
 ドアを開けると、いつも通り冷たい顔たお兄様がいる。

「何でしょうか?」
「話がしたい。内容を聞かれたくない、部屋に入っても構わないか?」
「はい…、どうぞ」

 こんな夜遅くに話さないといけないほど、大切な事なのかしら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

処理中です...