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緑への回帰
権限の縮小
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その数日後、セレンはシガと共に王家一同を招き、昼餐会を開いた。本来は大体において国賓をもてなすために晩餐会という形で行われることが通例であり、このような招待は異例だ。招かれた者達の中には戸惑いを覚える者もいた。
招かれたのはサイゴン伯爵にシュパルツ伯爵、そしてバサム伯爵にカマル侯爵とトール男爵だ。本来ならそこにマルセリーヌの父親であるキルルス侯爵が列席すべきではあるのだが、その婿の父親が起こした反逆行為の重さを考え、セレンはキルルス侯爵を招くのをとり止めた。それはギーン男爵側においても同じである。
「本日は忙しい中よく来てくれた。料理長が腕を振るってくれたので、まずは食事を楽しんでくれ」
セレンのざっくばらんな挨拶の後、料理が運ばれてきた。
その前菜として出された白身魚のソテーを美味しそうに頬張るセレンを見て、皆もせっかくのご馳走だと、まずは食事を堪能しようと気持ちを切り替えた。
次々と運ばれてくる美味しい料理に舌鼓を打ち、和やかな雰囲気で食事が進んでいく。アントルメとしてババロアのフルーツ添えが、デザート酒代わりの紅茶と共に出てきたところで、セレンは本来の目的を果たすべく口を開いた。
「食べながら聞いてくれ。……実は今日皆を呼んだのは、聞いて欲しいことがあったからなんだ」
セレンの言葉にデザートを掬っていた彼らの手が一瞬止まる。だが右手を差し出して、『どうぞ』と勧めるそぶりを見せたセレンに、一同はデザートスプーンを握りなおした。その動作を見て取って、セレンがまた話を続ける。
「昔、内乱が絶えなかったこの地を平定したのが私らの偉大な先祖であるラムサス・トルーパム・ナミック・カントーだ。彼が国王となりこの国を治めることとなった時から、我ら一族による世襲により、親から子、子から孫へと王位が引き継がれていった。……代々引き継がれていくこの世襲は良しとしても、そろそろ国王がこの国を治めるものとして権力を握り君臨するこの制度を修正し、国王の権限を縮小したいと思っているのだが、それに関して皆の忌憚なき意見を聞かせてもらいたい」
何の策略も施さず、真正面からセレンが己の意見をぶつけてきたことに、サイゴン伯爵は少なからず驚いた。彼の中でのセレンは、伝統ある王家に対する誇りに欠ける人物として認識されていたし、また、自分の思い描く未来を築くためには緻密な計算を積み上げて、他人を思いのままに操るためにはどうしたらいいのかと考える策士のようなイメージが出来上がっていたのだ。
しかもそれは彼の信念から来るものだから、なおさら質が悪いとも思っていた。
「一つ聞きたいのですが」
そう言って手を上げたのはトール男爵だ。彼は王家に属してはいるが直系からは遠く離れた親戚となり、国王になる可能性はかなり低い位置にいる。
「どうぞ」
「仮に国王の権力を縮小するとして、その後はいったい誰がこの国を引っ張って行くのですか? 国は誰かが統治しなければならないものですよ」
「もちろんだ。……それは私は、資質があり尚且つやる気のあるものであれば誰でも良いと思っている。ただ世襲の場合とは違い、それこそ器のある人物が成らなければいけないと考えるので、年齢的には30歳以上の者が妥当だと思っている」
セレンの言葉を聞き、今まで黙って聞いていたカマル侯爵が口を開いた。カマル侯爵も直系からは少し離れた関係にはあるが、シエイ王統治時には大臣を務めるなど政治に貢献している時代もあり、また関心もあった。
「30歳ですか……。年齢的な事は良しとして、誰でもというのが引っかかりますな。それは陛下がよく言う平等精神から、平民でも構わないというお考えですかな?」
「そうだ。だがもちろん今の段階では平民がいくらなりたいと思ったところで、それは無理だ。彼らは政治にかかわる経験も知識も乏しい。だが将来的には、やる気があり資質が備わっている者に関しては、立候補を受け付ける環境を整えていきたいと思っている」
「……陛下は平等という事ばかりに拘って、我ら王族を蔑ろになさるおつもりですか」
ぽつりと零すサイゴン伯爵の言葉に、ここに居る一同が眉を顰めてセレンを見た。伯爵が吐露した言葉は、一様に皆が思っていたことだったのだ。
「そんなつもりは無い。私はあくまでも資質のあるものがその職や地位に就くべきだと考えているだけだ。この国を率いたいと思うものは、たとえ王族であろうと立候補すればいいと思っている」
「……え?」
セレンの言葉が皆にとっては心底意外だったのだろう。皆が驚いた表情で己を見ているのに気づき、セレンが苦笑いを零した。
「もしもここに居る誰かがこの職に就きたいと思うのなら立候補すればいいと思う。私は平民を押し上げるために制度を改革しようと思っているわけでは無い。世襲で知恵もやる気も無い者が、この国の舵を取り続けることが出来てしまうこの制度が問題だと思っているだけだ」
「……確かに、過去にはそんな例がありましたな」
初代国王は出来る人物だったが、その嫡男は女好きのギャンブル好きで、家臣たちの苦悩の跡が多くの資料に残されている。国民たちも多大な苦労を背負わされていた。
「皆の協力で教育改革も順調に進み、国民の意識改革と共に経済効果も表れ始めている。平民たちのやる気の高さや技術の習得には目を見張るものがあるだろう? この国をさらに発展させ力強いものにしていくためにも、今回の制度改変を了承していただきたい。皆が賛同してくれるのなら、それに向けて政治に平民からも参入できるようにしていくつもりだ」
「……陛下のお考えは分かりました。だが我々にも少し考える時間を与えていただきたい」
「そうだな、分かった。よく考えてから返事を聞かせてくれ。……今日は、この場に集まってくれて感謝する」
セレンのその言葉により、この会はいったん終了となった。
「もしよければお茶のお代りはいかがですかな?」
シガの言葉にホッとした様子で姿勢を崩し、皆が遠慮なくお代わりを所望した。その様相に、彼らがどれくらい警戒してこの場に臨んだのかを認識し、セレンの顔には苦笑いが浮かんだ。
招かれたのはサイゴン伯爵にシュパルツ伯爵、そしてバサム伯爵にカマル侯爵とトール男爵だ。本来ならそこにマルセリーヌの父親であるキルルス侯爵が列席すべきではあるのだが、その婿の父親が起こした反逆行為の重さを考え、セレンはキルルス侯爵を招くのをとり止めた。それはギーン男爵側においても同じである。
「本日は忙しい中よく来てくれた。料理長が腕を振るってくれたので、まずは食事を楽しんでくれ」
セレンのざっくばらんな挨拶の後、料理が運ばれてきた。
その前菜として出された白身魚のソテーを美味しそうに頬張るセレンを見て、皆もせっかくのご馳走だと、まずは食事を堪能しようと気持ちを切り替えた。
次々と運ばれてくる美味しい料理に舌鼓を打ち、和やかな雰囲気で食事が進んでいく。アントルメとしてババロアのフルーツ添えが、デザート酒代わりの紅茶と共に出てきたところで、セレンは本来の目的を果たすべく口を開いた。
「食べながら聞いてくれ。……実は今日皆を呼んだのは、聞いて欲しいことがあったからなんだ」
セレンの言葉にデザートを掬っていた彼らの手が一瞬止まる。だが右手を差し出して、『どうぞ』と勧めるそぶりを見せたセレンに、一同はデザートスプーンを握りなおした。その動作を見て取って、セレンがまた話を続ける。
「昔、内乱が絶えなかったこの地を平定したのが私らの偉大な先祖であるラムサス・トルーパム・ナミック・カントーだ。彼が国王となりこの国を治めることとなった時から、我ら一族による世襲により、親から子、子から孫へと王位が引き継がれていった。……代々引き継がれていくこの世襲は良しとしても、そろそろ国王がこの国を治めるものとして権力を握り君臨するこの制度を修正し、国王の権限を縮小したいと思っているのだが、それに関して皆の忌憚なき意見を聞かせてもらいたい」
何の策略も施さず、真正面からセレンが己の意見をぶつけてきたことに、サイゴン伯爵は少なからず驚いた。彼の中でのセレンは、伝統ある王家に対する誇りに欠ける人物として認識されていたし、また、自分の思い描く未来を築くためには緻密な計算を積み上げて、他人を思いのままに操るためにはどうしたらいいのかと考える策士のようなイメージが出来上がっていたのだ。
しかもそれは彼の信念から来るものだから、なおさら質が悪いとも思っていた。
「一つ聞きたいのですが」
そう言って手を上げたのはトール男爵だ。彼は王家に属してはいるが直系からは遠く離れた親戚となり、国王になる可能性はかなり低い位置にいる。
「どうぞ」
「仮に国王の権力を縮小するとして、その後はいったい誰がこの国を引っ張って行くのですか? 国は誰かが統治しなければならないものですよ」
「もちろんだ。……それは私は、資質があり尚且つやる気のあるものであれば誰でも良いと思っている。ただ世襲の場合とは違い、それこそ器のある人物が成らなければいけないと考えるので、年齢的には30歳以上の者が妥当だと思っている」
セレンの言葉を聞き、今まで黙って聞いていたカマル侯爵が口を開いた。カマル侯爵も直系からは少し離れた関係にはあるが、シエイ王統治時には大臣を務めるなど政治に貢献している時代もあり、また関心もあった。
「30歳ですか……。年齢的な事は良しとして、誰でもというのが引っかかりますな。それは陛下がよく言う平等精神から、平民でも構わないというお考えですかな?」
「そうだ。だがもちろん今の段階では平民がいくらなりたいと思ったところで、それは無理だ。彼らは政治にかかわる経験も知識も乏しい。だが将来的には、やる気があり資質が備わっている者に関しては、立候補を受け付ける環境を整えていきたいと思っている」
「……陛下は平等という事ばかりに拘って、我ら王族を蔑ろになさるおつもりですか」
ぽつりと零すサイゴン伯爵の言葉に、ここに居る一同が眉を顰めてセレンを見た。伯爵が吐露した言葉は、一様に皆が思っていたことだったのだ。
「そんなつもりは無い。私はあくまでも資質のあるものがその職や地位に就くべきだと考えているだけだ。この国を率いたいと思うものは、たとえ王族であろうと立候補すればいいと思っている」
「……え?」
セレンの言葉が皆にとっては心底意外だったのだろう。皆が驚いた表情で己を見ているのに気づき、セレンが苦笑いを零した。
「もしもここに居る誰かがこの職に就きたいと思うのなら立候補すればいいと思う。私は平民を押し上げるために制度を改革しようと思っているわけでは無い。世襲で知恵もやる気も無い者が、この国の舵を取り続けることが出来てしまうこの制度が問題だと思っているだけだ」
「……確かに、過去にはそんな例がありましたな」
初代国王は出来る人物だったが、その嫡男は女好きのギャンブル好きで、家臣たちの苦悩の跡が多くの資料に残されている。国民たちも多大な苦労を背負わされていた。
「皆の協力で教育改革も順調に進み、国民の意識改革と共に経済効果も表れ始めている。平民たちのやる気の高さや技術の習得には目を見張るものがあるだろう? この国をさらに発展させ力強いものにしていくためにも、今回の制度改変を了承していただきたい。皆が賛同してくれるのなら、それに向けて政治に平民からも参入できるようにしていくつもりだ」
「……陛下のお考えは分かりました。だが我々にも少し考える時間を与えていただきたい」
「そうだな、分かった。よく考えてから返事を聞かせてくれ。……今日は、この場に集まってくれて感謝する」
セレンのその言葉により、この会はいったん終了となった。
「もしよければお茶のお代りはいかがですかな?」
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