国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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様々な問題

ルウクとサイゴン伯爵

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 ギルリスタムの資料を探し終わった後、ルウクはセレンから予算の書かれた表を渡されていて、その各々の合計金額を再度確認のためチェックをしている。セレンの計算に間違いは無いとは思うのだが、念のための作業だ。ルウクは間違いがないようにと最新の注意を払いながら、黙々と再計算を進めた。

 ルウクが計算に没頭し始めてほどなくして、シガが執務室に入って来た。セレンに明後日のバツアーヌ視察が決まったことを報告し、秘書室へと戻って行った。

 シガが出ていくのを緊張の面持ちで見送った後、ルウクは先ほどのノートを手に席を立つ。

「陛下、サイゴン伯爵に会いに行って参ります」
「ああ、ちゃんと自分が書き留めた物だと話すんだぞ」
「はい」

 ルウクはセレンに一礼して、執務室を出て談話室へと足を進める。だが、その足取りは重い。

 ルウクは、自分を押し出しアピールすることが苦手だ。だが、今の己の立場が、苦手だからどうでも良いと言っていられないのだという事も理解している。
 国王の第一秘書が平民の上に無能で使い物にならない者だと言われては、セレンの顔に泥を塗ることにもなりかねないのだ。

 ついついため息を吐きながら歩いていると、突然後ろから誰かに突き飛ばされた。
 だが反射的に空いている手でその突き飛ばした相手の手首を咄嗟に掴み、グイッと引っ張り逆に床に突き落とす態勢をとった。軍での訓練時にザッカム中尉から様々なことを教わったことが功を奏したようだ。

「グアッ!」

 上からルウクに圧し掛かられて、男が痛さのあまり悲鳴を上げた。その声にルウクは体を起こしたものの、手首を掴んだまま押さえる力を緩めない。そしてその男の正体を見極めようと顔を覗き込んだ。

「コトラスさん……?」

 押さえ込んでいる相手には、見覚えがあった。会ったというよりは見かけたという程度なので確かな事は言えないが、ジングラム伯爵の侍従と記憶している。

 ルウクに名前を呼ばれたその男は、しまったと言う顔をして、さっと横を向き顔を隠すようにした。

「どういうことですか?」

 ほぼ面識の無い相手に突然襲われて、ルウクにはなぜ自分がこのような目にあっているのか分からなかった。

「っ……、お前がっ! お前が悪いんじゃないか! 国王に信頼されてるのを良いことに、過分な頼みごとをしているんだろう。自分の家族や故郷を裕福にしてくれとかなんとか言って、特別扱いするように仕向け、貴族の立場を蔑ろにするよう仕向けたんだろう! 知らないと思ったら大間違いなんだからな!」

「それは全くの出鱈目です!」

「嘘を吐け! 俺はちゃんと然るべき方から聞いたんだ! 陛下はお前を信頼していて、お前の頼みなら何でも聞いてやってるってな!」

「なんてことを仰るんです! 陛下を愚弄するのは許しません!」
「はあっ!? お前、どの口が言ってんだ!」

 大声で互いに主張しあっているせいで、近くに居る者が気付き野次馬が増えてきた。みんなヒソヒソと、国王の第一秘書とジングラム伯爵の侍従が廊下で喧嘩をしていると噂をし始めた。

 ルウクはそこで初めて、自分が未だにコトラスを押さえつけていることに気が付いた。態勢を整えて、コトラスの腕を引っ張り2人して立ち上がる。だが、掴んだ手はそのままだ。

 このまま誤解されたまま放っておくことは、セレンのためには絶対に良くないと考えたからだ。

「コトラスさん、どなたから聞いたのかは分かりませんが、陛下はたとえ私が何かを頼んだところで、この国の為にならないと思ったことに関しては絶対に聞いてはくれません。陛下はそういう志の高い澄んだお方です」

「何をしているんだ、君らは?」

 周りにいる野次馬をよけて声を掛けた人物に、ルウクもコトラスもハッとして身動いだ。前国王の側近で、現教育庁長官のフリッツ・マルコニーが立っていたのだ。そしてその後ろにはサイゴン伯爵。

 サイゴン伯爵はルウクと目が合うと表情を硬くした。どうやらコトラスと揉めていることで、その原因に気が付いたようだった。
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