国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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様々な問題

見え始めた光

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「さて、と。細かいゴタゴタしたことは侯爵に任せるとして、教育改革関連の特別会計予算を承認してもらうための資料がそろそろ出来上がるから、議会招集の日程も決めたいのだが」

「セレン様、お気持ちは分かりますが、それはもうしばらくお待ちください。功を焦っては得る者も得られませんぞ」

「分かっている。大丈夫だ。ただ今回の事で、戦略を少し変えようかと思ったんだ」
「戦略を、ですか?」

「ああ。とりあえず職業の自由うんぬんは後回しにして、今回の予算の承認に関しては技術と収入の向上を最優先させるための措置という事を前面に出す。技術向上が経済を上向かせること、そしてそれが領主の収入アップにも繋がるという事をしっかりと説明して諸侯らにも利があることをはっきりと理解させることにする」

「……なるほど。で? その先はどうなさるのです? セレン様には他にも考えがおありなのでしょう?」

 シガにそう指摘されて、セレンが可笑しそうに笑みを浮かべた。

「それで予算が降りて着工に入ったら、国王主催の勉学大会を告示する」
「勉学、大会…ですか?」

「ああ。貴族、平民を問わず、この国のすべての高校以上の学生に、年一で一律に試験を設ける。そして順位を争わせ、各学年の一位には報奨金または褒美を与えるという事にしようと思う。そして……、そうだな。十位くらいまでは大々的に表彰してやるか。ちょっとしたお祭り騒ぎにすると、なお良いかもしれん」

「それは構いませんが……、いったいどういう趣旨で?」

「褒められて嫌な気になる者はいないだろう? 皆が一律に試験をして順位を争わせることで、実質ソルダン王国一の優秀さだと認識されるのだと言えば、誰も文句は言わないはずだ。選民意識の強い者ほど、己の自慢の子供たちが絶対に頂点に立つと信じて疑わないだろう」

「はい。確かにそうかと」

「これの目的は、真にやる気があり優秀な者が誰なのかという事を世間に知らしめることだ。それが例え富んだ者でも貧しい者でも、私は一向に構わない。平等とはそう言う事だろう?」

「そう……、ですな」
「それと、もう一つ」
「何でしょう?」

 まだ何か考えがあるのかと、シガが目を瞬かせた。ルウクは先程からあっけに取られたように、主の顔をポカンと見ている。

「賄賂禁止令を制定しようかと思う」
「それは、良いかもしれませんな! これは、実現性がありそうです」

「だろう? 教育改革と切り離して作成する。そうすれば異議を唱える者は少ないだろう。実際、賄賂を横行させている者は意外と一部の諸侯たちだけだ。バカなステータスと小遣い稼ぎは、処分する。今まで指をくわえて羨ましがっていた連中は、喜んで同意してくれるだろう」

「そうすると、裕福な者ばかりが良い就職先を手に入れるというケースも、きっと少なくなりそうですね」
「ああ。そうなると良いと思っている」

 久しぶりに見るセレンの安堵の表情に、ルウクはホッと胸をなでおろした。そして、それと同時に己のことを振り返る。

 主であるセレンは機転が利き、しかも聡くてルウクとは大違いだ。裁量に差がありすぎるルウクには、主が求める結果を出せているのかも分からない。
 胸を張って主の為に出来る事は何なのだろうと、目を瞑って自問自答をしてみる。
 主の足手纏いになりたく無いというその思いは、とてもでは無いが聡いとは言い難い自身の事を自覚しているからでもあるのだ。

「……ク? ルウク?」
「あ、はっはい!」

 思考の海に沈みきっていると、セレンに呼ばれているのにも気が付かなかった。慌てて顔を上げるとセレンが心配そうな表情をしている。

「どうした? 疲れたのか?」

「い、いえ。違います。そうでは無くて……。目途が付きそうだと思ったらホッとして……。すみません、ぼうっとしてしまって……」

「いい。……それより、本当は何か気になっていることがあるのではないのか? 先程の下らん噂の事なら悩むことは無いのだぞ?」

 心底心配そうな表情を見せるセレンに、ルウクは恐縮した。些細な従者の悩みまで、真摯に向き合ってくれるセレンには敵わないなと思った。

「……僕がセレン様のために出来る事は何だろうって考えていたんです。真面目なだけが取り柄で、機転も利きませんし……」

 ぼそぼそと下を向いて話すルウクの額を、セレンがパチンと指で弾く。

「……った!」

 かなりいい音がして、額が赤くなっている。綺麗に決まったデコピンは、結構痛かったようだ。

「真面目が取り柄で十分じゃないのか? 機転なんてそんなものは侯爵の十八番だ。そんな物を私はお前に求めてはいないぞ。……私に必要なのは、真面目で裏表なくコツコツと私の為に働いてくれる存在だ。それはお前意外に有りえないだろう」

「セレン様……」

 何を分かり切ったことを言わせるのだと言うように、呆れた表情でセレンがルウクを見る。確かに何度か言われてきた事なのかもしれないが、それでも、もっと主の為に成果を上げられる存在に成りたいと、本心からルウクは考えているのだ。そしてもっと、主の負担を減らしてあげられるくらいのそんな存在に成りたいと。

 だけど――、

「はい。すみませんでした。今、与えられている仕事を全力で頑張ります」

 それはきっと、もっと後で良いのだろう。一つ一つ経験を積み重ねていって、そしてもっとルウクがタフになった時、その時はしっかり提言させてもらおう。

――もっと自分の事を頼って下さいと。

 それまでは、今自分が出来る事を黙々と熟していこうと、ルウクは気持ちを切り替えた。
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