国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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嫉妬と羨望と

軍での訓練

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 営門にてセレンより渡された身分証明書を見せて中へと入る。指示された場所へと進んで行くと、向こうから背が高く体格の良い一人の男性が近づいて来た。

「ルウクか?」
「はい。今日からお世話になります、ルウク・ターナーです。よろしくお願いします」

「パイロン大尉だ。陛下より聞いている。今回の君の訓練にはザッカム中尉を配している。訓練内容は彼から聞きなさい」
「はい」
「ザッカム中尉!」
「はい!」

 呼ばれて返事をした1人の隊員が、こちらに駆け寄って来る。20代後半と言ったところだろうか。体格は悪くは無いが、パイロン大尉ほど背は高く無かった。

「シガ殿から特別訓練を依頼されたルウク・ターナーだ。頼んだぞ」
「はい」

 姿勢よく上官に返事をするザッカム中尉に、ルウクの姿勢もピンと伸びた。規律正しい軍隊に来ているのだと、改めてルウクの緊張感が増す。

 パイロン大尉が戻って行くのを見送った後、ザッカム中尉がルウクに視線を向けた。

「これから2週間、君の担当になるザッカム中尉だ。短い期間なので厳しく行くが、付いて来るように」
「はい!」
「今日から2日間は、君の体力の確認と強化のために基礎訓練を行う。まずは訓練の前に柔軟体操から。」
「はい」

 ザッカム中尉が足を伸ばして前屈し始めたので、ルウクもそれに倣い同じように前屈をする。両足を広げて左右に体を倒し手を伸ばすルウクを横目に見て、そのまま柔軟体操を続けていった。

「結構、体は柔らかいんだな」
「はい。体の柔軟性や体力には、自信があります」
「なるほど」
「それではランニングをする。付いて来い。かなり長い時間走るけど、音を上げるなよ」
「頑張ります」

 ザッカム中尉が言うように、ランニングの時間は半端なかった。体力に自信のあるルウクだったが、最近は運動らしきものをしていなかったせいもあり息も上がるし足も痛くなった。だが、庶子だから農民出身を従者にしていると言わんばかりのセレンを中傷するようなネタを、これ以上自分から作るわけにはいかないと、ルウクは弱音を吐かず必死に食らいついた。

 その後少しの休憩を挟み、反復横跳びや腕立て伏せ、スクワットなどの基本メニューをこなす。昼休憩の後には又さまざまな筋トレメニューをこなし、一日が過ぎていった。

「よし、今日はこれで終わりだ。音も上げず、よく付いて来れたな。今日はゆっくり休んで、明日に備えるように」
「有難うございました」

 ペコリと一礼するルウクに、ザッカム中尉が初めて笑顔になる。

「本当は途中で音を上げて、動けなくなるんじゃないかと思っていた」
「正直体はかなり悲鳴を上げていますけど、気力で何とか乗り切りました」
「見直したよ。明日もこの調子で頑張ってくれ。じゃあ、もう戻っても良いぞ」
「はい。ではお先に失礼いたします」

 ルウクはもう一度頭を下げて、この場を離れる。太陽は既に大きく傾いていた。


 初日から2日間は、基礎訓練だけだったが、3日目からは剣や銃を使うための訓練に入った。

「剣は触ったことはあるか?」
「いいえ、ありません」
「そうか。では、まず素振りからだな。君の場合はスモールソードで良いだろう。これを使いなさい」

 そう言って渡された剣は、全長70cmと言ったところだろうか。斧やツルハシなら何度か持ったことはあるが、剣を持つのは初めてで些か緊張する。

「これは引いても押しても切れるが、どちらかと言うと突きの方が有効だ。まず、構えだが――」

 ルウクに剣を持たせて、ザッカム中尉がそれを直していく。

「足は肩幅くらいに広げて、左足は後ろに」
「こうですか?」

 言われた通りに足を持っていくと、中尉はしゃがんでルウクの足元を直す。

「こんな感じだ、覚えておけ。膝も曲げて……。そう、そんな感じだ。重心はしっかり置いて、フラフラするなよ」
「はい」
「それから肘は軽く曲げて、そう。手の甲は上だ。切っ先は真っ直ぐ。相手の喉元を狙う感じだ」

 説明をしながらルウクの姿勢を直していく。こういう物は体で覚えなければならないのだ。ルウクは頭で考えずに体で覚えこもうと、意識を集中した。

「で、基本的な攻撃の仕方だが、右足を大きく踏み込んで右腕も前に突き出す。着地は踵でするように気を付けろよ。膝を曲げて動きを止めてはだめだ」

「は、はい」
「では、それを意識して、まずは素振り100回」
「はい!」

 後退と前進を繰り返して剣を突き出すが、どうにも動きが鈍い。重心の持って行き方が悪いのかと、試行錯誤を繰り返しながら黙々と素振りを繰り返した。

 その様子を黙ってみていたザッカム中尉が、100回の素振りを終えて地面にしゃがみ込んだルウクの傍にやって来た。

「足腰そのものはそこまで軟弱では無いようだが、瞬発力を付けるにはもう少し筋力を鍛えねばならんな。少し休憩したら、スクワットだ」

「は、はい」

 ひたすら真面目に訓練に励むルウクの態度に、ザッカム中尉も熱が入るようだった。ハイドが言っていたように、ルウクが考えていたよりもかなりハードな訓練が、これから何日も続いて行く事になる。
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