45 / 83
嫉妬と羨望と
軍での訓練
しおりを挟む
営門にてセレンより渡された身分証明書を見せて中へと入る。指示された場所へと進んで行くと、向こうから背が高く体格の良い一人の男性が近づいて来た。
「ルウクか?」
「はい。今日からお世話になります、ルウク・ターナーです。よろしくお願いします」
「パイロン大尉だ。陛下より聞いている。今回の君の訓練にはザッカム中尉を配している。訓練内容は彼から聞きなさい」
「はい」
「ザッカム中尉!」
「はい!」
呼ばれて返事をした1人の隊員が、こちらに駆け寄って来る。20代後半と言ったところだろうか。体格は悪くは無いが、パイロン大尉ほど背は高く無かった。
「シガ殿から特別訓練を依頼されたルウク・ターナーだ。頼んだぞ」
「はい」
姿勢よく上官に返事をするザッカム中尉に、ルウクの姿勢もピンと伸びた。規律正しい軍隊に来ているのだと、改めてルウクの緊張感が増す。
パイロン大尉が戻って行くのを見送った後、ザッカム中尉がルウクに視線を向けた。
「これから2週間、君の担当になるザッカム中尉だ。短い期間なので厳しく行くが、付いて来るように」
「はい!」
「今日から2日間は、君の体力の確認と強化のために基礎訓練を行う。まずは訓練の前に柔軟体操から。」
「はい」
ザッカム中尉が足を伸ばして前屈し始めたので、ルウクもそれに倣い同じように前屈をする。両足を広げて左右に体を倒し手を伸ばすルウクを横目に見て、そのまま柔軟体操を続けていった。
「結構、体は柔らかいんだな」
「はい。体の柔軟性や体力には、自信があります」
「なるほど」
「それではランニングをする。付いて来い。かなり長い時間走るけど、音を上げるなよ」
「頑張ります」
ザッカム中尉が言うように、ランニングの時間は半端なかった。体力に自信のあるルウクだったが、最近は運動らしきものをしていなかったせいもあり息も上がるし足も痛くなった。だが、庶子だから農民出身を従者にしていると言わんばかりのセレンを中傷するようなネタを、これ以上自分から作るわけにはいかないと、ルウクは弱音を吐かず必死に食らいついた。
その後少しの休憩を挟み、反復横跳びや腕立て伏せ、スクワットなどの基本メニューをこなす。昼休憩の後には又さまざまな筋トレメニューをこなし、一日が過ぎていった。
「よし、今日はこれで終わりだ。音も上げず、よく付いて来れたな。今日はゆっくり休んで、明日に備えるように」
「有難うございました」
ペコリと一礼するルウクに、ザッカム中尉が初めて笑顔になる。
「本当は途中で音を上げて、動けなくなるんじゃないかと思っていた」
「正直体はかなり悲鳴を上げていますけど、気力で何とか乗り切りました」
「見直したよ。明日もこの調子で頑張ってくれ。じゃあ、もう戻っても良いぞ」
「はい。ではお先に失礼いたします」
ルウクはもう一度頭を下げて、この場を離れる。太陽は既に大きく傾いていた。
初日から2日間は、基礎訓練だけだったが、3日目からは剣や銃を使うための訓練に入った。
「剣は触ったことはあるか?」
「いいえ、ありません」
「そうか。では、まず素振りからだな。君の場合はスモールソードで良いだろう。これを使いなさい」
そう言って渡された剣は、全長70cmと言ったところだろうか。斧やツルハシなら何度か持ったことはあるが、剣を持つのは初めてで些か緊張する。
「これは引いても押しても切れるが、どちらかと言うと突きの方が有効だ。まず、構えだが――」
ルウクに剣を持たせて、ザッカム中尉がそれを直していく。
「足は肩幅くらいに広げて、左足は後ろに」
「こうですか?」
言われた通りに足を持っていくと、中尉はしゃがんでルウクの足元を直す。
「こんな感じだ、覚えておけ。膝も曲げて……。そう、そんな感じだ。重心はしっかり置いて、フラフラするなよ」
「はい」
「それから肘は軽く曲げて、そう。手の甲は上だ。切っ先は真っ直ぐ。相手の喉元を狙う感じだ」
説明をしながらルウクの姿勢を直していく。こういう物は体で覚えなければならないのだ。ルウクは頭で考えずに体で覚えこもうと、意識を集中した。
「で、基本的な攻撃の仕方だが、右足を大きく踏み込んで右腕も前に突き出す。着地は踵でするように気を付けろよ。膝を曲げて動きを止めてはだめだ」
「は、はい」
「では、それを意識して、まずは素振り100回」
「はい!」
後退と前進を繰り返して剣を突き出すが、どうにも動きが鈍い。重心の持って行き方が悪いのかと、試行錯誤を繰り返しながら黙々と素振りを繰り返した。
その様子を黙ってみていたザッカム中尉が、100回の素振りを終えて地面にしゃがみ込んだルウクの傍にやって来た。
「足腰そのものはそこまで軟弱では無いようだが、瞬発力を付けるにはもう少し筋力を鍛えねばならんな。少し休憩したら、スクワットだ」
「は、はい」
ひたすら真面目に訓練に励むルウクの態度に、ザッカム中尉も熱が入るようだった。ハイドが言っていたように、ルウクが考えていたよりもかなりハードな訓練が、これから何日も続いて行く事になる。
「ルウクか?」
「はい。今日からお世話になります、ルウク・ターナーです。よろしくお願いします」
「パイロン大尉だ。陛下より聞いている。今回の君の訓練にはザッカム中尉を配している。訓練内容は彼から聞きなさい」
「はい」
「ザッカム中尉!」
「はい!」
呼ばれて返事をした1人の隊員が、こちらに駆け寄って来る。20代後半と言ったところだろうか。体格は悪くは無いが、パイロン大尉ほど背は高く無かった。
「シガ殿から特別訓練を依頼されたルウク・ターナーだ。頼んだぞ」
「はい」
姿勢よく上官に返事をするザッカム中尉に、ルウクの姿勢もピンと伸びた。規律正しい軍隊に来ているのだと、改めてルウクの緊張感が増す。
パイロン大尉が戻って行くのを見送った後、ザッカム中尉がルウクに視線を向けた。
「これから2週間、君の担当になるザッカム中尉だ。短い期間なので厳しく行くが、付いて来るように」
「はい!」
「今日から2日間は、君の体力の確認と強化のために基礎訓練を行う。まずは訓練の前に柔軟体操から。」
「はい」
ザッカム中尉が足を伸ばして前屈し始めたので、ルウクもそれに倣い同じように前屈をする。両足を広げて左右に体を倒し手を伸ばすルウクを横目に見て、そのまま柔軟体操を続けていった。
「結構、体は柔らかいんだな」
「はい。体の柔軟性や体力には、自信があります」
「なるほど」
「それではランニングをする。付いて来い。かなり長い時間走るけど、音を上げるなよ」
「頑張ります」
ザッカム中尉が言うように、ランニングの時間は半端なかった。体力に自信のあるルウクだったが、最近は運動らしきものをしていなかったせいもあり息も上がるし足も痛くなった。だが、庶子だから農民出身を従者にしていると言わんばかりのセレンを中傷するようなネタを、これ以上自分から作るわけにはいかないと、ルウクは弱音を吐かず必死に食らいついた。
その後少しの休憩を挟み、反復横跳びや腕立て伏せ、スクワットなどの基本メニューをこなす。昼休憩の後には又さまざまな筋トレメニューをこなし、一日が過ぎていった。
「よし、今日はこれで終わりだ。音も上げず、よく付いて来れたな。今日はゆっくり休んで、明日に備えるように」
「有難うございました」
ペコリと一礼するルウクに、ザッカム中尉が初めて笑顔になる。
「本当は途中で音を上げて、動けなくなるんじゃないかと思っていた」
「正直体はかなり悲鳴を上げていますけど、気力で何とか乗り切りました」
「見直したよ。明日もこの調子で頑張ってくれ。じゃあ、もう戻っても良いぞ」
「はい。ではお先に失礼いたします」
ルウクはもう一度頭を下げて、この場を離れる。太陽は既に大きく傾いていた。
初日から2日間は、基礎訓練だけだったが、3日目からは剣や銃を使うための訓練に入った。
「剣は触ったことはあるか?」
「いいえ、ありません」
「そうか。では、まず素振りからだな。君の場合はスモールソードで良いだろう。これを使いなさい」
そう言って渡された剣は、全長70cmと言ったところだろうか。斧やツルハシなら何度か持ったことはあるが、剣を持つのは初めてで些か緊張する。
「これは引いても押しても切れるが、どちらかと言うと突きの方が有効だ。まず、構えだが――」
ルウクに剣を持たせて、ザッカム中尉がそれを直していく。
「足は肩幅くらいに広げて、左足は後ろに」
「こうですか?」
言われた通りに足を持っていくと、中尉はしゃがんでルウクの足元を直す。
「こんな感じだ、覚えておけ。膝も曲げて……。そう、そんな感じだ。重心はしっかり置いて、フラフラするなよ」
「はい」
「それから肘は軽く曲げて、そう。手の甲は上だ。切っ先は真っ直ぐ。相手の喉元を狙う感じだ」
説明をしながらルウクの姿勢を直していく。こういう物は体で覚えなければならないのだ。ルウクは頭で考えずに体で覚えこもうと、意識を集中した。
「で、基本的な攻撃の仕方だが、右足を大きく踏み込んで右腕も前に突き出す。着地は踵でするように気を付けろよ。膝を曲げて動きを止めてはだめだ」
「は、はい」
「では、それを意識して、まずは素振り100回」
「はい!」
後退と前進を繰り返して剣を突き出すが、どうにも動きが鈍い。重心の持って行き方が悪いのかと、試行錯誤を繰り返しながら黙々と素振りを繰り返した。
その様子を黙ってみていたザッカム中尉が、100回の素振りを終えて地面にしゃがみ込んだルウクの傍にやって来た。
「足腰そのものはそこまで軟弱では無いようだが、瞬発力を付けるにはもう少し筋力を鍛えねばならんな。少し休憩したら、スクワットだ」
「は、はい」
ひたすら真面目に訓練に励むルウクの態度に、ザッカム中尉も熱が入るようだった。ハイドが言っていたように、ルウクが考えていたよりもかなりハードな訓練が、これから何日も続いて行く事になる。
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる