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嫉妬と羨望と

国王の傍にいるということ

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 セレンが王位に就いてから、そろそろ1ケ月になろうとしていた。
 そんな頃になると、国王のすぐ傍にほとんど付き従っているルウクの事を皆が噂し始めていた。セレンが国王でなかったころは気にもしなかった農民出身のルウクの事が、どうしても気になるようだった。そしてその声は、ルウクの耳にも届くようになる。

「おはようございます。ハイドさん」
「おはよう、ルウク」

 いつものように挨拶を交わし、食堂へと向かう。今日からルウクは国王軍の二等兵に交じり、2週間特別に訓練を受けさせてもらう事になっていた。

「いよいよ今日からだな」
「はい。身になるように頑張ってきます」
「……あれなあ、担当が付いて教えてくれるんだけど結構厳しいから、体力無いと付いていくのに大変だぞ」

「それは大丈夫です。体力には自信があります。実家で繁忙期には、何時間も野菜を収穫したり重い荷物を運んだりしていましたから」

「ああ、そうだったな。……そう言えば、セレン様が何度かお忍びで通っていたよな」
「はい。農業に興味を持っていらっしゃいました」

 セレンに王位継承権の無かった頃の話だ。2人が少し懐かしい気分になっていると、背後からルウクの事を噂する声が聞こえて来た。

「ほら、あいつだ。庶子を国王に推した方々もどうかと思うが、学歴も無い農民を第一秘書にするだなんて、ソルダン王国も地に落ちたもんだよな」

「ホント、ホント。王家の品格が問われるよな」

「何言ってるんだ、お前ら! 陛下は宰相に推されて国王になったんだぞ! それにルウクだってミツナ高校を優秀な成績で卒業してるんだ。誹謗中傷は許さんぞ!」

「何が、ミツナだ。あんなとこ平民が通う学校じゃないか」
「何だと!」
「ハ、ハイドさんっ」

 往来で言い合いを始めたハイドに、焦ってルウクが止めに入る。

「なんだよ、ルウクはこんな言われ放題に言われて悔しくないのか?」
「僕の事は良いです。でも――」

 ルウクは振り返り、噂をしている者の顔を見た。

「陛下の生まれを蔑むような言い方は止めて下さい。それよりも、どうして宰相のようなお方が陛下を国王に推挙したのかを考えられてはいかがですか?」

 はっきり何も疚しい事など無いと真っすぐな瞳で訴えるルウクに、噂をしていた者たちが一瞬たじろいだ。だが、すぐに我に返り悪態を吐き始める。

「何だい、偉そうに! どんなに優秀な国王だろうが、従者が農民だって事に何ら変わりは無いだろう!」
「そうだ、そうだ! 農民のお前が偉そうにすんじゃねーよ」

 捨て台詞を言うだけ言って、彼らはバタバタと走って去って行った。

「大丈夫か、ルウク」

「大丈夫です。……以前の僕だったら、農民の子と馬鹿にされたらきっと悔しかったでしょうけど……。セレン様が以前おっしゃって下さった事があるんです。農業は誇りある仕事で、生きるために必要な仕事に従事している人たちを尊敬するって。僕にとってはあのセレン様のお言葉が全てだから、誰かに何を言われても、それほど苦だとは思いません」

「そうか」

 目を伏せて、静かにその時の事を思い出しながら話すルウクにハイドも安堵した。

 そして今まで彼がセレンの事を優しい人で憧れていると言っていた意味を改めてハイドは理解し、お互い信頼を寄せあうセレンとルウクを、少し羨ましいとも思った。

 それは主従関係のみならず、人と人との出会いにおいても信頼を置ける関係を築くことが、とても貴重な事だと思えたからだ。


 食事を済ませた後、ルウクはハイドと共にセレンの居る執務室へと足を運んだ。今日から2週間、国王軍の二等兵に交じって訓練を受けに行くことを改めて報告するためだ。

「陛下、我がままを聞いて下さりありがとうございます。今日から2週間訓練に励んで参ります。しばらく留守にさせて頂きますが、戻り次第その分を挽回するように頑張ります」

「ああ。私の方からも、パイロン大尉にルウクをよろしく頼むと言ってある。行くからにはしっかり励んで来い」
「はい! では、行って参ります」

 ルウクは見送る皆に一礼して、そのまま執務室を出て行った。そして、そのまま軍の演習場へと向かった。
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