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嫉妬と羨望と

王としての意志

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「これは何だ」

執務室で地方からの陳情書などを確認している所へシガがやって来た。そしてセレンに数十枚の資料を手渡す。

「セレン様……、セレン王に仕える重臣候補です。大蔵大臣や法務長官、国務大臣などを決めなければなりません。それと枢密院の顧問官もです。経歴も書かれております。それと人柄などはナイキ侯爵が追記しております」

 セレンは渡された資料をパラパラと捲りながら、ため息を吐く。

「私に必要なのはルウクだけだ。シガ、お前が選べば良い。シガが選んだ人材なら間違いはないだろう」
「陛下……」
「私の事を王だの、陛下などと呼ぶな。慣れないから、気持ちが悪い」
「……分かりました。では、身内の者だけの時には従来通り呼ばせてもらいます。……セレン様」
「何だ」

「私も選ぶのを手伝いますから、ご一緒にご覧になって下さい。共に信頼関係を結んでいかなければならない相手です。気になる方は呼び出して、面談することも出来ますから」

「面談……か。その時はシガも立ち会えるか?」
「はい、もちろんです」
「……ルウクにも立ち会わそう。構わないよな?」
「はい、それが良いかと存じます」

 シガがソファに腰かけ資料を広げると、セレンも素直に応じ、資料を手に名前と写真を確認し、経歴や人柄にも目を通していく。

「シガ」
「はい」
「この資料に、先に目は通してあるのか?」
「はい。ざっと簡単にですが」
「……フリッツは載っていたか?」
「フリッツ・マルコニー殿の事ですか? いえ、彼はこの資料の中には無かったと思いますが」

「……そうか。なあ、彼にも国政に携わってもらうというのはどうだろう? 兄上も、その方が喜んでくれるのではないかと思うのだが」

「セレン様……。そう、ですな。良い考えだと思います。それに人事を決める権限は、セレン様にお有りです」
「有難う、シガ。……では、丁度いいからシガにも頼んでおこうかな」
「何でしょう?」

 セレンのどことなく真面目な物言いに、手にしていた資料をシガは一旦テーブルの上に置いた。

「今の教育の在り方をどう思う?」
「教育……ですか?」

「そうだ。階級や身分によって教育の在り方が違うだろう? しかも領主の裁量で領民に与えられる教育にも違いがありすぎる。ルーファスに赴いた際その技術の高さに正直驚いた。サントー伯爵の熱意が良い教師を招き入れ、領民にも高い技術を身につけさせることに成功している良い例だ」

「なるほど……。高い技術ですか」

「もちろん、だからと言って自然科学などの技術者ばかりを育てていてもだめだ。数学や、一般の犯罪者を起訴や弁護をする法律関係に詳しい人材も必要だし、生きていくためには農業や酪農、その他にも色々と学ぶ必要がある。だけど今の現状では。自由に自分が学びたいものを選択することは出来ないだろう?」

「そうですな。下々の者にそういう余裕はないでしょう」

「その通りだ。だから出来れば優秀な人材で経済的に苦しい者に対しては、国が奨学金を与えるような形で進学させるという方法も考えてもいいのではないかと思うんだ。そういう制度も含めて、フリッツが教育関連の長官になってもらえると有難いんだが」

「それはいい考えだと思います。……ですが、特権階級を持っている諸侯らには面白くない話かもしれませんぞ」
「そうかもしれんが。それが嫌だと言うのなら、私を王に据える意味が無いだろう。私なんか異例中の異例だ」
「そうですな」

 シガは困ったように苦笑した。セレンは継承権の無い生まれだ。本来なら表舞台に立つ身分では無いので、多少窮屈な事はあってももう少し伸び伸びと己の信じる道を進んでいくことが出来たはずなのだ。

 父である先代のシエイ王は彼に様々な知識や国の在りようを見分させていたが、それはあくまでも兄であるシザク王を補佐させる為であった。シエイ王の本意は別としても。

「シガ」
「はい」
「シガには私の秘書長官にもなってもらいたい。それと同時に、フリッツの補佐官も担ってもらえるか?」
「畏まりました」
「有難う。助かる」

 セレンはシガの返事に安堵したのか、また資料を開き始めた。

「セレン様」
「なんだ?」
「ルウクはどうなさいますか?」
「ああ、彼には私の第一秘書として働いてもらう」
「それは……」
「なんだ、不服か?」
「いえ、私には異存はありませんが」
「差別意識の高い者たちに反発を買うと?」
「はい」

「だが、こればかりは譲らないぞ。はっきり言って私はシガやルウク以外の人間を信用してはいない。……まあ、百歩譲ってハイドはお前の配下だから信用はしているが。誰かが文句を言うようならナイキ侯爵に対処させろ。あいつが私を国王に祭り上げたのだから」

 冷ややかに、だが一歩も引く意思は無いと宣言するセレンにシガは軽く笑った。その、らしい物言いが微笑ましくもあり心配の種だとも思えたからだ。

 彼の生い立ちからくる警戒心の強さは、きっと一朝一夕には変わることは無いのだろう。


 その後セレンは手渡された資料以外にも、シガが一目置く人物やサイゴン伯爵にも意見を聞き、必要だと思われる人材を選んでいった。
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