国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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ルナイ姫との縁談

気になるルナイ姫

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「こちらは?」

 ルナイ姫が、戻って来たユリハに視線を向ける。

「ああ、紹介が遅れました。こちらはバルラック公爵と、レディ・ユリハです。そしてこちらは、ルナイ姫。カチューン国の姫君だ」

「ごきげんよう、バルラック公爵、レディ・ユリハ」
「初めましてルナイ姫」
「ごきげんよう、ルナイ姫」
「さあ、姫。それでは私たちも一曲踊りましょうか」

 一通り挨拶を済ませたのを見計らい、シザク王が手を差し出す。ルナイ姫もその手を取って前へと進んでいった。

 流れ出す曲に合わせて優雅に踊りだす二人は,ダンスをよく知らないルウクにとっても、とても上手く見えた。セレンとユリハのダンスとは、また違った趣が二人にはあった。

「優雅な踊りですな」
「本当に。ルナイ姫、とても綺麗……」

 感嘆として呟くユリハの顔を、セレンがチラリと見る。

「レディ・ユリハ」
「はい」

 セレンに呼びかけられてユリハが顔を上げた。

「あなたも凄く綺麗ですよ」
「セ、レン様……?」

 思ってもいないことをセレンに言われ、ユリハの顔が真っ赤になる。目を瞬かせて、セレンを上目遣いに見つめた。

「ご自分では、自分の魅力はなかなか分からないものなのかもしれませんね」

 さらに、ニコリと微笑みつきで言われ、ユリハはさらに顔の熱さが増し、とうとうセレンを直視出来なくなってしまった。顔に手を当て俯くユリハ。その顔の熱さは、シザク王たちがダンスを終えて戻って来た時も引いてはいなかった。

 ユリハとセレンの雰囲気が、ルナイ姫はどうにも気になって仕方がないようだった。チラチラと二人の様子を窺うさまは、ルウクの目にも明らかだった。

 それでも二組で同時に練習をしたり、時々相手のダンスを見たりと、終始和やかにこの場は過ぎて行った。

「それでは私たちはそろそろ上がろうか」

 ダンスを終えて戻って来たセレンが、ユリハやバルラック公爵、ルウクに声をかける。

「そうですな。さすがセレン様です。下手くそなユリハを上手くリードして下さって、感服しました」
「そんな事は無い。ユリハ嬢も私に上手く合わせてくれた」

 そう言いながらユリハを振り返り、優しく微笑んだ。ユリハもはにかんで微笑み返す。

「兄上、まだ続けられますか?」
「ああ、そうだな。もう二、三曲踊っていこうかな」
「そうですか。それでは私どもは、先に失礼します」
「シザク王、失礼いたします」
「ああ、また後でな」

 シザク王は軽く手を上げてルナイ姫に向き直る。そして彼女の手を引いて、曲に合わせて踊り始めた。それを確認したセレンたちは広間を出て行った。

「バルラック公爵、これからの予定は?」
「はい。馬車を待たせておりますので帰ります。今日はユリハの相手をしていただいてありがとうございました」
「ありがとうございます」

 公爵に習ってユリハもセレンに礼を言った。

「いやいや、こちらこそ楽しかった。ありがとう。では、晩さん会の時にはよろしく頼む」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 バルラック公爵とユリハはセレンらに挨拶をして、それから待たせている馬車に乗り込んで帰って行った。その様子を見送った後、セレンらは自室へと足を向ける。

「どうした、ルウク」

 二人並んで歩きながら、セレンが心配そうな顔をルウクに向けた。

「え?」
「何だか元気がないように見える」
「あ……」

 ルナイ姫の事を気の毒だと思って見ていたせいか、さっきから口数が少なくなっていいたことに気が付いて苦笑する。

(こんな僕なんかの些細な変化を気づくくらいのセレン様が、ルナイ姫のお気持ちに気が付かないはず無いのにな)

「すみません。余計な事を考えていました」
「余計な事?」

「ルナイ姫の事を気の毒だと思っていました。姫はたぶん、本気でセレン様の事をお好きだと思います。国の思惑とかそういう事が無ければ、お二人の在りようも変わっていたのかなと、そんな事を考えていました」

「……お前は優しいな」

 ルウクの言葉を黙って聞いていたセレンが、目線を下に落としてポツリと呟いた。その表情は、少し冷ややかにさえ見える。

「セレン様」

「私の考える事は、この国の在りようだけだ。この国の民の幸せや権利。そしてそのためにも、この国をいかに繁栄させるか……。それだけだ」

 澄んで怜悧な瞳。だけどそれにはどこか冷たい光が宿っていた。
 まるでこの国のこと以外はちっぽけな物でしかないとでも言いたげなセレンの言葉と表情に。ルウクは息を呑んだ。以前ハイドが言っていたセレンの冷たい部分とは、このことを言うのかもしれない。

「それに」

 ゆっくりと顔を上げ、セレンがルウクを直視した。

「たとえ国同士の駆け引きが無かったとしても、私はルナイ姫を好きになる事は、恐らくないぞ」
「そう、なのですか?」

(あんなにお綺麗な方なのに……)

「ルウクはあのような美人が好みなのか?」

 逆にニヤリと笑われて、揶揄われる羽目になっていた。ルウクは目を瞬かせる。

「え、いえ。そうではなくて、美男美女でお似合いだと思ったものですから!」

 焦って両手を前で振りながら言い訳をするルウクに、セレンがおかしそうに笑いだした。

「ルナイ姫は確かに美人かもしれないけど、あれはかなりの我儘だぞ。ルウクには手に負えないだろうし、私はあれに合わせる趣味は無いな」

「……ですから、僕の好みとかではないです。セレン様は、どのような方ならお好みなのですか?」

「私か? そうだなあ。どちらかというと、頭が良くて控えめな女性かな……。そういう意味では、ルナイ姫よりはレディ・ユリハの方が好みかもしれないな」

「なるほど……」

 ルウクは視線を宙に向け、先ほどの二人の仲睦まじいダンスの様子を思い浮かべた。

「あくまでもルナイ姫よりは、という事だぞ」
「え?」
「彼女を好きだという事ではないからな」
「……さようでございますか……」
「なんだかお前もシガに似てきたな」
「え?」

「時々私に愚痴をこぼすんだよ。誰か好きな女性はいないのかとか、朴念仁で困るだとか……。あいつは私を腑抜けにさせる気、満々だぞ?」

 ふてくされているようなセレンの様子に、ルウクが慌てて釈明する。シガの様子からして、どう考えてもセレンの為を思っての発言だという事に間違いがあるわけがない。

「それは絶対違いますよ! シガ殿はセレン様が可愛くて仕方がないから、お幸せになって欲しいと心から思っておいでなのですよ」

 真顔で力説するルウクに、セレンは「ぷっ」と吹き出した。笑いながら歩みを速めたセレンに、ルウクも足早に追いかける。

 時間は午後三時を回ったくらいだろうか。太陽が傾き、長い影を作り出す。連なって歩く二人の影が、重なるように進んで行った。
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