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王の遺言
ルウクの家族
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ハイドは嬉々として立ち上がり、ルウクに家はどこだと全身で促す。その態度はまるで、ルウクの気が変わらぬうちに話を進めようと思っているようにも見えて、ルウクは苦笑した。
ルウクはハイドを家に案内する。家には祖父も両親も揃っていて、弟も学校から戻っていた。
「初めまして。私は王のご子息、セレン様に仕えております、ハイドと申します」
案内された居間で、ハイドが自己紹介を始めると、家族一同目を丸くして固まった。
「え、あの……王のご子息……? セレン様って、この間ルウクに会いにいらしてた……?」
「はい。そうです。あの、セレン様です」
ハイドが肯定したことで、みんなびっくりして騒ぎだす。
「ちょっと、ルウク! 何であの時ちゃんと教えてくれなかったのよ!」
「そんな事よりお前、どうやって王子様とお知り合いになったんだ?」
「兄ちゃん、自分だけ狡い!」
口々に喚かれてルウクは頭が痛くなってくる。自分だって今さっき、彼が王家の者だとハイドに教えてもらったばかりなのだ。
「僕だって今知ったばかりだよ。身分が高そうな人だなとは思っていたけど、まさか王様のご子息だなんて思っても居なかったんだよ」
ため息交じりにつぶやくと、母のマリナが心配そうな顔をする。
「ルウク、あんた王子様に失礼な事とかしたんじゃないだろうね」
「あ、それは無いです。心配なさらないでください。……それと、正式にはセレン様は王子ではありません」
ハイドがマリナが案じている事を察し、はっきりと否定した。そして、やんわりと王子ではないと否定する。その言葉に一同怪訝な顔をするが、それ以上の事を伝える気が無いらしいハイドはそのまま言葉を続けた。
「ここに私が来たのは、ご家族の皆さんにお願いしたいことがあったからなんです」
ハイドが真剣な表情で居住まいを正しながら発した言葉に、マリナやタイガ、そして祖父のシルフが何事かと身構えた。王家の方から遣わされたハイドに頼みごとがあると言われ、我に返ったようだった。
「ルウクを、セレン様の世話役にいただきたいのです」
「え……」
「世話役? ルウクを、ですか?」
想像もしていなかった事をいきなり言われ、皆キョトンとする。あまりにも予想外な事に、意味を飲み込めていないようだった。
「はい。大事な息子さんを手放す事はかなり抵抗があるかとは思いますが、お考えいただけませんでしょうか」
真剣な表情で訴えるハイドに皆唖然としたままだった。
それも致し方ない事だろう。作物の事しか考えた事のない普通の農家だ。王宮に入り仕事をするだなんてきっと想像も出来ない事だ。
実際ルウクもただセレンに仕える事が出来ると言うことが嬉しいだけで、そのほかの事は何も考えてはいなかったりする。
「ルウク、おまえはどうなんだ?」
今まで黙って聞いていたシルフが、ルウクに向き直って問いかけた。その静かな物言いにルウクの背筋もピンとなる。そして自分がただセレンの傍に行ける事に浮かれていただけだと気づかされた。
自分の気持ち……。目を閉じて、静かに考えてみる。
(セレン様は複雑な生い立ちで、味方がほとんどいないと言っていた。だけど、そんな中で第一王子の補佐役として奮闘しないといけない立場にいるんだ……)
ルウクは、まるで自分の事のように胸が痛んだ。そして、少しでも力になれるのなら役に立ちたいと、そう思う自分がちゃんといる事に気が付いた。
「僕は、セレン様のお役に立ちたいと思ってる」
ルウクは静かにはっきりと前を向いて答えた。そのルウクの姿勢にハイドは安心したように肩の力を抜き、シルフは「そうか」とため息を漏らした。
「父さん、母さん。僕、王宮に行っても良いかな?」
ルウクの問いに、マリナとタイガは顔を見合わせてしょうがないなと言う表情を作った。
「お前が父さんたちに意思表示をしたのは初めてだよな。行って来い。お前が希望するのなら止めたりはしない。セレン様のお役に立てるように頑張るんだぞ」
「辛くなったらいつでも、帰って来るんだよ」
タイガは息子のルウクを頼もしそうに見、マリナは心配そうにルウクの手を握る。二人の暖かく自分を思う気持ちに、ルウクも胸が熱くなった。
「受け入れて下さってありがとうございます。三日後にこちらにお迎えに上がりますので、身の回りの物を纏めておいてもらえますか?」
「三日後ですか?」
マリナがびっくりして聞き返す。ルウクも驚いた。そんなに急ぎの事だとは思っていなかったのだ。
「すみません。……内密にしていただきたいのですが、王の病状はあまり良くありません。シザク王子への王位継承も恐らくそう先の事ではないと思うのです。ルウクには王位が継承される前にセレン様に仕え、側に居て欲しいのです」
「分かりました。三日後までに準備しておきます」
タイガもシルフも既に納得したように落ち着いて話を聞いていたが、マリナと弟のルアンは寂しそうに眉を下げた。
ルウクはハイドを家に案内する。家には祖父も両親も揃っていて、弟も学校から戻っていた。
「初めまして。私は王のご子息、セレン様に仕えております、ハイドと申します」
案内された居間で、ハイドが自己紹介を始めると、家族一同目を丸くして固まった。
「え、あの……王のご子息……? セレン様って、この間ルウクに会いにいらしてた……?」
「はい。そうです。あの、セレン様です」
ハイドが肯定したことで、みんなびっくりして騒ぎだす。
「ちょっと、ルウク! 何であの時ちゃんと教えてくれなかったのよ!」
「そんな事よりお前、どうやって王子様とお知り合いになったんだ?」
「兄ちゃん、自分だけ狡い!」
口々に喚かれてルウクは頭が痛くなってくる。自分だって今さっき、彼が王家の者だとハイドに教えてもらったばかりなのだ。
「僕だって今知ったばかりだよ。身分が高そうな人だなとは思っていたけど、まさか王様のご子息だなんて思っても居なかったんだよ」
ため息交じりにつぶやくと、母のマリナが心配そうな顔をする。
「ルウク、あんた王子様に失礼な事とかしたんじゃないだろうね」
「あ、それは無いです。心配なさらないでください。……それと、正式にはセレン様は王子ではありません」
ハイドがマリナが案じている事を察し、はっきりと否定した。そして、やんわりと王子ではないと否定する。その言葉に一同怪訝な顔をするが、それ以上の事を伝える気が無いらしいハイドはそのまま言葉を続けた。
「ここに私が来たのは、ご家族の皆さんにお願いしたいことがあったからなんです」
ハイドが真剣な表情で居住まいを正しながら発した言葉に、マリナやタイガ、そして祖父のシルフが何事かと身構えた。王家の方から遣わされたハイドに頼みごとがあると言われ、我に返ったようだった。
「ルウクを、セレン様の世話役にいただきたいのです」
「え……」
「世話役? ルウクを、ですか?」
想像もしていなかった事をいきなり言われ、皆キョトンとする。あまりにも予想外な事に、意味を飲み込めていないようだった。
「はい。大事な息子さんを手放す事はかなり抵抗があるかとは思いますが、お考えいただけませんでしょうか」
真剣な表情で訴えるハイドに皆唖然としたままだった。
それも致し方ない事だろう。作物の事しか考えた事のない普通の農家だ。王宮に入り仕事をするだなんてきっと想像も出来ない事だ。
実際ルウクもただセレンに仕える事が出来ると言うことが嬉しいだけで、そのほかの事は何も考えてはいなかったりする。
「ルウク、おまえはどうなんだ?」
今まで黙って聞いていたシルフが、ルウクに向き直って問いかけた。その静かな物言いにルウクの背筋もピンとなる。そして自分がただセレンの傍に行ける事に浮かれていただけだと気づかされた。
自分の気持ち……。目を閉じて、静かに考えてみる。
(セレン様は複雑な生い立ちで、味方がほとんどいないと言っていた。だけど、そんな中で第一王子の補佐役として奮闘しないといけない立場にいるんだ……)
ルウクは、まるで自分の事のように胸が痛んだ。そして、少しでも力になれるのなら役に立ちたいと、そう思う自分がちゃんといる事に気が付いた。
「僕は、セレン様のお役に立ちたいと思ってる」
ルウクは静かにはっきりと前を向いて答えた。そのルウクの姿勢にハイドは安心したように肩の力を抜き、シルフは「そうか」とため息を漏らした。
「父さん、母さん。僕、王宮に行っても良いかな?」
ルウクの問いに、マリナとタイガは顔を見合わせてしょうがないなと言う表情を作った。
「お前が父さんたちに意思表示をしたのは初めてだよな。行って来い。お前が希望するのなら止めたりはしない。セレン様のお役に立てるように頑張るんだぞ」
「辛くなったらいつでも、帰って来るんだよ」
タイガは息子のルウクを頼もしそうに見、マリナは心配そうにルウクの手を握る。二人の暖かく自分を思う気持ちに、ルウクも胸が熱くなった。
「受け入れて下さってありがとうございます。三日後にこちらにお迎えに上がりますので、身の回りの物を纏めておいてもらえますか?」
「三日後ですか?」
マリナがびっくりして聞き返す。ルウクも驚いた。そんなに急ぎの事だとは思っていなかったのだ。
「すみません。……内密にしていただきたいのですが、王の病状はあまり良くありません。シザク王子への王位継承も恐らくそう先の事ではないと思うのです。ルウクには王位が継承される前にセレン様に仕え、側に居て欲しいのです」
「分かりました。三日後までに準備しておきます」
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