国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

文字の大きさ
上 下
7 / 83
王の遺言

ルウクの家族

しおりを挟む
 ハイドは嬉々として立ち上がり、ルウクに家はどこだと全身で促す。その態度はまるで、ルウクの気が変わらぬうちに話を進めようと思っているようにも見えて、ルウクは苦笑した。

 ルウクはハイドを家に案内する。家には祖父も両親も揃っていて、弟も学校から戻っていた。

「初めまして。私は王のご子息、セレン様に仕えております、ハイドと申します」

 案内された居間で、ハイドが自己紹介を始めると、家族一同目を丸くして固まった。

「え、あの……王のご子息……? セレン様って、この間ルウクに会いにいらしてた……?」
「はい。そうです。あの、セレン様です」

 ハイドが肯定したことで、みんなびっくりして騒ぎだす。

「ちょっと、ルウク! 何であの時ちゃんと教えてくれなかったのよ!」
「そんな事よりお前、どうやって王子様とお知り合いになったんだ?」
「兄ちゃん、自分だけ狡い!」

 口々に喚かれてルウクは頭が痛くなってくる。自分だって今さっき、彼が王家の者だとハイドに教えてもらったばかりなのだ。

「僕だって今知ったばかりだよ。身分が高そうな人だなとは思っていたけど、まさか王様のご子息だなんて思っても居なかったんだよ」

 ため息交じりにつぶやくと、母のマリナが心配そうな顔をする。

「ルウク、あんた王子様に失礼な事とかしたんじゃないだろうね」
「あ、それは無いです。心配なさらないでください。……それと、正式にはセレン様は王子ではありません」

 ハイドがマリナが案じている事を察し、はっきりと否定した。そして、やんわりと王子ではないと否定する。その言葉に一同怪訝な顔をするが、それ以上の事を伝える気が無いらしいハイドはそのまま言葉を続けた。

「ここに私が来たのは、ご家族の皆さんにお願いしたいことがあったからなんです」

 ハイドが真剣な表情で居住まいを正しながら発した言葉に、マリナやタイガ、そして祖父のシルフが何事かと身構えた。王家の方から遣わされたハイドに頼みごとがあると言われ、我に返ったようだった。

「ルウクを、セレン様の世話役にいただきたいのです」
「え……」
「世話役? ルウクを、ですか?」

 想像もしていなかった事をいきなり言われ、皆キョトンとする。あまりにも予想外な事に、意味を飲み込めていないようだった。

「はい。大事な息子さんを手放す事はかなり抵抗があるかとは思いますが、お考えいただけませんでしょうか」

 真剣な表情で訴えるハイドに皆唖然としたままだった。
 それも致し方ない事だろう。作物の事しか考えた事のない普通の農家だ。王宮に入り仕事をするだなんてきっと想像も出来ない事だ。

 実際ルウクもただセレンに仕える事が出来ると言うことが嬉しいだけで、そのほかの事は何も考えてはいなかったりする。

「ルウク、おまえはどうなんだ?」

 今まで黙って聞いていたシルフが、ルウクに向き直って問いかけた。その静かな物言いにルウクの背筋もピンとなる。そして自分がただセレンの傍に行ける事に浮かれていただけだと気づかされた。

 自分の気持ち……。目を閉じて、静かに考えてみる。

(セレン様は複雑な生い立ちで、味方がほとんどいないと言っていた。だけど、そんな中で第一王子の補佐役として奮闘しないといけない立場にいるんだ……)

 ルウクは、まるで自分の事のように胸が痛んだ。そして、少しでも力になれるのなら役に立ちたいと、そう思う自分がちゃんといる事に気が付いた。

「僕は、セレン様のお役に立ちたいと思ってる」

 ルウクは静かにはっきりと前を向いて答えた。そのルウクの姿勢にハイドは安心したように肩の力を抜き、シルフは「そうか」とため息を漏らした。

「父さん、母さん。僕、王宮に行っても良いかな?」

 ルウクの問いに、マリナとタイガは顔を見合わせてしょうがないなと言う表情を作った。

「お前が父さんたちに意思表示をしたのは初めてだよな。行って来い。お前が希望するのなら止めたりはしない。セレン様のお役に立てるように頑張るんだぞ」

「辛くなったらいつでも、帰って来るんだよ」

 タイガは息子のルウクを頼もしそうに見、マリナは心配そうにルウクの手を握る。二人の暖かく自分を思う気持ちに、ルウクも胸が熱くなった。

「受け入れて下さってありがとうございます。三日後にこちらにお迎えに上がりますので、身の回りの物を纏めておいてもらえますか?」
「三日後ですか?」

 マリナがびっくりして聞き返す。ルウクも驚いた。そんなに急ぎの事だとは思っていなかったのだ。

「すみません。……内密にしていただきたいのですが、王の病状はあまり良くありません。シザク王子への王位継承も恐らくそう先の事ではないと思うのです。ルウクには王位が継承される前にセレン様に仕え、側に居て欲しいのです」

「分かりました。三日後までに準備しておきます」

 タイガもシルフも既に納得したように落ち着いて話を聞いていたが、マリナと弟のルアンは寂しそうに眉を下げた。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け作品
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

処理中です...