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王の遺言
再会
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セレンとルウクが出会ってから、既に二週間が過ぎていた。だが、『また会おう』と言っていたにも関わらず、セレンはあれ以来、ここには来ていないようだった。
「ルウク、手が休んでる」
セレンの事を考えていたら、どうやら手が疎かになっていたらしい。ルウクは我に返り包丁を手に、キャベツの球の部分を茎から切り取る。
ザクザクと手際よくキャベツの球を切り取っていると、頭上から母、マリナに声をかけられた。
「ルウク、セレンとかいう人、知ってる? 凄く身分の高そうな人なんだけど」
「え?」
知っているも何も、彼がたった今考えていた相手だった。ルウクは一瞬、声に出してしまっていたのかと焦る。
「ルウク?」
「あ、うん。知ってるよ。前にここで会ったことがあるけど」
「そうなの? アンタに会いに来てるわよ」
「え!?」
ルウクはマリナの言葉にすぐさま反応した。立ち上がってマリナの指差す方向を見る。するとそこには、二週間前と同じように凛とした佇まいの彼がいた。
「久しぶりだな」
「セレン様!」
ルウクはセレンの姿を見るなり思わず駆け出していた。マリナやルウクの父のタイガがびっくりして振り返る。まるで飼い犬がご主人を見つけて駆け寄るかのような姿にセレンも一瞬驚くが、すぐに楽しそうに笑った。
「元気そうだな。……今、大丈夫か? 大事な収穫期みたいだが」
「あ~。あんまり長くは話せないかもしれないです」
ルウクの言葉にセレンはちょっと考えるようなしぐさをし、徐に口を開いた。
「私も、手伝ってみても良いか?」
「え? セレン様が?」
ルウクが驚いてセレンを見上げると、とても興味深そうにマリナやタイガの作業を見ていた。社交辞令とかではなく、本当に興味があるのだと理解して、ルウクはセレンを案内しようと立ち上がった。
「やっぱりここに居らっしゃったんですね!」
だがそんな二人の背後から、咎めるような声が飛ぶ。セレンは、あからさまに嫌そうな顔をしてため息を吐いた。
「いい加減に黙って出歩くのは止めて下さい。シガ殿が探しておられましたよ」
「……シガは心配性すぎるんだ。いいからお前は探せなかったとか適当に言って、誤魔化しておけ。私はもうしばらくここで――」
「ダメです! 我儘おっしゃらないでください。今すぐ帰りますよ!」
従者らしき人に急かされてセレンは渋い顔をしている。そんな二人のやり取りを見て、ルウクはセレンがやはり身分の高い人なんだと、あらためて思い知らされた。
「……悪いな、ルウク。せっかく手伝わせてくれると言ってくれたのに」
「あ、いえ。そんな、気になさらないで下さい」
従者はルウクと目が合うと、すまなさそうに会釈した。ルウクもぺこりと頭を下げる。それを見てセレンはため息を吐き、従者の下に歩き出した。
「じゃあ、またな。今度こそゆっくり出来る時に来るから」
「はい! あの、お会いできて嬉しかったです」
忙しいのにもしかしたら自分に会いに来るために出て来てくれたのかもしれないと、そう思うとルウクは胸の中が熱くなってきた。せめて自分のその気持ちだけでもちゃんと伝えようと、去りゆくセレンに大声で伝える。
そんなルウクにセレンは、一瞬目を見開き、そして嬉しそうに頬を緩める。
「私もだ」
目を細めて優しい声で一言告げ、セレンは従者と共にその場を後にした。
だんだん小さくなるセレンと従者の姿を見続けながら、ルウクは未だ妙な興奮が治まらずにいた。
だが、ルウクはセレンの事を何も知らない。
(今度会ったら、セレン様がどういう立場にいる方なのか聞いてみよう)
ルウクは心の中で、そっと呟いた。
「ルウク、手が休んでる」
セレンの事を考えていたら、どうやら手が疎かになっていたらしい。ルウクは我に返り包丁を手に、キャベツの球の部分を茎から切り取る。
ザクザクと手際よくキャベツの球を切り取っていると、頭上から母、マリナに声をかけられた。
「ルウク、セレンとかいう人、知ってる? 凄く身分の高そうな人なんだけど」
「え?」
知っているも何も、彼がたった今考えていた相手だった。ルウクは一瞬、声に出してしまっていたのかと焦る。
「ルウク?」
「あ、うん。知ってるよ。前にここで会ったことがあるけど」
「そうなの? アンタに会いに来てるわよ」
「え!?」
ルウクはマリナの言葉にすぐさま反応した。立ち上がってマリナの指差す方向を見る。するとそこには、二週間前と同じように凛とした佇まいの彼がいた。
「久しぶりだな」
「セレン様!」
ルウクはセレンの姿を見るなり思わず駆け出していた。マリナやルウクの父のタイガがびっくりして振り返る。まるで飼い犬がご主人を見つけて駆け寄るかのような姿にセレンも一瞬驚くが、すぐに楽しそうに笑った。
「元気そうだな。……今、大丈夫か? 大事な収穫期みたいだが」
「あ~。あんまり長くは話せないかもしれないです」
ルウクの言葉にセレンはちょっと考えるようなしぐさをし、徐に口を開いた。
「私も、手伝ってみても良いか?」
「え? セレン様が?」
ルウクが驚いてセレンを見上げると、とても興味深そうにマリナやタイガの作業を見ていた。社交辞令とかではなく、本当に興味があるのだと理解して、ルウクはセレンを案内しようと立ち上がった。
「やっぱりここに居らっしゃったんですね!」
だがそんな二人の背後から、咎めるような声が飛ぶ。セレンは、あからさまに嫌そうな顔をしてため息を吐いた。
「いい加減に黙って出歩くのは止めて下さい。シガ殿が探しておられましたよ」
「……シガは心配性すぎるんだ。いいからお前は探せなかったとか適当に言って、誤魔化しておけ。私はもうしばらくここで――」
「ダメです! 我儘おっしゃらないでください。今すぐ帰りますよ!」
従者らしき人に急かされてセレンは渋い顔をしている。そんな二人のやり取りを見て、ルウクはセレンがやはり身分の高い人なんだと、あらためて思い知らされた。
「……悪いな、ルウク。せっかく手伝わせてくれると言ってくれたのに」
「あ、いえ。そんな、気になさらないで下さい」
従者はルウクと目が合うと、すまなさそうに会釈した。ルウクもぺこりと頭を下げる。それを見てセレンはため息を吐き、従者の下に歩き出した。
「じゃあ、またな。今度こそゆっくり出来る時に来るから」
「はい! あの、お会いできて嬉しかったです」
忙しいのにもしかしたら自分に会いに来るために出て来てくれたのかもしれないと、そう思うとルウクは胸の中が熱くなってきた。せめて自分のその気持ちだけでもちゃんと伝えようと、去りゆくセレンに大声で伝える。
そんなルウクにセレンは、一瞬目を見開き、そして嬉しそうに頬を緩める。
「私もだ」
目を細めて優しい声で一言告げ、セレンは従者と共にその場を後にした。
だんだん小さくなるセレンと従者の姿を見続けながら、ルウクは未だ妙な興奮が治まらずにいた。
だが、ルウクはセレンの事を何も知らない。
(今度会ったら、セレン様がどういう立場にいる方なのか聞いてみよう)
ルウクは心の中で、そっと呟いた。
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