たとえ神様に嫌われても

らいち

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サモン

突きつけられる現実

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「大丈夫? 大石君」
「……ああ、大丈夫だ。こんな傷、すぐ治る」
 
言葉そのものはいつもの大石君なのに、やっぱりどこか元気がなかった。
しかもあたしと目を合わせてくれない。

それが何だか不安で、自分から大石君に近づき抱き着いた。

「……もう、あんな無茶しないでね。怖かった……。大石君、死んじゃうかと思った……」

彼の肩口に額をすり寄せ、ギュッとしがみ付くように背中に回した腕の力を強くした。だけど大石君はあたしのその腕をそっと外し、体を引き離す。

「え……?」

あまりにも意外な彼の行動に動揺した。驚いて大石君を凝視すると、逆に腕を取られた。

「……大石君?」
「いくら人通りが少ないからって、ここではな……。ちょっと来い」

大石君はあたしの腕を掴んだまま歩みを進める。そのまま更に人通りの少ない脇道に入り、空き家と思われる家の中に連れて行かれた。

彼の理解出来ない行動を訝しく思いながら辺りを見回していると、「いづみ」と呼ばれて振り返った。

振り返って、びっくりして固まった。


あたしの視線の先に、――悪魔に変貌した大石君がいた。
 
あまりに突然の出来事に、怯えてつい後ずさってしまった。そんなあたしの行動に、大石君は眉間にしわを寄せ目を細めた。

大石君が一歩、足を前に出す。
思わず体がビクッと揺れる。

なに怖がってんの、あたし……! 
どんな姿をしてたって、大石君に変わりなんて無いのに……っ。

大石君が、まるであたしを確かめるようにじっと見ている。
大丈夫だって、どんな姿でも好きなんだってちゃんと伝えなきゃ、きっと勘違いされてしまう。

そんな思いで、意を決して口を開いた。

「お……大石君……」

だけどあたしのその声は、あたしのそんな意志に反してひどく怯えた情けない声だった。

どうしていいのか分からなく、つい俯いてしまう。
 

そして…、しばらく沈黙が続いた。

怖さと焦りともどかしさがあたしの中で渦を巻く。
どうしたらこんな気持ちを上手く伝えることが出来るんだろう……。
それとも、怖いという気持ちすら彼にとってはタブーなんだろうか。


「怖いか? これが本来の俺の姿だ」
 
とても低く沈んだ声。
それにハッとして顔を上げた。

だけど彼の異様な――捩じれた角や蝙蝠のような翼など何度見てもやはり怖くて、どうしても体の震えを止める事が出来なかった。
 
そんなあたしに大石君は、小さなため息を吐いた後人間の姿に戻ってくれた。
ようやく元の姿に戻ってくれてホッとしたのだけど、あたしたちの間には何とも言えない微妙な空気が生まれていた。

「遅くなったな……。送るよ」
「……うん」
 
いつものように2人並んで家路につく。
だけど大石君はまっすぐ前を見るだけで、こちらを見ようともしてくれない。
あたしはあたしでどう話しかけていいのか分からずに、ただ隣を歩く事しか……、出来なかった。
 
家に着いて、「じゃあな」と、そのまま別れる。
彼の遠ざかって行く背中を見ながらやりきれない思いでいっぱいになった。

あたしは大石君が悪魔だと知っていて、それでも好きだと思っていた。だからちゃんとそれなりに覚悟していたはずなのに……。


――それでも、怖かった。
怖くて仕方がなかった……。


思い出すだけで震える自分に、どうしていいのか分からなかった……。



――翌日、大石君は学校を欠席した。
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