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サモン
本当の姿 2
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弾かれたように飛び起きた。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくて辺りを見回す。
あたしはベッドの上にいて、しかもそこは衝立に仕切られている。どうやら保健室で寝かされているようだ。
「……大丈夫か? 気分は?」
「あたし……?」
「…………」
傍には大石君が、神妙な顔をして座っていた。
ただただ心配そうにあたしを見ている。
ふと、捩じれた角が脳裏によみがえり、思わず、「あ」と声が漏れた。
「……また、襲われたんだ……。あたし……」
言葉にした途端、恐ろしい化け物の姿を思い出す。
「こわ……かった……」
「…………」
あたしの言葉に、何故か大石君は微妙な表情をして視線を床に落とした。
その顔に、何か言わなきゃと焦り、まだお礼を言ってない事を思い出した。
「意識、失う前に……、とっても怖い誰かが近づいてきたの。もしかして今回は、あたしを襲ってきた刺客は二人いたのかな……。あの、いつもごめんね? 助けてもらってばかりいて……」
本当にあたしってば、大石君に頼ってばっかだよな……。
申し訳ないな、と思って彼の顔を見ると、さっきよりも強張った顔をして、あたしを見ようともしない。
「……大石君……?」
「……怖い、よな。やっぱ」
「え……」
かすれた声。
自嘲気味につぶやく大石君にハッとする。
捩じれた角に、尖った大きな耳。そして蝙蝠のような黒い翼……。
あれって、あれってもしかして……。
『はっ、情けねえな。怖いのか、自分の本当の姿を見られるのが』
突如、あの時聞こえた声を思い出す。
――大石君だったんだ……!
どうしよう、どうしよう……。
あたし、とんでもない事を言ってしまった。
酷い失言に血の気は引くし、手のひらからは嫌な汗が滲み出した。
怖かった……。
確かに怖かったけど……。
冷たく、じっとりしている両手を合わせて握りしめる。目を閉じて浅く呼吸をし、息を整えた。
平静な声が出せますようにと祈りながら、大石君に声をかける。
「……あの、さっきの……。誰だか分からなくてビックリしただけだから。大石君がどんな姿でも……、あたしは、気にしないから……。だって……」
自分で言っていて、感極まってきてしまった。
言葉を詰まらせると、大石君がこちらに視線を向けた。
いつもはもっと目に力があるのに今は何だか弱々しくて、まるで大石くんではない別の誰かのようだ。
「あたしにとってはどんな姿でも、大石君は大石君なんだよ。気持ちが変わる事なんて、絶対にないから……」
気持ちがちゃんと伝わって欲しい……。そんな思いで、じっと彼の目を見つめた。
時が止まったんじゃないかと勘違いするほど、お互い言葉も無く見つめ合っていたら、ようやく彼が緩く笑ってくれた。
「……そうだな」
ぽつりと零れた言葉に、あたしは安堵の息を吐いた。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくて辺りを見回す。
あたしはベッドの上にいて、しかもそこは衝立に仕切られている。どうやら保健室で寝かされているようだ。
「……大丈夫か? 気分は?」
「あたし……?」
「…………」
傍には大石君が、神妙な顔をして座っていた。
ただただ心配そうにあたしを見ている。
ふと、捩じれた角が脳裏によみがえり、思わず、「あ」と声が漏れた。
「……また、襲われたんだ……。あたし……」
言葉にした途端、恐ろしい化け物の姿を思い出す。
「こわ……かった……」
「…………」
あたしの言葉に、何故か大石君は微妙な表情をして視線を床に落とした。
その顔に、何か言わなきゃと焦り、まだお礼を言ってない事を思い出した。
「意識、失う前に……、とっても怖い誰かが近づいてきたの。もしかして今回は、あたしを襲ってきた刺客は二人いたのかな……。あの、いつもごめんね? 助けてもらってばかりいて……」
本当にあたしってば、大石君に頼ってばっかだよな……。
申し訳ないな、と思って彼の顔を見ると、さっきよりも強張った顔をして、あたしを見ようともしない。
「……大石君……?」
「……怖い、よな。やっぱ」
「え……」
かすれた声。
自嘲気味につぶやく大石君にハッとする。
捩じれた角に、尖った大きな耳。そして蝙蝠のような黒い翼……。
あれって、あれってもしかして……。
『はっ、情けねえな。怖いのか、自分の本当の姿を見られるのが』
突如、あの時聞こえた声を思い出す。
――大石君だったんだ……!
どうしよう、どうしよう……。
あたし、とんでもない事を言ってしまった。
酷い失言に血の気は引くし、手のひらからは嫌な汗が滲み出した。
怖かった……。
確かに怖かったけど……。
冷たく、じっとりしている両手を合わせて握りしめる。目を閉じて浅く呼吸をし、息を整えた。
平静な声が出せますようにと祈りながら、大石君に声をかける。
「……あの、さっきの……。誰だか分からなくてビックリしただけだから。大石君がどんな姿でも……、あたしは、気にしないから……。だって……」
自分で言っていて、感極まってきてしまった。
言葉を詰まらせると、大石君がこちらに視線を向けた。
いつもはもっと目に力があるのに今は何だか弱々しくて、まるで大石くんではない別の誰かのようだ。
「あたしにとってはどんな姿でも、大石君は大石君なんだよ。気持ちが変わる事なんて、絶対にないから……」
気持ちがちゃんと伝わって欲しい……。そんな思いで、じっと彼の目を見つめた。
時が止まったんじゃないかと勘違いするほど、お互い言葉も無く見つめ合っていたら、ようやく彼が緩く笑ってくれた。
「……そうだな」
ぽつりと零れた言葉に、あたしは安堵の息を吐いた。
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