たとえ神様に嫌われても

引き裂かれる心

幻覚

津山君がバラバラ遺体という悲痛な状態で発見されてから２週間が過ぎた。
由美が殺されてから間もないというのに続けて津山君があんな残酷な殺され方をしたとあって、みんな口には出さないけれどかなり参っているようだ。
　
今回ばかりはスクールカウンセラーの先生にお世話になっている人も随分といる。
　
あたしも本当は自分の心の内を全部話してしまいたい。そして誰かに優しく、『許してあげる』と言って欲しい。
　

だけど――、大石君が悪魔だなんて。
あたしのことが原因で津山君をあんなひどい目に合わせただなんて……、そんな事が言えるわけがなかった。

「ねえ、いづみ、大石君とケンカしたの？」
「え？」
　
突然心配そうに真奈美に言われて、ドキッとした。

「だってさー、ここんとこ大石君、ちっともいづみの傍に寄って来ないじゃない。今だって、他の女子に愛想ふりまいちゃって」
「……え」
　
真奈美の言葉に本気でギョッとした。
今って何？　
大石君はあの朝から一度も姿を見せてはいない。もちろん学校にだって出て来てはいないのだ。
　
不審に思って大石君の席を見ると彼の姿はないのに、その周りで美奈や麗香たちが誰もいない大石君の席に向かって楽しそうに話をしていた。
　
どういう事……？
　
嫌な汗が額をつたう。みんな幻覚を見せられてるって事……？

「いづみ？」
「あ、う……ん。ちょっと。……でも、気にしないで」
　
震える手を膝の上に置いて、ギュッと握る。
細く息を吐いて、気持ちを落ち着かせようと目を閉じた。
　
大石君はもうあたしの目の前には現れないと思っていた。だけどこうやってみんなに幻覚を見せているという事は、ここにまだ留まる事を考えているという事なんだろうか。

――そう思った矢先、翌日にはまた、意外な報告を受ける事になる。



「大石君は体調不良のため、しばらく県外の大きな病院に入院する事になった」
　
突然の担任の報告に、教室がざわざわとうるさくなる。

「県外ってどこですか？　体調不良って？」
「……一応連絡は来ているが、皆には話して欲しくないという事だったので察してくれ。元気になって戻って来た時は暖かく迎えてあげるように」
　

これはどういう事なの？
あたしへの何らかのメッセージ？
　

それとも……。
それとも、もう、ここには戻らないつもりなの？