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引き裂かれる心
大石君のいない帰り道
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ショートホームルームが終わって皆が帰りの支度や部活に行く準備をし始める。
大石君が、あたしの席に近づいて来た。
「ゴメン、いづみ。今日は抜けられない用事があって、家まで送ってやれない」
「え……」
大石君は付き合うようになってから、魔女からあたしを守るためだと言っていつも学校の行き返りを送り迎えしてくれていた。
事実そのことであたしはかなり救われていた。精神的な拠り所となっていたし、実際安心していられたのだ。
戸惑うあたしの不安を感じたのか、大石君は安心させるように微笑んだ。
「大丈夫。あいつらは人前でリスクを冒してまでいづみを狙うバカではないし。もしまた万が一のことがあっても、あの時と同じようにすぐ駆けつけるから。だけど1人にならないように、一応は気を付けてくれよ。」
「うん……」
確かにあの時はすぐに助けに来てくれたけど、それは同じ運動場に居たからじゃないの?
……それにあの時だって、1人じゃなかったし……。
だけどそんな事を言ったら呆れられたり鬱陶しいと思われそうで、言葉を呑んだ。
「いづみ」
キュッ。
机の上に置いていた右手を不意に握られる。その暖かい感触に胸がキュンとなる。
本当にあたしったら、どれだけ大石君のことが好きなんだろう。
「そんな顔するな。俺なんか本当は、お前が嫌だと言っても片時も離したくないくらい、いづみに溺れているんだぞ」
「大……石、くん」
嫉妬や独占欲の強い感情は何度か感じてはいたけれど、こんな風に直接的な事を真顔で言われて顔が熱くなった。
真っ赤な顔で彼を見つめていると、苦笑されてしまった。
「……今日は、エルザにしつこく呼ばれてな。どうしても向こうに行かなきゃならなくなったんだ」
「……エルザ?」
「――お前も会ったろ? と言うか、狙われたと言った方が正しいか。……竹原が殺されたあの日にあった魔女だ」
ズクン……。
胸の奥が軋む音がした。あたしの中で、まだ癒えてはいない傷が痛む。
「あいつは……エルザは、俺のお目付け役のような者なんだ。ここでの俺の行動を親父…、魔王に報告する任に就いている」
「……え」
あの時、ただの悪魔ではないのではないかと漠然と感じた不安が的中したのだと改めて気づかされる。
――あたしは、とんでもない相手と恋をしている……。
無意識のうちに深く呼吸をしていた。
細く息を吐ききって顔を上げると、大石君が深い瞳であたしを見ていた。
握っていたあたしの右手をスルッと外し、口を開く。
「エルザは親父の任を得て俺を監視しているが、それでも俺にとっての全てはお前だ。だからあいつの意志に反してもお前は絶対に守る。それだけは信じてくれ」
まっすぐに見つめる瞳に嘘はないと信じられる。
だけど、大石君への気持ちだけで踏み入れてしまったこの状況に、戸惑いや恐怖を感じずにはいられなかった。
だけど……。
「わかった。信じてる」
それ以外に、どう返事をしていいのか……わからなかった。
大石君が、あたしの席に近づいて来た。
「ゴメン、いづみ。今日は抜けられない用事があって、家まで送ってやれない」
「え……」
大石君は付き合うようになってから、魔女からあたしを守るためだと言っていつも学校の行き返りを送り迎えしてくれていた。
事実そのことであたしはかなり救われていた。精神的な拠り所となっていたし、実際安心していられたのだ。
戸惑うあたしの不安を感じたのか、大石君は安心させるように微笑んだ。
「大丈夫。あいつらは人前でリスクを冒してまでいづみを狙うバカではないし。もしまた万が一のことがあっても、あの時と同じようにすぐ駆けつけるから。だけど1人にならないように、一応は気を付けてくれよ。」
「うん……」
確かにあの時はすぐに助けに来てくれたけど、それは同じ運動場に居たからじゃないの?
……それにあの時だって、1人じゃなかったし……。
だけどそんな事を言ったら呆れられたり鬱陶しいと思われそうで、言葉を呑んだ。
「いづみ」
キュッ。
机の上に置いていた右手を不意に握られる。その暖かい感触に胸がキュンとなる。
本当にあたしったら、どれだけ大石君のことが好きなんだろう。
「そんな顔するな。俺なんか本当は、お前が嫌だと言っても片時も離したくないくらい、いづみに溺れているんだぞ」
「大……石、くん」
嫉妬や独占欲の強い感情は何度か感じてはいたけれど、こんな風に直接的な事を真顔で言われて顔が熱くなった。
真っ赤な顔で彼を見つめていると、苦笑されてしまった。
「……今日は、エルザにしつこく呼ばれてな。どうしても向こうに行かなきゃならなくなったんだ」
「……エルザ?」
「――お前も会ったろ? と言うか、狙われたと言った方が正しいか。……竹原が殺されたあの日にあった魔女だ」
ズクン……。
胸の奥が軋む音がした。あたしの中で、まだ癒えてはいない傷が痛む。
「あいつは……エルザは、俺のお目付け役のような者なんだ。ここでの俺の行動を親父…、魔王に報告する任に就いている」
「……え」
あの時、ただの悪魔ではないのではないかと漠然と感じた不安が的中したのだと改めて気づかされる。
――あたしは、とんでもない相手と恋をしている……。
無意識のうちに深く呼吸をしていた。
細く息を吐ききって顔を上げると、大石君が深い瞳であたしを見ていた。
握っていたあたしの右手をスルッと外し、口を開く。
「エルザは親父の任を得て俺を監視しているが、それでも俺にとっての全てはお前だ。だからあいつの意志に反してもお前は絶対に守る。それだけは信じてくれ」
まっすぐに見つめる瞳に嘘はないと信じられる。
だけど、大石君への気持ちだけで踏み入れてしまったこの状況に、戸惑いや恐怖を感じずにはいられなかった。
だけど……。
「わかった。信じてる」
それ以外に、どう返事をしていいのか……わからなかった。
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