たとえ神様に嫌われても

引き裂かれる心

乗っ取られた体

「それにしても大石君さぁ、いづみのこと本当に大好きだよね」
　
後ろからひょっこりと、真奈美が顔を出した。

「ああ」
　
少しも恥ずかしがるそぶりもせず、堂々とあたしを嬉しそうに見ながら肯定されてこっちが恥ずかしくなる。だけど真奈美は、そんな大石君に安心したようで顔を綻ばせた。

「良かった。実はちょっと心配してたんだ。……だって大石君、今までが今までだったからさ」
「……心配かけて、悪かったな」
　
ぼそっとつぶやくように言う大石君に真奈美が目を丸くした。
そして彼の腕をバシバシ叩く。

「やだっ！　大石君ったら。別人みたい。でもいづみ、良かったね～。これなら浮気されずに済みそうだよ」
「ちょっと、何言ってんのよ、真奈美ったら」
　
さっきからみんなの視線が痛いのに、余り大きな声でからかわないでほしい。

「だけど大石君気を付けてね。この子、自覚ないけど意外とモテるから」
　
こそっと、まるで大事な秘密を打ち明けるかのように真奈美が耳打ちをした。

「ちょっと真奈美、大石くんからかわないでよ」
「ね。これだから」
　
あたしの言葉をサラッと無視して、真奈美は肩をすくめて呆れたように笑った。

「分かってる」
　
何故か大石君までため息をついて、あたしのおでこをコツンと叩いた。
　
……大石君、信じちゃダメだよ。真奈美にからかわれてるだけだからね。
そんな思いで大石君をじっと見ていたら、苦笑いをされてしまった。
　

こうやって普通にみんなと話していると、大石君が悪魔だという事を忘れてしまいそうになる。
だけど時折氷のように冷たい表情で辺りを窺うその姿に、あたしが狙われているということ、そして大石君は悪魔なんだということを嫌でも思い出してしまうんだ。


「いづみ、次体育だよ。そろそろ行かなきゃ」
　
ぼうっと考え事をしていたら、真奈美と千夏ちゃんが体育着を持って立っていた。
みんなも移動し始めている。
あたしも慌ててバッグを抱えて２人の元に駆け寄った。
　
今日からはバレーボールの時間だ。
２人ずつペアになって、オーバーハンドパスの練習をする。
あたしは真奈美と組んで一番端の方に移動。２人ともあまり運動神経は良くない事を自覚しているので、何となく端っこに行きたがった。
　
ポーンと高く上がった真奈美からのパスに、顔を上げてボールを見ていると一瞬クラッと目の前が真っ暗になった。

……立ちくらみ？
貧血でもないのに。

思わずしゃがみこんだあたしの背中に、突然ぞわりと何か冷たいものが入り込んだような気がしてギョッとした。
慌てて立ち上がって背後を振り返ろうとしたけれど、どういうわけか体が動かない。

なに？　
なに、どういうこと？

戸惑い焦るあたしをあざ笑うかのように、今度は体が勝手に動きだした。

「真奈美、トイレに行きたくなっちゃった。ちょっと行ってくる。先生に聞かれたらそう言っておいて」
「分かったー」
　
ちょっと待って、違う！　
何が起きてるの？　
それ、あたしじゃない、あたしが言ってるんじゃない！

一生懸命言葉にしようと焦るのに、それは声にはならず真奈美には届かない。
しかも体はあたしの意志に反して勝手に歩き始めた。