たとえ神様に嫌われても

らいち

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捕食する瞳

確かめさせて?

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「じゃあね、いづみ。頑張って」
「うん、明日ね」
「バイバーイ」
 
真奈美と千夏ちゃんと別れてあたしは図書館に向かった。放課後に図書館に来るのは久しぶりだ。
 
カウンターに座って、う~んと伸びをする。もう一人の当番はまだ来ていなかった。
 
まあ、図書館って利用する人はだいたい決まっていて、そんなに人数はいないから1人でも平気なんだけどね。
 
とりあえず返却済みの本が数冊置かれていたので、本棚に片付けに行く事にしてカウンターを後にした。
ラベルを見ながら指定の棚を確認する。

背伸びをしながら本を棚に押し込んでいると、後ろからひょいっと本を取られて誰かが棚にしまってくれた。
もう1人の当番かな? 
背、高いから男子?

「ありが……」
 
お礼を言おうとくるっと振り向き、その顔を見て言葉が止まった。
そこには、いるはずの無い大石君が優しく微笑んで立っていた。

「え……? なんでいるの?」
 
突然の大石君の出現に戸惑うあたしに、お昼に感じたあの甘い疼きが胸に沸き起こってきて更に戸惑う。出来れば余り近づいて欲しくない。
 
そんなあたしに気づいているのかいないのか、大石君はあたしとの距離を縮めるように一歩、足を踏み出した。反射的に後ろに引くと、さらに一歩前へと出てくる。
焦って後ろへ数歩下がると、壁にぶつかってしまった。
 
ちょっと待って、ホントに何!?
 
焦って大石君を見ると、まるで射抜くようにあたしを見ながら頭の両脇に手をついた。
気が付くと、あたしは壁と大石君に挟まれてすっかり身動きが取れなくなってしまっている。

「大石君……」
 
咎めるように睨みながら、なんとか声を絞り出す。
すると大石君は、楽しそうに笑いながらさらに顔を近づけてくるので、あたしは反射的に顎を引いた。煩い心臓の音が彼に聞こえそうで、よけいにドキドキしてしまう。

「だって、甘いんだよ。いづみの匂い」
「は?」
 
つい、素っ頓狂な声を出してしまった。
こないだから何度も聞かされているワードだけど、意味が分からない。あたしは香水なんてつけてないし、それを言うなら沙良の方が、よっぽど甘い香りを漂わせている。

「香水やシャンプーの匂いなんかじゃないよ。純粋に体の匂いだ」
「か……!? な、変な言い方しないでよ!」
 
妙に色っぽい表情で真剣に言うから、つられて変に意識してしまい顔が一気に熱くなってしまった。
……絶対今、顔が赤いよ。
 
上目づかいでこっそり大石君の表情を窺うと、びっくりするくらい優しい顔でこちらを見ていた。
だけど相変わらず顔が近い。

「大石君、あの……。顔……」
「確かめさせて」
 
退けてと、続けようとした言葉を遮って、かぶせられた言葉にきょとんとする。

「だから……体も甘いのか確かめさせて?」

え?
 
硬直して大石君を凝視するしか出来ないあたしに、ゆっくりと顔が近づいてくる。
あ、と思った時には唇が塞がれていた。
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