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第四章
不安に目をつぶって 4
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夕飯は向こうで済ませてしまうかもしれないと言っていたけれど、やっぱり二人分の食事を作ることにした。もしかしたら早く帰って来てくれて、一緒にご飯を食べてくれるかもしれないから。
「もうそろそろ、八時になっちゃうな……」
久しぶりの実家だ。長い間疎遠になっていたと言っていたから、積もる話もあるに違いないんだ。それに――。
理史さんのお父さんにとっては寝耳に水な話。そんな事を今頃知らされたら、辛いだろうもんな。
もちろん、私は理史さんと異母兄妹だなんて、絶対そんな事は無いって信じてるけど。
うん、……信じてる。信じてるもん。
私の心の声とは裏腹に、手の平からは、どんどんどんどん冷や汗がにじみ出て来ていた。
もしも、もしも私と理史さんの血が繋がっていたら、どうなるんだろう。
「…………」
好きだという気持ちを抑えることが出来ないのなら、やっぱり傍に居るべきじゃないんだろうな……。
一度ネガティブな事を考え始めると、それに気持ちが引きずられてなかなか浮上する事が出来なかった。
溜息をついて固まっていると、玄関が開く音が聞こえた。反射的に立ち上がって、玄関へと駆け寄った。
「お帰りなさい!」
「――ただいま。……腹減った」
勢いよく現れた私に一瞬目を見開いた後、理史さんさんの表情は柔らかい笑顔に変わった。
ああ、やっぱり好きだ。この人とこうやって、穏やかで居心地のいい日々をこのままずっと過ごしていきたい。
「智未、どうした? 疲れたのか?」
心配するように顔を覗き込まれて、ハッと我に返った。
「あっ、いいえ。お腹空きましたよね。ちょうど今ご飯にしようと思っていたところなんです。すぐ支度しますね」
「まだ食べてなかったのか?」
「はい。できれば理史さんと一緒に食べたいと思って」
「そうか……。着替えて来る」
「はい」
部屋に戻る理史さんを見ながら、ほうっと溜息が漏れる。
やっぱりダメだ。理史さんと離れ離れにならないといけないとか、私の中では想像もつかない。
少し冷えてしまったおかずを温め直し、食卓に出した。ちょうど準備が整ったところで、理史さんがやって来る。
「待たせたな、食べようか」
「はい、いただきます」
「いただきます」
美味しそうに豚の生姜焼きを、理史さんが頬張る。それにちょっぴりホッとして、私も箸を進めた。たいして何かを話すわけではないけれど、やっぱり理史さんとの食卓は居心地がいい。
半分ほど食べたあたりで、不意に理史さんが口を開いた。
「……あのな」
「はい」
「…………」
「……? 理史さん?」
ご飯を食べながら彼の顔を見る。自分から話しかけて来たというのに、理史さんは次の言葉を、なかなか出せ無いでいるようだった。
「もうそろそろ、八時になっちゃうな……」
久しぶりの実家だ。長い間疎遠になっていたと言っていたから、積もる話もあるに違いないんだ。それに――。
理史さんのお父さんにとっては寝耳に水な話。そんな事を今頃知らされたら、辛いだろうもんな。
もちろん、私は理史さんと異母兄妹だなんて、絶対そんな事は無いって信じてるけど。
うん、……信じてる。信じてるもん。
私の心の声とは裏腹に、手の平からは、どんどんどんどん冷や汗がにじみ出て来ていた。
もしも、もしも私と理史さんの血が繋がっていたら、どうなるんだろう。
「…………」
好きだという気持ちを抑えることが出来ないのなら、やっぱり傍に居るべきじゃないんだろうな……。
一度ネガティブな事を考え始めると、それに気持ちが引きずられてなかなか浮上する事が出来なかった。
溜息をついて固まっていると、玄関が開く音が聞こえた。反射的に立ち上がって、玄関へと駆け寄った。
「お帰りなさい!」
「――ただいま。……腹減った」
勢いよく現れた私に一瞬目を見開いた後、理史さんさんの表情は柔らかい笑顔に変わった。
ああ、やっぱり好きだ。この人とこうやって、穏やかで居心地のいい日々をこのままずっと過ごしていきたい。
「智未、どうした? 疲れたのか?」
心配するように顔を覗き込まれて、ハッと我に返った。
「あっ、いいえ。お腹空きましたよね。ちょうど今ご飯にしようと思っていたところなんです。すぐ支度しますね」
「まだ食べてなかったのか?」
「はい。できれば理史さんと一緒に食べたいと思って」
「そうか……。着替えて来る」
「はい」
部屋に戻る理史さんを見ながら、ほうっと溜息が漏れる。
やっぱりダメだ。理史さんと離れ離れにならないといけないとか、私の中では想像もつかない。
少し冷えてしまったおかずを温め直し、食卓に出した。ちょうど準備が整ったところで、理史さんがやって来る。
「待たせたな、食べようか」
「はい、いただきます」
「いただきます」
美味しそうに豚の生姜焼きを、理史さんが頬張る。それにちょっぴりホッとして、私も箸を進めた。たいして何かを話すわけではないけれど、やっぱり理史さんとの食卓は居心地がいい。
半分ほど食べたあたりで、不意に理史さんが口を開いた。
「……あのな」
「はい」
「…………」
「……? 理史さん?」
ご飯を食べながら彼の顔を見る。自分から話しかけて来たというのに、理史さんは次の言葉を、なかなか出せ無いでいるようだった。
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