不思議な縁に導かれました

らいち

文字の大きさ
上 下
58 / 64
第四章

不安に目をつぶって 2

しおりを挟む
  ご飯を口にしながら理史さんと目が合うと、目を細めて優しい表情になる。これは、ここ最近での彼のデフォルトな表情だ。
  私はそれをすごく幸せに思う半面、時々ふと現実に戻ったような不安にも陥ってしまう。

  だって……。もしも、もしも本当に理史さんの言うように、私達の血が繋がっていたら?

「どうした、智未。疲れたのか?」
「あっ、いいえ。そんな事ないです」
「なら、いいが。……あ、俺今日帰り遅くなるから」
「え? お仕事忙しいんですか?」
「いや、そうじゃなくて。……智未に話しそびれていたが、あの後すぐに例の親子鑑定の話を親父にしてみたんだ」
「……はい」

 胃の辺りがキュッとしぼんだ。体温が一度くらい下がったかもしれない。手の平からも汗がにじんだ。

「かなり驚かれたけど、俺が母から言われてきたことを正直に話したら絶句して……、親子鑑定を受けることを承知してくれた」

「…………」 
「そんな顔するな。智未はお父さんのこと、信じているんだろう?」
「もちろんです!」

 ハッとして勢いよく返事を返した。そんな私の態度に、理史さんも軽く笑みを漏らす。

「それでさっき、親父から鑑定を依頼した会社からキットが届いたと連絡があったんだ。先送りにして落ち着かないよりは、さっさと済ませた方がいいと思ってさ。だから今日、帰りに親父の所に寄ることにした」

 さっぱりとした表情で淡々と私に話してくれているけれど、もしかしたら私に話す事を躊躇していたのかもしれない。だってそうでなければ、家で私にそれを伝える機会なんていくらでもあっただろう。こんな風に切羽詰まったギリギリに、話す事なんかじゃないはずだ。

「理史さん」
「うん?」
「それ、私も連れて行ってもらうわけには行きませんか?」
「え?」
「あっ、えっと……。迷惑でなければ、なんですが。その……、理史さんに寄り添いたいというか……」

 こういう気持ちを素直に表現するのは恥ずかしい。ぼそぼそと喋っていたら、高科さんの表情が優しくなった。

「ありがとう。だけどやっぱり俺一人で行こうと思う。父も、自分が知らなかった色んな事を俺から聞かされて、かなりショックを受けていたみたいだから」

「あっ、そう……ですね」

 そうだった。私のお父さんも、そのことに絡んでいるんだった。自分の気持ちしか見えていなかった、恥ずかしい。

「智未」
「……はい」

「俺がこうやって親父に向き合う気になれたのは君のおかげだ。智未が俺の事を気遣ってくれたから、俺も頑張らなきゃって思えたんだ」

「理史さん……」

「そう言うわけだから悪いが、今日は俺一人で行ってくる。夕飯は先に食べておいてくれ。もしかしたら向こうで済ませてしまうかもしれないけど」

「わかりました」

 本当はもう少し実家の事も色々聞いてみたかったのだけど、お互いのんびりしている時間はないので、ランチを食べ終えると直ぐ、私たちはそれぞれの持ち場へと戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

天才外科医は仮初の妻を手放したくない

夢幻惠
恋愛
ホテルのフリントに勤務している澪(みお)は、ある日突然見知らぬ男性、陽斗(はると)に頼まれて結婚式に出ることになる。新婦が来るまでのピンチヒッターとして了承するも、新婦は現れなかった。陽斗に頼まれて仮初の夫婦となってしまうが、陽斗は天才と呼ばれる凄腕外科医だったのだ。しかし、澪を好きな男は他にもいたのだ。幼馴染の、前坂 理久(まえさか りく)は幼い頃から澪をずっと思い続けている。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...