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第四章
不安に目をつぶって 2
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ご飯を口にしながら理史さんと目が合うと、目を細めて優しい表情になる。これは、ここ最近での彼のデフォルトな表情だ。
私はそれをすごく幸せに思う半面、時々ふと現実に戻ったような不安にも陥ってしまう。
だって……。もしも、もしも本当に理史さんの言うように、私達の血が繋がっていたら?
「どうした、智未。疲れたのか?」
「あっ、いいえ。そんな事ないです」
「なら、いいが。……あ、俺今日帰り遅くなるから」
「え? お仕事忙しいんですか?」
「いや、そうじゃなくて。……智未に話しそびれていたが、あの後すぐに例の親子鑑定の話を親父にしてみたんだ」
「……はい」
胃の辺りがキュッとしぼんだ。体温が一度くらい下がったかもしれない。手の平からも汗がにじんだ。
「かなり驚かれたけど、俺が母から言われてきたことを正直に話したら絶句して……、親子鑑定を受けることを承知してくれた」
「…………」
「そんな顔するな。智未はお父さんのこと、信じているんだろう?」
「もちろんです!」
ハッとして勢いよく返事を返した。そんな私の態度に、理史さんも軽く笑みを漏らす。
「それでさっき、親父から鑑定を依頼した会社からキットが届いたと連絡があったんだ。先送りにして落ち着かないよりは、さっさと済ませた方がいいと思ってさ。だから今日、帰りに親父の所に寄ることにした」
さっぱりとした表情で淡々と私に話してくれているけれど、もしかしたら私に話す事を躊躇していたのかもしれない。だってそうでなければ、家で私にそれを伝える機会なんていくらでもあっただろう。こんな風に切羽詰まったギリギリに、話す事なんかじゃないはずだ。
「理史さん」
「うん?」
「それ、私も連れて行ってもらうわけには行きませんか?」
「え?」
「あっ、えっと……。迷惑でなければ、なんですが。その……、理史さんに寄り添いたいというか……」
こういう気持ちを素直に表現するのは恥ずかしい。ぼそぼそと喋っていたら、高科さんの表情が優しくなった。
「ありがとう。だけどやっぱり俺一人で行こうと思う。父も、自分が知らなかった色んな事を俺から聞かされて、かなりショックを受けていたみたいだから」
「あっ、そう……ですね」
そうだった。私のお父さんも、そのことに絡んでいるんだった。自分の気持ちしか見えていなかった、恥ずかしい。
「智未」
「……はい」
「俺がこうやって親父に向き合う気になれたのは君のおかげだ。智未が俺の事を気遣ってくれたから、俺も頑張らなきゃって思えたんだ」
「理史さん……」
「そう言うわけだから悪いが、今日は俺一人で行ってくる。夕飯は先に食べておいてくれ。もしかしたら向こうで済ませてしまうかもしれないけど」
「わかりました」
本当はもう少し実家の事も色々聞いてみたかったのだけど、お互いのんびりしている時間はないので、ランチを食べ終えると直ぐ、私たちはそれぞれの持ち場へと戻った。
私はそれをすごく幸せに思う半面、時々ふと現実に戻ったような不安にも陥ってしまう。
だって……。もしも、もしも本当に理史さんの言うように、私達の血が繋がっていたら?
「どうした、智未。疲れたのか?」
「あっ、いいえ。そんな事ないです」
「なら、いいが。……あ、俺今日帰り遅くなるから」
「え? お仕事忙しいんですか?」
「いや、そうじゃなくて。……智未に話しそびれていたが、あの後すぐに例の親子鑑定の話を親父にしてみたんだ」
「……はい」
胃の辺りがキュッとしぼんだ。体温が一度くらい下がったかもしれない。手の平からも汗がにじんだ。
「かなり驚かれたけど、俺が母から言われてきたことを正直に話したら絶句して……、親子鑑定を受けることを承知してくれた」
「…………」
「そんな顔するな。智未はお父さんのこと、信じているんだろう?」
「もちろんです!」
ハッとして勢いよく返事を返した。そんな私の態度に、理史さんも軽く笑みを漏らす。
「それでさっき、親父から鑑定を依頼した会社からキットが届いたと連絡があったんだ。先送りにして落ち着かないよりは、さっさと済ませた方がいいと思ってさ。だから今日、帰りに親父の所に寄ることにした」
さっぱりとした表情で淡々と私に話してくれているけれど、もしかしたら私に話す事を躊躇していたのかもしれない。だってそうでなければ、家で私にそれを伝える機会なんていくらでもあっただろう。こんな風に切羽詰まったギリギリに、話す事なんかじゃないはずだ。
「理史さん」
「うん?」
「それ、私も連れて行ってもらうわけには行きませんか?」
「え?」
「あっ、えっと……。迷惑でなければ、なんですが。その……、理史さんに寄り添いたいというか……」
こういう気持ちを素直に表現するのは恥ずかしい。ぼそぼそと喋っていたら、高科さんの表情が優しくなった。
「ありがとう。だけどやっぱり俺一人で行こうと思う。父も、自分が知らなかった色んな事を俺から聞かされて、かなりショックを受けていたみたいだから」
「あっ、そう……ですね」
そうだった。私のお父さんも、そのことに絡んでいるんだった。自分の気持ちしか見えていなかった、恥ずかしい。
「智未」
「……はい」
「俺がこうやって親父に向き合う気になれたのは君のおかげだ。智未が俺の事を気遣ってくれたから、俺も頑張らなきゃって思えたんだ」
「理史さん……」
「そう言うわけだから悪いが、今日は俺一人で行ってくる。夕飯は先に食べておいてくれ。もしかしたら向こうで済ませてしまうかもしれないけど」
「わかりました」
本当はもう少し実家の事も色々聞いてみたかったのだけど、お互いのんびりしている時間はないので、ランチを食べ終えると直ぐ、私たちはそれぞれの持ち場へと戻った。
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