不思議な縁に導かれました

らいち

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第三章

明かされた秘密

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 社員食堂では、いつもの朝の段取りが終わったところだ。作業開始時間まであと十分程あるので、それまで各々休憩となった。炭酸飲料が無性に飲みたくなった私は、廊下の隅にある自動販売機へと急いだ。

「あったあった、これこれ」

 グレープ味の炭酸飲料。子供の頃から大好きな飲み物だ。
 ここの自販機には、社員もちょくちょく休憩がてら訪れるようで、小さなベンチも備えられている。運のいいことに今は誰もいないので、そこに座ってグレープ味をゆっくりと味わう。

 はあっ。そろそろ戻るかな。

「ああっ、もう本当に羨ましい。高科さんとデートなんて、無理だと思ってたのになあ」

 えっ?

 廊下の向こう側から聞こえてきた、高科さんとデートと言う言葉に驚いて思わず声の方を振り向くと、宮里さん達女性社員が、お喋りをしながらこちらに向って歩いていた。

「私もね、最初はあまりにも素っ気ないから、どうかなあとは思ったんだけど……。高科さん、紳士よ。優しくて」
「ああ~、もうヤダヤダ惚気ちゃって!」

 キャアキャアと燥ぐ会話に、ギュウッと、まるで心臓が鷲掴みにされたような痛みが走った。手の平からも、冷たく嫌な汗がにじみ始める。

 ……高科さんが、この人とデートをしていた。
 夕御飯をいらないと言っていた時、休日に出掛けていた時……、あれがそうだったの?

「ねえ、何飲む?」 

 自販機の前に立つ気配にハッとした。慌てて椅子から立ち上がり、飲み終えた缶をゴミ箱に捨て、急いで厨房へと走った。
 ドキンドキンと激しく鳴る心臓の音が、焦燥感を煽る。

「白山さん遅いよ。呼びに行こうかと……、どうしたの? 顔色が悪いわよ!」

 苦しくて。

「大丈夫です。ちょっとびっくりする事があって……、具合いが悪いわけじゃないですから」

 苦しくて仕方がない。

「本当に? 気分が悪いようなら、ちゃんと言いなさいよ」

 ここで泣き喚くことができたなら、少しは楽になるんだろうか。出来るわけないけど。

「……はい」

 なんとか大谷さんを安心させるように笑顔で答えて、私は急いで持ち場に就いた。

 忙しく動いている間は楽だった。目先のことを考える事で精一杯で、余計な事に思い煩わされることがなかったから。

 ピーク時を過ぎた頃、高科さんと宮里さんが一緒に顔を出した。高科さんは喜怒哀楽があまり顔に出ない方だから表情は乏しいけれど、宮里さんの方は幸せいっぱいの表情だ。

 あんな二人をこうやって見ていると、涙が溢れそうになってくる。
 やっぱり私、もうあの家を出よう。これ以上はもう、きっと耐えられないから……。
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