不思議な縁に導かれました

らいち

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第三章

アパートなんて探さなくていい

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「今日は片付けも早く終わったことだし、少し早いけど上がっちゃっていいわよ」
「えっ、いいんですか?」
「たまにはね。いつもみんな頑張ってくれてるから」
「うわあ、ありがとうございます」

 並木さんの言葉に、みんな歓声を上げた。そして、そそくさと帰り支度を始める。

「それじゃあ並木さん、お先に失礼します」
「お疲れさま」

 並木さんは正社員でここの責任者だ。なのでよほどの事がない限りは、彼女を置いて先に帰るのが常だった。

 お喋りをしながらゾロゾロと歩いていたら、突然大谷さんが私の袖をクイクイと引っ張る。何事かと大谷さんの視線の先を見ると、廊下の端で立ち話をしている高科さんと宮里さんの姿があった。

 やっぱりどうしても胸が痛む。私にはもうあんな風に向き合ってもくれないし、ご飯を一緒に食べる事も、平日の朝くらいしかないんだ。その時だって、私には見向きもしないし。

「負けちゃ駄目よ。高科さんと何で拗れちゃったのかは分からないけど、ちゃんと話し合って解決しなきゃ」
「大谷さん……」
「しっかりして。言ったでしょう? 高科さんには、あなたが一番お似合いなんだから」
「そうよ~。私たちも応援してること忘れちゃダメよ」
「小杉さん……、はい、はい……。ありがとうございます」

 みんなの有難い励ましに、涙が滲みそうになって困った。
 言葉に詰まって何度もうなずく私の頭を、大谷さんが何度も優しく撫でてくれた。
  


 高科さんの家に帰り、合い鍵で鍵を開ける。家の感じは以前と何も変わらないのに、高科さんとギクシャクし始めてからは居心地が悪く感じるようになってしまっているから不思議だ。

 今日は高科さんからの連絡は入っていないので、帰りが遅くなったとしても夕飯は食べるはずだ。

 気が向いて、いつもより早く帰って来てくれないかな……。
 そんな淡い期待を抱きながら、二人分の食事を作る。それからスマホを弄りながら時間を潰し、しばらく待ってみた。

 キュルルルル。

 せっかく高科さんに向き合うように頑張ってみようと思えたから、出来ることなら一緒にご飯を食べたいと思ったのに、高科さんの帰りはやっぱり遅い。時間を確認すると、もう八時を回っていた。

 あからさまに待ってましたっていう態度をとると、高科さんに嫌な顔させちゃうかもしれないな……。

 高科さんと一緒に夕飯をとるのは諦めて、先にご飯を食べることにした。
 ご飯を装っているとガチャリと玄関が開く音がする。

 高科さんだ!

 この時間に帰って来るのは本当に久しぶりなので、思わず玄関に走った。

「お、お帰りなさい!」
「……ああ、ただいま」
「ご飯、食べますよね?」
「ああ」

 高科さんは、ダイニングテーブルにおかずを盛ったお皿が置いてあるのを確認し、食事の支度の最中だったという事に気が付いたようだ。小さく溜息を吐いて、「着替えてくる」と部屋に向かった。

 やっぱり待たずに先に食べておいて欲しかったんだな。
 ズキンと胸が痛んで、お昼に宮里さんと一緒に食事を摂る高科さんの姿が脳裏に浮かんだ。

 大谷さん、頑張りたいけど無理かもしれない。
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