不思議な縁に導かれました

らいち

文字の大きさ
上 下
46 / 64
第三章

同僚の宮沢さん 2

しおりを挟む
 高科さんは冷たい視線を私に向け、口を開いた。

「君は仕事中なんじゃないのか? のんびり立ち話なんかしてていいのか?」
「おいおい、勘違いするなよ。彼女は今、昼休み中だ」

 宮沢さんの言葉に高科さんは、私から視線を外した。

「ふうん」

 興味なさそうに呟いて食券を厨房内にいる大谷さんに渡し、宮里さんと一緒にテーブル席に着いた。

 涙がにじみ出そうになって慌てた。本当になんでこんな事になっちゃったんだろう。

「ごめんな、なんか……」
「あっ、いえ……」
「あいつ悪い奴じゃ無いんだけど。何だか最近、カリカリしててさ」
「はい、大丈夫です。宮沢さん、ご飯食べて下さい」
「ああ、そうだった」

 宮沢さんは笑って頷いて、テーブル席へと歩いて行った。

「高科さん、本当に一体どうしちゃったのかしらね。前はあんなにギスギスなんてしてなかったのに。……もしかして、喧嘩でもした?」

 厨房内に戻ってため息を吐いていると大谷さんたちがやって来て、心配して声を掛けてくれた。

「……私は喧嘩した記憶はないんですけど、突然素っ気なくなっちゃって。何か……、しちゃったんでしょうか、私」

「う~ん」

 せめて何かヒントはないかと祈るようにみんなの顔を見上げたのだけど、大谷さんたちも困ったような顔をして、唯々唸るばかりだ。

 厨房内から見える高科さんの様子は、先程までの不機嫌さは感じられず、隣の宮里さんと落ち着いた様子だった。
 ほんの少し前まで、あの場所は私のものだった。口数は少ないけど穏やかで、居心地のいい雰囲気を持つ高科さんの隣にいられることが幸せだった。なのに今は、もうそこは私の場所では無くなっている。

 下唇を噛み、キュッと手のひらを握った。そうでもしないと、今にも涙が溢れ出てきそうで困ったからだ。   
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...