不思議な縁に導かれました

らいち

文字の大きさ
上 下
39 / 64
第二章

ふたりでお出かけ 6

しおりを挟む
「…………」 
「居心地悪いですか?」
「大丈夫だ。最初から覚悟はしていたし、どうやら俺と同じような奴らが何人かいる」
「覚悟って……」

 真顔で話す高科さんの表情が可笑しくて、思わず笑いがこぼれた。

「君は……」
「え?」
「いや、悪くないなと思っただけだ。白山さんといると普段よりも、まあいいかと思えてしまえるから不思議だ」
「高科さん……」

 綺麗な顔をふわりと和らげて、甘く優しく微笑む。

 ああ、もうこの人は……。自分がどれだけ魅力的な容姿をしているのか、分かっているんだろうか?
 ただでさえ高科さんの事を好きだと自覚してしまって、戸惑っているのに。

「ご注文は、お決まりですか?」
「えっ、あ……、はい」

 急に声をかけられて慌ててしまった。不自然にバタバタする私を笑った高科さんは、代わりにメニューを広げてオーダーを取りに来た女性店員に見せる。

「このオムライスを二つ頼む」

 注文をしながら顔を上げ、高科さんはほんの少し微笑んだ。彼女はその表情に一瞬息を呑んだ後、ハッと我に返る。

「は……、はいっ、畏まりました!」

 ひときわ響く大声で返事をした後、その店員は大仰にお辞儀をして小走りに戻って行った。

「……なんだあれ?」

 相変わらず鈍感な高科さんだけど、ここにいるほとんどの女性客は、もう既にさっきからチラチラと高科さんの方を窺っている。呆れるのは、恋人と来ているらしい女性までもが高科さんのことを気にする素振りを見せていることだ。

「……まあ、いいじゃないですか。元気で」
「……そうなのか? 大分過剰な気がするが」
「それは、私もそう思いますけど。……あ、そうそう、さっきのメルちゃんとの動画見ます?」
「え?」

 急展開した話題に高科さんは一瞬きょとんとした。

 ……ああ、こんな表情だけでも心臓がまたドキドキし始めている。このイケメンめ。

 こんな気持ちを高科さんに気取られるのは拙いので、そそくさとさっきの動画を開き、スマホを差し出した。
 受け取りそれを見た高科さんは、そこに映る自分を見て苦笑している。

「……やっぱり情けない顔じゃないか」
「そんな事無いですよ。私この顔……、好きですよ」
「……え?」

 うわっ。また、なにサラッと本音なんて言っちゃってるの、恥ずかしい!

「あっ、いやだって……、た、高科さんの困った顔なんてレアだし、綺麗な顔が可愛くなってて……、ええっと、その……」

 思わず零してしまった自分の気持ちを繕おうとするあまり、余計にボロが出てしまっているような気がする。更に慌てる私を見て、とうとう高科さんは吹き出してしまった。

「本当に面白いなあ、白山さんは」

 焦る私を楽しそうに見た後、高科さんもスマホを取り出して私の前に置いた。手に取って見ると、そこにはいつの間に撮ったのか、私がメルちゃんを抱っこしているところが写っていた。

「これ……?」
「良い顔してるだろう? せっかくだから、記念に撮ってやった。データ送るか?」
「あ……、お願いします!」
「オッケー。……じゃあ、白山さんこのアプリある?」
「あ、あります」

 びっくりした。まさか高科さんが、私の写真を撮っていてくれてただなんて……。

 無事に送信された、メルちゃんを抱っこしている画像はホーム画面に設定した。

「そうだ、よかったら、高科さんも私の撮った写真貰いませんか? 良ければ動画も」
「ええっ?」

 どういうわけだか、高科さんは本当に嫌そうな顔をする。眉をしかめて私を見た。

「そんな顔をするほど嫌ですか?」
「自分の写真なんか持ってどうする?」
「どうって……、今日の記念とかになるじゃないですか」

 ちょっぴり拗ねたような口調になった。だって、いくら私の行きたい所を優先してくれたと言っても、高科さんがちっともそれを楽しめて無いってのはやっぱり嫌だ。……虚しいじゃない。

「それは君の写真でいいと思ったんだけどな……」
「え?」

「自分の顔なんか見ても楽しくない。そんなものよりは、君が楽しそうに笑っている写真を見ていた方がずっといい」

「高科さん……」

 呆けた表情になった私を見てぶっちゃけ過ぎたと思ったのか、高科さんは気まずそうに頭を掻いた。そうして結局、メルちゃんに舐められている動画だけを受け取ってくれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

処理中です...