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伶英くんとのひととき

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六時間目は体育の授業だ。

私は今日、日直なのでみんなが出て行った後に鍵を閉めないといけない。ぞろぞろと出ていく人たちを横目に、窓のカギを閉め全員が出て行くまでドアの傍で待機した。
最後の一人が出たところで両方のドアにカギを掛ける。

掛け終わって顔を上げると、伶英くんがニコニコと手を振りながら近寄って来た。

「妃愛梨ちゃん、これから体育?」
「う、うん」

ちゃんと返事をしなきゃと一生懸命声を絞り出すようにしたら、掠れた小さな声が出た。
情けなくって恥ずかしい……。

だけど、やっぱりドキドキするよ。……私、伶英くんの事好きなんだなあ。

チラッと伶英くんの顔を見ると、私の事を真っ直ぐ見ている。火照った顔が恥ずかしくて、ついつい俯きがちになってしまった。
だけど伶英くんは、さほど気にもしていないようで更に話しかけてくれた。

「女子は今、バレーだっけ?」
「うん……」

どうしよう、どうしよう…! 
せっかく話しかけてくれてるのに恥ずかしすぎて顔も上げられない! 
こんなんじゃ、呆れられちゃうよ。

……あ、そう言えば、ぶつかって倒れた時のお礼もちゃんと言ってなかった。

「あ、あのっ」

頑張って顔を上げた。
伶英くんは、まともに顔も見れない私に、呆れるでもなく優しい笑顔で「何?」と返事を返してくれる。
なのにその笑顔にまたドキドキし始めちゃって、また俯いてしまった。

ああ、もうっ!

自分でもこういうところは情けなくてしょうがない。だけど、言うべきことはちゃんと口にしなくちゃ……。

キュッと掌を握りしめて、気合を入れた。

「こ、こないだは、あの、ありがとう…。倒れた時庇ってくれて」
「いや、気にしないで。ていうか、俺の方がぶつかって来たから悪いんであって…。俺の方こそ、ごめんね?」

顔を上げられない私を気遣うような、伶英くんの優しい声。
思わずチラッと伶英くんの顔を見ると、しっかり目が合っちゃって、しかもさっきよりも優しい笑顔に見える。


また心臓がきゅうって、甘く痛んだ。
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