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第六章

久しぶりの帰宅

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 そうして、やっと退院の日が来た。まだ前のように重い荷物を持ったり、早く歩くことは出来ないのだけれど、日常生活には何ら支障はない。
 もしかしたら甘えた私のような性格じゃ無ければ、私が出来ないと思い込んでいる事柄も、苦にせずしてしまえる人もいるのかもしれないけれど。

「お世話になりました」
「元気になられて良かったです。退院しても、頑張って歩いて体を慣らしてください」
「はい。ありがとうございます」

 私とお母さまはお医者さまや看護師さんにお礼を言って、運転手の萩野さんが待つ正面玄関へと向かった。
 思わず、ぐるりと回りを見回してみた。だけど、私が待ち焦がれていた姿はどこにもなかった。

 ……結局、ただの一度も高遠さんは、私に会いに来てくれなかったな。
 でも、私のことを真剣に考えたいから待っていてくれと言ってくれた。それを、信じてもいいのよね?

「桐子お嬢様、退院おめでとうございます」

 お母さまから荷物を受け取った萩野さんが、私を見て目を細めた。そして深々と頭を下げる。

「入院中お見舞いにもうかがえず、申し訳ございませんでした」
「そんな、とんでもない。私の方こそ、心配かけてごめんなさいね」

 心底申し訳なさそうに頭を下げる萩野さんに、私は逆に恥ずかしくなってしまった。
 こうやって、私を気遣ってくれる人を目の前にしていて、私はここにはいない別の人の事ばかりを考えているのだ。申し訳なさと情けなさに顔が熱くなった。

 坂崎さんもそうなのだけど、萩野さんも私が小さなころから桜井家に仕えてくれている大事な家族のような存在だ。二人とも気持ちの優しい人たちで、小さい頃は随分と甘やかしてもらった記憶がある。

 久しぶりにお母さまと二人で、萩野さんの運転する車で家に帰った。しばらく留守にしていた我が家も、なんだかとても懐かしく感じられた。

 だけど家に入った瞬間、いつもと様相が違う事に気が付いた。随分と物がなくなっているのだ。

「桐子、着替えていらっしゃい。それから、話しをしましょう」
「……はい」

 家の様子からも、差し迫った状況になっていることが察せられる。私は言われた通り、部屋で着替えを済ませてから、またリビングに戻った。
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