上 下
18 / 62
第二章

高頭さんの部屋 2

しおりを挟む
「――独り暮らしって、淋しくないですか?」
「え?」
「……だって、静かでしょう? 特に夜とか。雑音とか、無駄な灯りとか、恋しくなったりしませんか?」

「ああ、そう言う事か。それは別に。もしかしたら淋しいという気持ちには、麻痺しているのかもしれないな。そんな風に、雑音だの無駄な灯りだのを欲しいだなんて発想には至らなかった」

「高遠さん……」

 もしかしたら高遠さんは、子供のころから独りで淋しい思いをしていたんだろうか?
 ふと思い立ったそんな考えが、私の心を締め付けた。

 高遠さんは私と一緒に今、ソファに座っている。程よい感覚を空けて。

 私はカフェオレを一気に飲み干してテーブルに置き、体をずらして高遠さんにぴったりとくっ付いた。

「桐子?」
「淋しいのは、嫌いです。でも、高遠さんが淋しさに慣れてしまうのは、もっと嫌」

 高遠さんが、持っていたコーヒーカップをテーブルに置いた。私はすかさず腕を伸ばして、高遠さんに抱き着く。

「淋しい時は、呼んでください」
「桐子……」
「タクシー飛ばして、来ますから」
「…………」

 高遠さんはそれには答えず、無言で私の背中に腕を回す。そっと引き寄せられて、私の髪に顔を埋めた。

「……君って子は、本当に……」
「高遠さん?」

 呆れられちゃった?
 グイグイ行き過ぎて、引かれちゃっただろうか。

 少し心配したけれど、もしも本気で呆れているのなら、私を抱き寄せてはくれないわよね?

 高遠さんの腕は、私の背中に回ったままで、今も優しく抱きしめてくれている。私は、そっと高遠さんの胸に体を預けた。

「桐子」

 高遠さんの体温にドキドキしながら、ギュッとくっ付いていた。もっと一緒に居たいという気持ちが伝わってほしいと思いながら。

 だけど……、やっぱりもうそろそろ帰らなきゃいけない時間なのだろう。

 名前を呼ばれて抱きしめる腕の力を緩められては、それを無視するわけにはいかない。
 私は、渋々高遠さんの背中に回していた腕を解いて顔を上げた。

「あ……」

 高遠さんが、私の頬に手を添えて顔を近づけてくる。寄せる唇に、私もそっと目を閉じた。

 ふわりと重なる唇。何度も啄まれて、心音が大きくなる。
 キュッと高遠さんのシャツを握り締めたとほぼ同時に、首裏に手を添えられ更に抱き寄せられた。深くなる口づけに、私はただただ必死に高遠さんにしがみ付いた。

 どのくらいの時間が経っていたんだろう。そっと唇が離れて行き、ぼんやりと目を開けた。

 私の瞳を見つめる、高遠さんの濃く深い瞳。その瞳に吸い寄せられるようにじっと見つめている内に、高遠さんの唇に目が行った。

 どうしよう。今頃、ドキドキしてきた。

 顔もだんだん熱くなってきて、恥ずかしくて高遠さんを直視できない。震える瞼をそっと伏せて、ふうっと小さく息を漏らした。

 高遠さんは、そんな私の頬を一瞬優しく撫でた後、一回ギュッと強く抱きしめて体を離した。
「名残惜しいけど、そろそろ時間だ」
「……はい」

 スッと立ち上がった高遠さんに、手を引かれる。タクシーを呼んでもらって、マンションの下まで送ってもらった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

処理中です...