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第二章
高頭さんの部屋 2
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「――独り暮らしって、淋しくないですか?」
「え?」
「……だって、静かでしょう? 特に夜とか。雑音とか、無駄な灯りとか、恋しくなったりしませんか?」
「ああ、そう言う事か。それは別に。もしかしたら淋しいという気持ちには、麻痺しているのかもしれないな。そんな風に、雑音だの無駄な灯りだのを欲しいだなんて発想には至らなかった」
「高遠さん……」
もしかしたら高遠さんは、子供のころから独りで淋しい思いをしていたんだろうか?
ふと思い立ったそんな考えが、私の心を締め付けた。
高遠さんは私と一緒に今、ソファに座っている。程よい感覚を空けて。
私はカフェオレを一気に飲み干してテーブルに置き、体をずらして高遠さんにぴったりとくっ付いた。
「桐子?」
「淋しいのは、嫌いです。でも、高遠さんが淋しさに慣れてしまうのは、もっと嫌」
高遠さんが、持っていたコーヒーカップをテーブルに置いた。私はすかさず腕を伸ばして、高遠さんに抱き着く。
「淋しい時は、呼んでください」
「桐子……」
「タクシー飛ばして、来ますから」
「…………」
高遠さんはそれには答えず、無言で私の背中に腕を回す。そっと引き寄せられて、私の髪に顔を埋めた。
「……君って子は、本当に……」
「高遠さん?」
呆れられちゃった?
グイグイ行き過ぎて、引かれちゃっただろうか。
少し心配したけれど、もしも本気で呆れているのなら、私を抱き寄せてはくれないわよね?
高遠さんの腕は、私の背中に回ったままで、今も優しく抱きしめてくれている。私は、そっと高遠さんの胸に体を預けた。
「桐子」
高遠さんの体温にドキドキしながら、ギュッとくっ付いていた。もっと一緒に居たいという気持ちが伝わってほしいと思いながら。
だけど……、やっぱりもうそろそろ帰らなきゃいけない時間なのだろう。
名前を呼ばれて抱きしめる腕の力を緩められては、それを無視するわけにはいかない。
私は、渋々高遠さんの背中に回していた腕を解いて顔を上げた。
「あ……」
高遠さんが、私の頬に手を添えて顔を近づけてくる。寄せる唇に、私もそっと目を閉じた。
ふわりと重なる唇。何度も啄まれて、心音が大きくなる。
キュッと高遠さんのシャツを握り締めたとほぼ同時に、首裏に手を添えられ更に抱き寄せられた。深くなる口づけに、私はただただ必死に高遠さんにしがみ付いた。
どのくらいの時間が経っていたんだろう。そっと唇が離れて行き、ぼんやりと目を開けた。
私の瞳を見つめる、高遠さんの濃く深い瞳。その瞳に吸い寄せられるようにじっと見つめている内に、高遠さんの唇に目が行った。
どうしよう。今頃、ドキドキしてきた。
顔もだんだん熱くなってきて、恥ずかしくて高遠さんを直視できない。震える瞼をそっと伏せて、ふうっと小さく息を漏らした。
高遠さんは、そんな私の頬を一瞬優しく撫でた後、一回ギュッと強く抱きしめて体を離した。
「名残惜しいけど、そろそろ時間だ」
「……はい」
スッと立ち上がった高遠さんに、手を引かれる。タクシーを呼んでもらって、マンションの下まで送ってもらった。
「え?」
「……だって、静かでしょう? 特に夜とか。雑音とか、無駄な灯りとか、恋しくなったりしませんか?」
「ああ、そう言う事か。それは別に。もしかしたら淋しいという気持ちには、麻痺しているのかもしれないな。そんな風に、雑音だの無駄な灯りだのを欲しいだなんて発想には至らなかった」
「高遠さん……」
もしかしたら高遠さんは、子供のころから独りで淋しい思いをしていたんだろうか?
ふと思い立ったそんな考えが、私の心を締め付けた。
高遠さんは私と一緒に今、ソファに座っている。程よい感覚を空けて。
私はカフェオレを一気に飲み干してテーブルに置き、体をずらして高遠さんにぴったりとくっ付いた。
「桐子?」
「淋しいのは、嫌いです。でも、高遠さんが淋しさに慣れてしまうのは、もっと嫌」
高遠さんが、持っていたコーヒーカップをテーブルに置いた。私はすかさず腕を伸ばして、高遠さんに抱き着く。
「淋しい時は、呼んでください」
「桐子……」
「タクシー飛ばして、来ますから」
「…………」
高遠さんはそれには答えず、無言で私の背中に腕を回す。そっと引き寄せられて、私の髪に顔を埋めた。
「……君って子は、本当に……」
「高遠さん?」
呆れられちゃった?
グイグイ行き過ぎて、引かれちゃっただろうか。
少し心配したけれど、もしも本気で呆れているのなら、私を抱き寄せてはくれないわよね?
高遠さんの腕は、私の背中に回ったままで、今も優しく抱きしめてくれている。私は、そっと高遠さんの胸に体を預けた。
「桐子」
高遠さんの体温にドキドキしながら、ギュッとくっ付いていた。もっと一緒に居たいという気持ちが伝わってほしいと思いながら。
だけど……、やっぱりもうそろそろ帰らなきゃいけない時間なのだろう。
名前を呼ばれて抱きしめる腕の力を緩められては、それを無視するわけにはいかない。
私は、渋々高遠さんの背中に回していた腕を解いて顔を上げた。
「あ……」
高遠さんが、私の頬に手を添えて顔を近づけてくる。寄せる唇に、私もそっと目を閉じた。
ふわりと重なる唇。何度も啄まれて、心音が大きくなる。
キュッと高遠さんのシャツを握り締めたとほぼ同時に、首裏に手を添えられ更に抱き寄せられた。深くなる口づけに、私はただただ必死に高遠さんにしがみ付いた。
どのくらいの時間が経っていたんだろう。そっと唇が離れて行き、ぼんやりと目を開けた。
私の瞳を見つめる、高遠さんの濃く深い瞳。その瞳に吸い寄せられるようにじっと見つめている内に、高遠さんの唇に目が行った。
どうしよう。今頃、ドキドキしてきた。
顔もだんだん熱くなってきて、恥ずかしくて高遠さんを直視できない。震える瞼をそっと伏せて、ふうっと小さく息を漏らした。
高遠さんは、そんな私の頬を一瞬優しく撫でた後、一回ギュッと強く抱きしめて体を離した。
「名残惜しいけど、そろそろ時間だ」
「……はい」
スッと立ち上がった高遠さんに、手を引かれる。タクシーを呼んでもらって、マンションの下まで送ってもらった。
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