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第二章
高遠さんの部屋
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「桐子……」
「わ、私だってもう二十一です。付き合っている彼氏のお家とか、……あ、いえその……。せっかく会えたんですから、もっと長く一緒に居たいんです!」
高遠さんは、優しい。十分大事にされているのも分かっているし、それは素直に嬉しいと思う。
だけど恋人として、高遠さんを好きな一人の女の子としては、凄く物足りなくて不安に思えてしまうのだ。
だって、本当に好きならその人のことで頭がいっぱいになるものじゃないの? そんなに平静で、居られるものなの?
最近、高遠さんとこうやって合う度に、そんな不安に駆られてしまって仕方が無くなる。 ジッと高遠さんを見つめていると、彼は困ったように苦笑した。
「俺は独り暮らしだし、特に変わった物もないよ。それに余りゆっくりさせてあげられないけど、構わないかな?」
「はい、構いません。ただ、もう少し高遠さんといたいだけですから」
「敵わないな、君には」
本当は、少し呆れてしまったのかもしれないけど、高遠さんは笑って私のわがままを聞いて自宅へと案内してくれた。
高遠さんの住んでいるマンションは、大手ショッピングモールの裏側にある住宅街を、だいぶ奥に入ったところにあった。
部屋の作りは、2LDK。物があまりないせいか、部屋自体は広く感じられた。
「な? 何も無いだろ」
「……ここには、どのくらい住んでいるのですか?」
「――ああ、そうだな。就職して、一年くらい経ってから独り暮らしを始めたから、もう四年は過ぎたな」
「そう、なんですか」
四年もここに住んでいて、それなのにこんな必要最低限の物しかないなんて。
「高遠さんって、物欲が無い方なんですか?」
「ハハ。人に比べるとそうかもしれないね」
通されたリビングには、三人掛けのソファと、小さなテーブルが置かれているだけだ。広々を通り過ぎて、寒々しさすら感じられる。
「コーヒー、淹れるね」
「あ、構わないでください」
「いいよ、気にしないで。俺が飲みたいだけだから」
ソファから腰を上げかけた私を片手で制し、高遠さんはさっさとお湯を沸かして、二人分のコーヒー淹れてきてくれた。
高遠さんの前には、ブラックコーヒー。そして私の目の前には、たっぷりのミルクを入れたカフェオレを置いてくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
高遠さんは、にっこりと笑って、カップに口を付けた。私も倣って、カフェオレをコクリと飲む。
「美味しい」
お世辞ではなく、それは本当に美味しかった。コクもあるし、何より甘さ加減が絶妙で、私の口に合っていた。
「そうか、良かった」
そう言ってニッコリと微笑んでくれる高遠さんだったけど、この殺風景なりリビングのせいなのだろう。優しい気持ちと共に、少し寂しい気分に陥ってしまった。
「わ、私だってもう二十一です。付き合っている彼氏のお家とか、……あ、いえその……。せっかく会えたんですから、もっと長く一緒に居たいんです!」
高遠さんは、優しい。十分大事にされているのも分かっているし、それは素直に嬉しいと思う。
だけど恋人として、高遠さんを好きな一人の女の子としては、凄く物足りなくて不安に思えてしまうのだ。
だって、本当に好きならその人のことで頭がいっぱいになるものじゃないの? そんなに平静で、居られるものなの?
最近、高遠さんとこうやって合う度に、そんな不安に駆られてしまって仕方が無くなる。 ジッと高遠さんを見つめていると、彼は困ったように苦笑した。
「俺は独り暮らしだし、特に変わった物もないよ。それに余りゆっくりさせてあげられないけど、構わないかな?」
「はい、構いません。ただ、もう少し高遠さんといたいだけですから」
「敵わないな、君には」
本当は、少し呆れてしまったのかもしれないけど、高遠さんは笑って私のわがままを聞いて自宅へと案内してくれた。
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「な? 何も無いだろ」
「……ここには、どのくらい住んでいるのですか?」
「――ああ、そうだな。就職して、一年くらい経ってから独り暮らしを始めたから、もう四年は過ぎたな」
「そう、なんですか」
四年もここに住んでいて、それなのにこんな必要最低限の物しかないなんて。
「高遠さんって、物欲が無い方なんですか?」
「ハハ。人に比べるとそうかもしれないね」
通されたリビングには、三人掛けのソファと、小さなテーブルが置かれているだけだ。広々を通り過ぎて、寒々しさすら感じられる。
「コーヒー、淹れるね」
「あ、構わないでください」
「いいよ、気にしないで。俺が飲みたいだけだから」
ソファから腰を上げかけた私を片手で制し、高遠さんはさっさとお湯を沸かして、二人分のコーヒー淹れてきてくれた。
高遠さんの前には、ブラックコーヒー。そして私の目の前には、たっぷりのミルクを入れたカフェオレを置いてくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
高遠さんは、にっこりと笑って、カップに口を付けた。私も倣って、カフェオレをコクリと飲む。
「美味しい」
お世辞ではなく、それは本当に美味しかった。コクもあるし、何より甘さ加減が絶妙で、私の口に合っていた。
「そうか、良かった」
そう言ってニッコリと微笑んでくれる高遠さんだったけど、この殺風景なりリビングのせいなのだろう。優しい気持ちと共に、少し寂しい気分に陥ってしまった。
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