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第二章

癒せる存在になれたらいいな

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 そうして進んだ先には、小さめな丸い筒のような水槽がいくつもあって、ピンクにブルーにパープルと、カラフルな色でショーアップされている。薄暗い中で光る様々な色が、凄く幻想的な空間を作り出していた。

「ここ、来たことある?」

「いいえ。初めてです。他の水族館には行ったことありますけど。確かこの水族館は、一昨年出来たばかりですよね? いつか行ってみたいなって思ってたんで、来れて嬉しいです」

「そうか、良かった」

 ライトに照らされて、グリーンに発光した筋状の帯が目の前を流れていく。濃いグリーンから輝くような白へと変貌していくそれは、私の時間を止めてしまったようだ。呆けたように見惚れてしまい、そこから目が離せない。

「綺麗だね」
「はい、とても。……キラキラ輝くキャンディみたい」
「美味しそう?」
「はい」

 顔を上げて、こみ上げる笑いを抑えながら返事をすると、それを察したのか高遠さんの口角がキュッと上がった。
 そしてぷっと吹き出して、二人で笑いだす。

「行こうか。まだまだ見どころはたくさんあるぞ」
「はい!」

 高遠さんが私の掌をキュッと握って、引っ張って行く。

 どうしよう。顔が締まらないわ。 
 きっと今の私の表情は、恥ずかしいくらい蕩けているに違いない。こういうほんの些細な出来事が、これは夢では無くて、私は本当に高遠さんの恋人になれたんだと実感させてくれている。

 高遠さんに引っ張られた先は、多分大きな水族館では定番の、トンネル状の水槽だ。この型の水槽は何度来ても圧巻で、まるで本当に海の底にやって来たかのような錯覚に陥る。 見上げる私の頭上を、エイが優雅にゆったりと泳いでいた。

「気持ちよさそうだなぁ」
「そうですね。落ち着きますね」
「ああ。日頃の疲れも吹っ飛ぶようだ」

 そう言いながら、高遠さんは目を細めて優雅に泳ぐ魚たちを微笑みながら見ている。

 やっぱり、お仕事って大変なのかな?
 学生の私には分からない、責任を担う大変な物なのかもしれない。

 何となく、高遠さんにくっ付きたくなってしまった。甘えたいというわけでは無くて、触れることで癒される……、そんな経験が私にもあったから。

 もちろんそれは、お母さまだったり友達だったりと、本当に私の身近な人たちだったのだけど。

 今の私と高遠さんも、そういう仲になっているわよね?

 手を繋いだままにはなっているけれど、自分から高遠さんにくっ付いてぴったりと寄り添った。高遠さんは一瞬驚いた表情で私を見たけれど、私の顔を見て察してくれたようで、ニッコリと笑って握っていた掌に一瞬、キュッと力を込めてくれた。


 高遠さんを癒せる力があったらいいな。

 私はそんなことを思いながら、青く輝く水の中で優雅に泳ぐ魚たちを仰ぎ見た。
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