天使なんかと上手くやれるわけがない

らいち

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千年に一人の逸材

いつかは対等に……

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「やっぱここが一番落ち着くな~」

久しぶりに芙蓉のマンションに戻ってきた。嬉しさのあまり、俺はそこらの床にゴロゴロと転がる。

「おい、行儀悪いぞ」
「だって~、やっと自由になれたんだもん」
「…悪かったな」

やたらと神妙な顔で俺を見るから、俺も却って居た堪れなくなった。

「ああ、もういいって。ナダルって奴も言ってたじゃん。この流れには意味があるって。芙蓉がこれからも、俺を守ってくれるんだろ?」

意味深に、ニヤッと笑って言ってやる。

実際これまでだって芙蓉には色々と面倒をかけて来た俺だ。芙蓉に負い目なんて、感じてほしくはなかった。
その意図を察したのか、芙蓉もあえて茶化したように返してきた。

「そうだな、これからもしっかり監視してやるよ」
「ひでぇ」

不貞腐れた顔で笑うと芙蓉も笑い返してきた。だけどそれは揶揄うというには余りにも優しい笑顔だった。

「なあ芙蓉、本当の所なんで大天使昇格を断ったんだ? あいつらは俺に影響されたって思ってたみたいだけど、根本的な理由はそんな事じゃないだろう?」

「…興味あるのか?」
「うん、知りたい」

素直にそう返事をすると一瞬芙蓉は首を傾げ、「そうだなあ…」と呟いた。

「ここに来る前の俺は、確かに天界で重要な地位に上り詰める事ばかりを考えてた。それなのに試験に落第してここに追放されて、目の前が真っ暗になったよ」

そう言って芙蓉は、薄く笑う。その頃の自分をあざ笑うかのように。

「……だけど何もかも投げやりになってここで暮らしている内に、初めて知る事がたくさんあった。ここには弱くて狡くてダメな奴がうじゃうじゃいる。だけど、それでも頑張って必死で生きていこうとする魂があった。そんな事を知っていく内に俺のこの些細な力が本当に意味あるものになるのは、そういうちっぽけな魂のために使う事なんじゃないかなって、思えて来たんだ」

芙蓉の真剣な気持ち、俺は初めて耳にした。

病気を治して命を救ってやれと言った時、歴史を変える事に繋がりかねない事は出来ないと突っぱねられて怒ったけれど、もしかしたら本当はそれが出来なくて一番悔しい思いをしていたのは、芙蓉なのかもしれないと、今、真剣に話をしている芙蓉を見ていて漠然とだけど、思ってしまった。

天界で厳しいルールを叩き込まれていてその大切さを分かっているからこその厳しさなんだろう。安直で安っぽい俺とは、やっぱり大違いだ。

「…俺、そのブラックなんちゃらとは違うんじゃないのかな」
「え?」
「…だって、さ」

宇宙一綺麗なんてありえないよ。俺は芙蓉みたいに深く考えたり出来ないし…。

「別にいいさ、それでも」
「え?」
「俺はナダル様の考えに合点がいったから、お前が嫌がろうが、ずっと監視してやるつもりでいるけどね」

意地の悪い顔でニヤリと笑う。だけどその表情に、俺は芙蓉の優しさを見ることが出来た。

本当にこいつは何だかんだ言って、天使なんだよな…。
芙蓉と対等でありたいなんて、やっぱり烏滸がましかったかな…。


窓からは、柔らかい陽射しが差し込んでいる。芙蓉の髪が、それに反射してキラキラ光る。
その眩さが、俺の気持ちをほんの少し素直にさせた。

「…よろしくな」

ぽつりと呟くと芙蓉が目を見開き、そして優しく微笑んだ。


…対等になりたいって言ったら、なんて言うだろう。

今はまだ口に出すのも烏滸がましいから言えないけれど、いつか絶対聞いてやろう。遙か先の目標を、俺は心の中で呟いていた。
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