天使なんかと上手くやれるわけがない

らいち

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千年に一人の逸材

ブラックエンジェル

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よく見ると、それは俺に「処分は無い」と教えてくれた天使だった。

「ナダル様…」

芙蓉の呟きに、九條がビクッとして振り向いた。

芙蓉と九條の態度から推測して、そうとう上の階級なのだろう。気になった俺は芙蓉にナダルの事を小声で尋ねてみた。

「芙蓉、ナダル様って?」
「大天使だ」
「えっ?」

大天使!
スッゲ―、初めて見るぞ俺。言われてみれば貫録が凄いかもしれない!

「九條、何をしている」
「ナ、ダル様…」
「お前の処分は決定したと思っていたが、それ以上に罰を食らいたいのか?」
「あ、あ…。お許しください!」

先ほどまでの横柄な態度はどこへやら、九條は体を小さく丸めて頭を下げていた。その様を呆然と見ていたら、ナダルと呼ばれた天使が俺を見た。

「聞こえなかったか?  それを持って下ろすと良い。大丈夫だ」

どうやら俺に言っているらしい。だけど何だか躊躇してしまって、俺は芙蓉を見た。すると芙蓉は苦笑を返す。

「大丈夫だ。下ろしてみろ」

三方からじっと見られて嫌な汗が出るが、芙蓉が大丈夫と言っているのだから間違いはないのだろう。俺はそっと手を伸ばして矢を持った。
その矢は三、四メートルくらいあり、シャフトは太く、先端が鋭く尖っていてかなりの迫力だった。重くて手に余るだろうと思っていたそれは、意外にもすんなりと俺の手に馴染んだ。

たいした力もいらず手にした俺に、九條はあっけにとられて俺を見ていた。そして更に芙蓉も、これには理解が及ばなかったようだった。

「ナダル様、これは…?」

「矢が止まったのは、彼の力じゃないさ。これは「狩り用の矢」だ。だから、狩りにそぐわない相手に放たれても、矢が拒否するだけの話しだ」

「…ですが、それにしてもなぜ紫温が矢に触れるのを許可なさったのです?」
「…お前が紫温を認めている理由は何だ?」

ナダルは芙蓉の質問には答えず更に質問で返した。芙蓉は不意を突かれたように一瞬固まる。

「それは…」

まるで言いたくないとでもいうように口ごもり、ちらと俺を見て視線をナダルに戻した。
だがナダルはそれを無視して、ただ芙蓉の顔をじっと見ていた。

「…容器にそぐわない綺麗な魂を持っている事に興味を持ったからです。しかも私の知る範囲では、それは恐らく宇宙一…」

らしくない芙蓉の小さな声とその内容に、俺まで心臓がドキドキと忙しなくなる。
俺が宇宙一綺麗な魂だって、本当に芙蓉はそう思っていたんだ…。
カーッと熱くなる頬にパタパタと、手で煽いで風を送る。芙蓉がマジでそんな事を思っていたなんて、びっくりなんですけど!

だけど更に続いたナダルの言葉に、俺は唖然とした。

「そう言う事だ」
「へ?」

それって何? このナダルとかいう奴も、俺の魂が宇宙一綺麗って思ってるって事か?

「…ブラックエンジェル。聞いたことはあるか?」

初めて聞く言葉に、俺はキョトンと首を傾げる。

「芙蓉は?」
「聞いた事はあります…。ありますけど…」

「特別な力を持たない無垢な魂。だがその容姿は中身とは真逆である。悪にも善にも偏らないため、その最たる者が靡く傾向にある」

「…ナダル様は、それが紫温だと?」

「おそらくな。芙蓉…、お前が紫温に魅かれたのは、きっと意味がある事なんだろう。無垢な魂は宇宙の浄化の一助になる。…お前が大天使候補生の試験のため人間界に落とされたのも、この流れの中の一つだったのかもしれないな」

「ナダル様…」
「戻るがいい。これから先もブラックエンジェルを守るのが、お前の使命だ。悪に偏らないようしっかり見守ってやれ」
「…畏まりました」

ナダルに一礼をし、芙蓉が俺に視線を向けた。

「来い。帰るぞ」
「…うん」

俺の事を話していたらしいのだが正直聞いていてもピンとこなかった。
宇宙一綺麗とか、ブラックエンジェルとか、全く訳が分からない。

だけど芙蓉との出会いが意味のあることで、それが運命だったと言うのなら俺は何でもいいと思った。

芙蓉の友達、しかも運命の!
俺にはそれが、一番重要な事だった。
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