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千年に一人の逸材
芙蓉の策略
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あー、暇だ。
さっき来た天使が処分は無いと言っていたので安心した途端、人間界が一気に恋しくなってきた。
不意に、子供医療センターで知り合った面々を思い出す。みんなどうしているだろう。
子供たちの顔を次々に思いだし、そして芙蓉を慕っている早野さんを思い出した。
無事に人間界に戻れて早野さんに会えたら、今度はちゃんと芙蓉との仲を取り持ってあげようかな?
我ながら現金だとは思うけど、芙蓉に友達だと認められていると言うことが、大きな自信になっていた。
自分の今の状況を無視して、のほほんと当たり障りの無い事を考えていると急に空気が変化した。
「貴様! そこから出て来い!」
突然姿を現したかと思うと、牢屋に入れられている俺に無理難題を押し付ける。
なんだこいつ?
「皆を騙せても俺の目はごまかせないぞ! お前は魔力を出し惜しみして、芙蓉の同情を買っているんだろう」
「はい?」
「出て来い! 貴様のせいで俺がどんな目に遭ったと思っているんだ」
「いやだから…」
「見苦しいですよ。九條さま」
「芙蓉!」
九條という天使が怒り狂っているさまも気にも留めない風情で、いつものように無表情な芙蓉がそこに立っていた。
「紫温に理不尽な怒りを向ける前に、規律を無視して人間を天界に連れ込んだご自分をお責めなさい。私はそれに付け込んだだけです」
「お前…。ナダル様のお気に入りだからって調子に乗るなよ!」
「調子に乗ったつもりはありませんがね。それよりもお父上に感謝するんですね。お父上の権力のおかげで私も紫温も自由の身ですが、あなたにもお咎めは無くなったのですから」
どうやら芙蓉はこの男の所業を探り当てて権力者を脅し、俺たちの自由を勝ち取ったらしい。芙蓉らしいと言えばそうなのだろうけど、それにしてもこいつの物言いはどうにかならないのか。いつもの口調よりも更に冷淡なそれに、俺はあっけにとられていた。
「待たせたな。今出してやる」
芙蓉は檻の前で片手を上げた。すると今まで有った格子がすうっと消えていく。
目の前の異物が消えて、やっと自由になったのだと実感した。
「帰るぞ」
相変わらずの無表情さで、芙蓉が俺に手を差し伸べた。
今までの俺ならきっと素直になれず無視してしまいそうなところだが、芙蓉が友人と認めてくれているという事が分かったおかげで、俺は素直に芙蓉の手を取る事が出来た。
実際ここは俺にとってはもの凄く居心地が悪い。本音を言えば、芙蓉に抱き付いて喚き散らしたいほど不安定な状態だ。
だけど芙蓉の手をギュッと握ったら、少しだけ肩の力が抜けてホッとした。そんな俺の状態に気が付いたのか、芙蓉が柔らかく俺にほほ笑みかけた。
この時の俺は、いや、この芙蓉でさえ、何もかも片が付いたと気を抜いていた。
だがそう思っていたのは俺と芙蓉だけで、九條はまだ怒りを抑えられずにいたのだ。
鋭い叫び声に驚いて振り向くと、見たことも無い様な途轍もなく大きな矢が俺をめがけて放たれていた。
「紫温!」
悲痛に叫ぶ芙蓉の声が鼓膜を揺さぶる。俺は反射的に体を固くして、ギュッと目を瞑った。
さっき来た天使が処分は無いと言っていたので安心した途端、人間界が一気に恋しくなってきた。
不意に、子供医療センターで知り合った面々を思い出す。みんなどうしているだろう。
子供たちの顔を次々に思いだし、そして芙蓉を慕っている早野さんを思い出した。
無事に人間界に戻れて早野さんに会えたら、今度はちゃんと芙蓉との仲を取り持ってあげようかな?
我ながら現金だとは思うけど、芙蓉に友達だと認められていると言うことが、大きな自信になっていた。
自分の今の状況を無視して、のほほんと当たり障りの無い事を考えていると急に空気が変化した。
「貴様! そこから出て来い!」
突然姿を現したかと思うと、牢屋に入れられている俺に無理難題を押し付ける。
なんだこいつ?
「皆を騙せても俺の目はごまかせないぞ! お前は魔力を出し惜しみして、芙蓉の同情を買っているんだろう」
「はい?」
「出て来い! 貴様のせいで俺がどんな目に遭ったと思っているんだ」
「いやだから…」
「見苦しいですよ。九條さま」
「芙蓉!」
九條という天使が怒り狂っているさまも気にも留めない風情で、いつものように無表情な芙蓉がそこに立っていた。
「紫温に理不尽な怒りを向ける前に、規律を無視して人間を天界に連れ込んだご自分をお責めなさい。私はそれに付け込んだだけです」
「お前…。ナダル様のお気に入りだからって調子に乗るなよ!」
「調子に乗ったつもりはありませんがね。それよりもお父上に感謝するんですね。お父上の権力のおかげで私も紫温も自由の身ですが、あなたにもお咎めは無くなったのですから」
どうやら芙蓉はこの男の所業を探り当てて権力者を脅し、俺たちの自由を勝ち取ったらしい。芙蓉らしいと言えばそうなのだろうけど、それにしてもこいつの物言いはどうにかならないのか。いつもの口調よりも更に冷淡なそれに、俺はあっけにとられていた。
「待たせたな。今出してやる」
芙蓉は檻の前で片手を上げた。すると今まで有った格子がすうっと消えていく。
目の前の異物が消えて、やっと自由になったのだと実感した。
「帰るぞ」
相変わらずの無表情さで、芙蓉が俺に手を差し伸べた。
今までの俺ならきっと素直になれず無視してしまいそうなところだが、芙蓉が友人と認めてくれているという事が分かったおかげで、俺は素直に芙蓉の手を取る事が出来た。
実際ここは俺にとってはもの凄く居心地が悪い。本音を言えば、芙蓉に抱き付いて喚き散らしたいほど不安定な状態だ。
だけど芙蓉の手をギュッと握ったら、少しだけ肩の力が抜けてホッとした。そんな俺の状態に気が付いたのか、芙蓉が柔らかく俺にほほ笑みかけた。
この時の俺は、いや、この芙蓉でさえ、何もかも片が付いたと気を抜いていた。
だがそう思っていたのは俺と芙蓉だけで、九條はまだ怒りを抑えられずにいたのだ。
鋭い叫び声に驚いて振り向くと、見たことも無い様な途轍もなく大きな矢が俺をめがけて放たれていた。
「紫温!」
悲痛に叫ぶ芙蓉の声が鼓膜を揺さぶる。俺は反射的に体を固くして、ギュッと目を瞑った。
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