10 / 44
天使と悪魔
積極的な早野さん
しおりを挟む
「お願いがあるんですけど」
そう言って、早野さんがにっこり笑った。
そのお願いを断れなかったのは、お人良しすぎる俺のせいだ。…だから悪魔失格なんだよ…。
というわけで今、俺と芙蓉が同居するマンションのリビングに、早野さんが嬉しそうにちょこんと座っている。
案の定早野さんを見つけた芙蓉が俺をリビングの隅に引っ張って、困惑気味に俺を睨んだ。
「どういうつもりだ、家にまで連れてきて」
「諦められないって頼まれたんだよ」
俺は早野さんに聞かれないように、ボソボソと芙蓉に訴えた。
だけど俺の気遣いを芙蓉は一掃し、くるっと向きを変えて早野さんの下に歩き出した。
「帰ってもらう」
「ええ!?」
俺の困惑などさらっと無視して、芙蓉は早野さんに話しかけた。
「早野さん」
「芙蓉!」
何とか芙蓉の冷たい言葉を止めなければと焦る俺。だけどそんな状況を把握していない早野さんが芙蓉を見て、「あ」って顔をする。
「ボタン」
へ? と、思って早野さんを思わず見つめる。
早野さんの視線は、芙蓉のシャツの袖口を見ていた。
「ボタン、取れかかってますよ」
その言葉に、芙蓉と俺はシャツの袖を見つめた。
あ、ほんとだ。取れかけてる。几帳面な芙蓉にしては珍しい事だ。
「貸して下さい。付け直します」
「いい」
これも、即答だった。だけど、今度は早野さんも臆することなく言葉を続ける。
「遠慮しないでください。得意なんです。こういう事」
ニコッと笑って、芙蓉に手を差し出した。
だけど笑いかけられた芙蓉はますます表情を無くして、まるで能面のようだ。
「このまま付けるのか? それとも脱げって?」
冷たい言葉に早野さんの表情が強張った。俺もびっくりして固まる。
「ご…ごめんなさい」
早野さんは真っ赤になって俯いてしまった。今にも泣きそうな表情だ。
「おい、芙蓉」
女の子泣かせて良いのかよ。
何とかしろよとおろおろしていると、芙蓉は片手で顔を覆いため息を吐いてリビングを出て行ってしまった。
そう言って、早野さんがにっこり笑った。
そのお願いを断れなかったのは、お人良しすぎる俺のせいだ。…だから悪魔失格なんだよ…。
というわけで今、俺と芙蓉が同居するマンションのリビングに、早野さんが嬉しそうにちょこんと座っている。
案の定早野さんを見つけた芙蓉が俺をリビングの隅に引っ張って、困惑気味に俺を睨んだ。
「どういうつもりだ、家にまで連れてきて」
「諦められないって頼まれたんだよ」
俺は早野さんに聞かれないように、ボソボソと芙蓉に訴えた。
だけど俺の気遣いを芙蓉は一掃し、くるっと向きを変えて早野さんの下に歩き出した。
「帰ってもらう」
「ええ!?」
俺の困惑などさらっと無視して、芙蓉は早野さんに話しかけた。
「早野さん」
「芙蓉!」
何とか芙蓉の冷たい言葉を止めなければと焦る俺。だけどそんな状況を把握していない早野さんが芙蓉を見て、「あ」って顔をする。
「ボタン」
へ? と、思って早野さんを思わず見つめる。
早野さんの視線は、芙蓉のシャツの袖口を見ていた。
「ボタン、取れかかってますよ」
その言葉に、芙蓉と俺はシャツの袖を見つめた。
あ、ほんとだ。取れかけてる。几帳面な芙蓉にしては珍しい事だ。
「貸して下さい。付け直します」
「いい」
これも、即答だった。だけど、今度は早野さんも臆することなく言葉を続ける。
「遠慮しないでください。得意なんです。こういう事」
ニコッと笑って、芙蓉に手を差し出した。
だけど笑いかけられた芙蓉はますます表情を無くして、まるで能面のようだ。
「このまま付けるのか? それとも脱げって?」
冷たい言葉に早野さんの表情が強張った。俺もびっくりして固まる。
「ご…ごめんなさい」
早野さんは真っ赤になって俯いてしまった。今にも泣きそうな表情だ。
「おい、芙蓉」
女の子泣かせて良いのかよ。
何とかしろよとおろおろしていると、芙蓉は片手で顔を覆いため息を吐いてリビングを出て行ってしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる