2 / 44
天使と悪魔
魔界からのストーカー
しおりを挟む
―――ツキン
まるで射抜くような鋭い視線に、ギョッとして俺は振り返った。身に覚えのある気配に、まるで全身が心臓になってしまったかのように、ドクドクと体中から心音が鳴り響く。
だが、振り返ったそこには誰も居ず、気配も消えてなくなっている。
…気のせいか?
だけど、あの思い出したくもない嫌な気配は、どう考えてもあいつだ。
全身から嫌な汗が流れて落ちる。俺は恐怖のあまり身を強張らせていた。
突然、グイッと右腕を強い力で引っ張られた。振り返ると芙蓉が、いつもの無表情に近い顔で俺の後ろに立っていた。
「帰るぞ」
抑揚のない声で言われて、ホッとする。
「う、うん」
…? あれ? なんで芙蓉の顔を見ただけでホッとしてるんだ俺。
思わず芙蓉の顔をじっと見る。表情のない冷めた顔。
ああ、そうか。この冷徹な顔を見たから、きっと俺も平常心になれたのかもしれない。
本当にそう言う理由なのかは分からないが、面倒臭いのでそれで納得する事にしておいた。
俺は行き場のない所を芙蓉に拾われて、芙蓉のマンションに同居(居候ともいう)している。
その部屋のドアの前に立った芙蓉が、呆れたようにため息を吐いて俺を見た。
「お前、どんだけ気に入られてるんだよ」
「し、知らねえよ」
明らかにこの部屋の中から、先ほど感じた嫌な気配が感じとれる。おそらくあいつが先回りして、この中に入っているのだろう。
芙蓉は、ドアに手を伸ばした。
「しょうがないな」
「あっ」
動揺した俺は、咄嗟に芙蓉のシャツを握りしめてしまった。
芙蓉が少し驚いた顔をして俺を見る。俺は咄嗟の自分の行為に恥ずかしくなり、慌てて手を離した。
「ごっ、ごめ…」
「いい、そのくらい。その方が安心できるんだろ。そのままにしてろ」
普段の芙蓉からは想像できない優しい言葉にびっくりする。らしくない芙蓉や自分の行為に恥ずかしさは倍増したけど、それでも本当にありがたかったので、俺は素直に聞き入れた。
「…あり…がと」
言った自分でもびっくりするくらいの小さくか細い声だった。
おかげで、余計に顔の温度が上昇する。だけど俺は、その恥ずかしさを脇に除けて芙蓉のシャツをギュッと握りしめた。
玄関を開けて中に入ると、やはり案の定、ユウマが部屋で待ち構えていた。
まるで射抜くような鋭い視線に、ギョッとして俺は振り返った。身に覚えのある気配に、まるで全身が心臓になってしまったかのように、ドクドクと体中から心音が鳴り響く。
だが、振り返ったそこには誰も居ず、気配も消えてなくなっている。
…気のせいか?
だけど、あの思い出したくもない嫌な気配は、どう考えてもあいつだ。
全身から嫌な汗が流れて落ちる。俺は恐怖のあまり身を強張らせていた。
突然、グイッと右腕を強い力で引っ張られた。振り返ると芙蓉が、いつもの無表情に近い顔で俺の後ろに立っていた。
「帰るぞ」
抑揚のない声で言われて、ホッとする。
「う、うん」
…? あれ? なんで芙蓉の顔を見ただけでホッとしてるんだ俺。
思わず芙蓉の顔をじっと見る。表情のない冷めた顔。
ああ、そうか。この冷徹な顔を見たから、きっと俺も平常心になれたのかもしれない。
本当にそう言う理由なのかは分からないが、面倒臭いのでそれで納得する事にしておいた。
俺は行き場のない所を芙蓉に拾われて、芙蓉のマンションに同居(居候ともいう)している。
その部屋のドアの前に立った芙蓉が、呆れたようにため息を吐いて俺を見た。
「お前、どんだけ気に入られてるんだよ」
「し、知らねえよ」
明らかにこの部屋の中から、先ほど感じた嫌な気配が感じとれる。おそらくあいつが先回りして、この中に入っているのだろう。
芙蓉は、ドアに手を伸ばした。
「しょうがないな」
「あっ」
動揺した俺は、咄嗟に芙蓉のシャツを握りしめてしまった。
芙蓉が少し驚いた顔をして俺を見る。俺は咄嗟の自分の行為に恥ずかしくなり、慌てて手を離した。
「ごっ、ごめ…」
「いい、そのくらい。その方が安心できるんだろ。そのままにしてろ」
普段の芙蓉からは想像できない優しい言葉にびっくりする。らしくない芙蓉や自分の行為に恥ずかしさは倍増したけど、それでも本当にありがたかったので、俺は素直に聞き入れた。
「…あり…がと」
言った自分でもびっくりするくらいの小さくか細い声だった。
おかげで、余計に顔の温度が上昇する。だけど俺は、その恥ずかしさを脇に除けて芙蓉のシャツをギュッと握りしめた。
玄関を開けて中に入ると、やはり案の定、ユウマが部屋で待ち構えていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる