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第二章

お母さんにご挨拶

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「ねえ未花ちゃん、今度の三連休さ、何か予定ある?」
「え? ううん、何も」
「じゃあさ、デートしよう。恋人だしっ」

 こ、恋人……。 
 ああもう、本当にヒロくんには敵わない。何もかもが直球で、躊躇という言葉が無いんだから。 

「未花ちゃん?」
「あ、うん。いいね。うん、楽しみ」
「良かった。行きたいところとかある? 」
「え? えーっと……」

 どうしよう、どっか行きたい所ってあったっけ? 強いて言えば……。 

「服……、スカート欲しいなって思ってるんだけど。でもヒロくんには退屈だよね」
「まさか、そんなことないよ。未花ちゃんの洋服選びに付き合えるなんて、めっちゃ楽しみ」
「え? そうなの?」
「そうだよ。いやー、夢みたいだな。そういう場に立ち会えるなんて」
「…………」

 オーバーだなー。……けど、それもヒロくんらしいかと思ったら、知らないうちに笑みが浮かんだ。だから私も、素直に「楽しみだね」と微笑んだ。

 私の気持ちがすっかり浮上した頃、家が見えてきた。

 ヒロくんは私と正式にお付き合いするようになってから、お母さんに挨拶をしたがっていた。だけど運の悪いことに、ヒロくんが決心する時に限ってお母さんは出かけていた。

 家に着いたので、今日はどうするのかなと思いつつ、素知らぬ顔でいつものように送ってもらったお礼を言った。

「えっと、今日はお母さんいるかな?」
「うん、ちょっと待ってて」

 門を開けて、玄関の扉を確認してみる。ドアは簡単に開いたから、今日はどうやらいるみたいだ。
 くるんとヒロくんに振り返ると、ちょっぴり緊張の面持ちだ。

「お母さん、ただいまー」

 大声で挨拶をすると、お母さんが奥の方から顔を出した。

「おかえりなさい。あら? もしかして……」

 そう言ってお母さんは、私の背後を覗き込むような仕草を見せた。ヒロくんもその様子を見て、私の隣に並ぶように前に出た。

「あの、初めまして。秋永浩朗と言います」
「初めまして。確か秋永君って、未花のこと守ってくれた子よね。その節はどうもありがとう」
「あ、いえ! 俺が好きでやったことですから!」

 ヒロくんの言葉に、お母さんは笑みを漏らした。

「そうなの?」
「はい、あの俺未花ちゃんと……、いえ、未花さんとお付き合いさせてもらっています」

 ヒロくんは一体どれだけ緊張しているんだろう。いつもの爽やかな理路整然とした雰囲気は微塵もなく、テンパっているせいか、突然私と付き合ってることを報告してしまった。
 お母さんも一瞬びっくりしたような表情を見せたけど、真っ赤になっているヒロくんを見てクスクスと笑い出した。

「緊張しちゃってるのね。未花、良かったわね。誠実で頼もしそうだわ、秋永君」
「うん、それはもう信頼してる」

 ちらりとヒロくんの表情を窺うと、なんとか過度な緊張も解れたようでホッとしているのが見て取れた。

「上がってく?」
「え? あ、お誘いは嬉しいけれど、また今度。今日はお母さんにちゃんと挨拶をしたいと思っていただけだから」
「あら、残念」

 社交辞令だけとは思えないお母さんの表情に、ヒロくんは本当に緊張から解き放たれたようだった。いつもの余裕ある、爽やかな笑顔に戻っている。

「ありがとうございます。今度また、遊びに来させてください」
「きっとね。待ってるわよ」
「はい、是非」

 そう言ってヒロくんは、ペコリと頭を下げた。どうやらあまり時間がないようだ。帰ろうとする雰囲気を見せ始めたヒロくんを見て、私は玄関先に自分の荷物を置いた。

「お母さん、私ちょっと送ってくる」
「そう? 気をつけてね。秋永君、それじゃあまたね」
「はい、失礼します」

 手を振るお母さんに見送られて、二人で玄関を出た。門を開けて、私も一緒に駅の近くまで歩いて行こうとしたらヒロくんに止められた。

「ここまででいいよ、ありがとう」
「ええっ? これじゃあ送ったことにならないじゃん」
「ここでいいの。ボディーガードが送ってもらうなんて聞いたことないし」
「…………」 

 ボディガードかもしれないけど、今は恋人だし。

 不満たっぷりに、ぷくっと頬を膨らませてヒロくんを見た。目が合ったヒロくんは、ちょっぴり目を見開いた後、嬉しそうに頬を緩める。

「かわいいなあ、未花ちゃん。でも俺のためにも、ここで我慢して? もし未花ちゃんに送ってもらったら、俺またここまで送りたくなるから」

  困り顔でそんなことを言われたら、嫌とは言えなくなる。仕方がないので私はコクリと頷いて、いつものように、ヒロくんが小さくなって見えなくなるまで見送ることにした。
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