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第二章

私だって焼きもち焼くもん

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 日直のヒロくんは教室で私たちとお昼ご飯を食べ終わった後、次の授業に必要だからと教材を取りに行った。

 ヒロくんの席がぽつんと開いたのが寂しくて、廊下を歩いていく彼の後ろ姿を目で追っていた。ふと何気なく振り返ると、美代たちがまた嫌な感じでこちらを見ている。

「気にしないの」
「え? あっ、うん」 

 どうやら私はムッとした表情をしていたようだ。雅乃の声で我に返り、苦笑した。 

「何? どうしたの?」
「ああ、ううん何でもない。大丈夫、大丈夫」

 心配する椎名くんに、雅乃が手を振りながら笑って答えた。

「ふうん?」

 相槌のような曖昧な返事を返した後、椎名くんも後ろを振り返った。そして何かを納得したような顔になり、同情めいた視線をこちらに向けた。どうやら私がさっき相談したこともあって、椎名くんも察したらしい。

「そろそろヒロくん戻ってくるかなー」

 私は呟くようにそう言って席を立ち、教室を出た。そして廊下の窓から下を見下ろす。もちろんそんなに早く戻ってくるとは思っていなかったけど、でもそろそろこちらに向かってくる姿が見えるんじゃないかなと思ったんだ。

「あ、いた……、あっ」

 ヒロくんって呼ぼうと思った私の視線の先に、例の美人な三輪さんが、ヒロくんに向かって駆け寄ってきているのが見えた。

 なんなの、あのキラキラな笑顔。前も思ったけど、ヒロくんに対する三輪さんの表情は、好きな人に対するものにしか見えなくてモヤモヤする。
 ヒロくんもヒロくんで、なんだかすごく楽しそうだ。三輪さんに気が付いた途端うれしそうな表情になって、朗らかに笑い返している。

 もちろんヒロくんは私がこうやってギリギリとした思いで見ていることに気が付く訳もなく、少し二人で立ち話をした後、ゆっくりと話をしながら歩き始めた。

 美代たちのあんな戯れ言を信じるわけではないけれど、それでも美人と二人のツーショットは、見ていて面白いものではない。私はため息を一つ吐いて、また席へ戻った。

「あれ? どうしたの? 秋永くん迎えに行ってると思ったのに」
「……もう少ししたら来るみたいだよ」
「…………」
「…………」

 私の言い方に険があったのか、雅乃と椎名くんが顔を見合わせた。

「ああ、あいつ気さくだし顔が広いから、誰かに声かけられてるのかもな」
「そうだね。秋永くん話しかけやすいし」

 空気を変えようとしてくれたのだろう。椎名くんはのんびりとした口調でヒロくんを擁護した。雅乃に至っては、私を宥めようとしているのが見て取れた。焦ったような笑顔でヒロくんをフォローしている。

 そこへヒロくんが戻ってきた。パタパタと急ぎ足で教室に入ってきて、教壇に教材をバサッと置いて、こちらの方に大股で戻って来る。

「あれ? どうかしたの?」

 きっと私たちの微妙な雰囲気に気がついたんだろう。まさか自分が原因とは思いもしないヒロくんは、小首を傾げた。

「ヒロ、お前さー」
「あ、ねえ。そろそろ授業始まる時間だよ。ここ片さないと」
「え? あー、そうだな」
「そうね。のんびりしすぎちゃった」

 突然ガタガタと片付け始めた私たちを見て、ヒロくんは少し不思議そうな顔をしたけれど、確かにそろそろ授業が始まる時間になっていたので、彼も一緒になって片付け始めた。

 だってさ、私がヤキモチ焼いてるらしいなんてこと、この場で言ってほしくないもん。私には私なりに、プライドってものがあるんだよ。 
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