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第二章

胡散臭い告げ口

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 はあっ、はあっ、はあ。

「あと何周だっけ?」
「2周半だよ」
「まだそんなにあるの~? バテるー」

 今は体育の授業中。マラソンの時間だ。雅乃と並んで走りながら、お互いに泣き言を言い合っている。ハアハア言いながらふと顔を上げると、私達より少し前を走っている大桃さん達が意味深にこちらを窺うように見ていた。

 ……なに、あの子たち。

「どうしたの? 未花」
「あ、うん。大桃さんたちが、こっち見てたから」
「大桃さん達が?」
「うん、さっきね」

 今は彼女らは、普通に何でもないように前を走っている。だけどさっきの彼女らを見て、思い出したことがあった。ヒロくんが私を痴漢から守るために、ボディガードと称して送り迎えをしてくれていた時、彼女らはなんだか面白くないように私を睨んでいたんだ。

「はあっ」

 思わずため息がこぼれた。面倒臭い予感に、走る足取りも重くなって行った。 

 体育の授業が終わって着替えを終えたとき、案の定と言うべきか、大桃さんや美代や柑奈かんなが私を呼んだ。

「……何?」

 警戒心からか声音は低くなる。彼女らは、そんな私を可笑しく思ったのか嫌な笑みを見せた。

「未花さあ、秋永君と付き合ってるんだよね?」
「え? うん、そうだけど……」

 何なの? わざわざ改めてそんなこと聞きに来たの?

「それさあ、考え直した方がいいと思うな。秋永君って一見優しそうに見えるけどさ、……ねえ?」
「うん」

 三人は、何やら意味深に目くばせしあっている。

 ホント、何? すごく嫌な感じなんだけど。

「……何が言いたいのよ?」

「秋永君、愛想がいいから女の子釣りたい放題でさ、裏でこっそり複数の子と付き合ってポイ捨てしていたらしいよ? ……もしかしたら未花も、落としがいのある子だと思って近づいて来たんじゃないの? 馴れ馴れしかったでしょ、最初から」

 カチン。

 さっきからチラチラと意味深に気持ちの悪い視線を向けていたと思ったら、それ? そんな人を落としこめるような、そんな事が言いたかったわけ?

「――言いたいことは、それだけなの?」

「え? ま、まだあるわよ! ええっと、……誰だったかは弱み握られていいように遊ばれたとか……、それに……」

「あり得ない!」

「なんでそんなこと言えるのよ? 未花は秋永君のことなんて、ほとんど知らないでしょ? 私たちは善意で言ってあげてんのよ。それなのにあり得ないって何で言い切れるの?」

「誰だったかなんてそんな曖昧な話、何で信じなきゃいけないのよ?」
「……え? そ、それは被害に遭った子が何人かいるから、きちんと覚えていないって言うか……」
「そ、そうよ。それに噂が上がるってことは、それだけ疚しいことがある証拠じゃない」
「…………」 

 なんか、胡散臭いの。大体そんなにヤな奴だと普段から思っているんなら、なんでいつもヒロくんと話をする時、あんなに楽しそうなのよ。なんか絶対裏があるような気がする。
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