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第一章
告白……、されちゃった
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「……てめえ、覚えてろよ……」
「え……、あっ」
秋永君の腕の中でやっと安心した私の耳に、恨みのこもった地を這うような声が届いた。首をひねってそちらを向くと、男が横っ腹を擦りながら忌々しい表情で秋永君を見ていた。
「それはこちらのセリフです。あなたのしていること、しっかり撮らせてもらいましたからね」
そう言って、秋永君はスマホを男に向けた。その画面を見て、男の顔色が瞬時に変わる。
「もしまた未花ちゃんに纏わりついたり変なことした時は、警察に通報しますからそのつもりで」
「……っ」
男は一瞬ギロリと秋永君を睨み、相当悔しそうな顔をした後、すぐに踵を返して駅方面に向かって走り出した。
「もう大丈夫だろ……、てっ、えっ!? 未花ちゃん?」
「……あ、ごっ、ごめん。安心したら、力抜けちゃった……」
男が逃げ出したのを見て、私を立ち上がらせようと支えながら起こしてくれたのだけど、私が足に力を入れられなかったせいでグラッと体が傾いでしまった。もちろんすぐさま秋永君に受け止めてもらったから、転んだりはしなかったのだけど。
「はあ……、びっくりした。……でも、そうだよな。あんな目に遭った後だもんな。――大丈夫? 未花ちゃん」
真っすぐな瞳が心配そうに私を見ている。なんだろう、目の奥と胸の奥にじわじわと熱いものが広がって行く。
あ、ヤバい。これ油断したら泣いちゃう奴だ。
なんでだか分からないけど、ここで泣くのは嫌だと思った。恥ずかしいし、絶対秋永君を困らせちゃうだろうから、私は意地でも泣くまいとキュッと唇を噛み、汗を拭うふりをしてさっと涙を拭きとった。
「……大丈夫、だよ?」
「……そっか。――じゃあ学校、行こうか」
「ん」
駅までの道を歩きながら、二人ともなんとなく無言だ。私なんて、さっき秋永君に抱き着いたことが今頃になってじわじわと恥ずかしくなっていた。
「そういえばさっきのストーカーさ」
「うん」
「電車で俺が止めた奴だったな」
「えっ? そうだった?」
「なに? 忘れてたの? 未花ちゃん」
「……たぶんあんまり顔見てなかった」
「そうなの?」
私の言葉に秋永君は本気でびっくりしたみたいで、目を見開いて私を見た。
以前の私だったら考えられないことなんだけど、たぶん秋永君がいてくれたことに安心しきってしまって、相手の顔までしっかり見ていなかったんだと思う。
これもやっぱり、秋永君が傍にいてくれたことで、私が変わったことなんじゃないかな。
「……秋永君ってさ、本当に良い人だよね。優しくて正義感強くて、おまけに聞き上手だし。……みんなに慕われるだけあるよね」
しみじみと私がそう言うと、秋永君の表情が微妙なものに変化した。せっかく褒めたのに、あまり嬉しそうじゃない。
「……未花ちゃん」
「なに?」
「俺……、もしかしてすごく他人思いな優しい奴だと思われてる?」
「違うの?」
「ん~」
秋永君は困ったような顔をして、後頭部をガシガシと掻いた。
「困った人がいれば気の毒だと思うし、居合わせれば助けたりするとは思う。……だけど、自分の予定を変えてまで守りたいとか助けたいと思うのは、……俺にとっては未花ちゃんだけだよ?」
「……え?」
一際大きく、トクンと心音が鳴った。秋永君の顔も、心なしか赤い。
「好きなんだ、俺。未花ちゃんの、彼氏になりたいと思ってる」
真っ直ぐ告げられた思いもよらないその言葉に、私の顔はまたカーッと熱くなった。
「え……、あっ」
秋永君の腕の中でやっと安心した私の耳に、恨みのこもった地を這うような声が届いた。首をひねってそちらを向くと、男が横っ腹を擦りながら忌々しい表情で秋永君を見ていた。
「それはこちらのセリフです。あなたのしていること、しっかり撮らせてもらいましたからね」
そう言って、秋永君はスマホを男に向けた。その画面を見て、男の顔色が瞬時に変わる。
「もしまた未花ちゃんに纏わりついたり変なことした時は、警察に通報しますからそのつもりで」
「……っ」
男は一瞬ギロリと秋永君を睨み、相当悔しそうな顔をした後、すぐに踵を返して駅方面に向かって走り出した。
「もう大丈夫だろ……、てっ、えっ!? 未花ちゃん?」
「……あ、ごっ、ごめん。安心したら、力抜けちゃった……」
男が逃げ出したのを見て、私を立ち上がらせようと支えながら起こしてくれたのだけど、私が足に力を入れられなかったせいでグラッと体が傾いでしまった。もちろんすぐさま秋永君に受け止めてもらったから、転んだりはしなかったのだけど。
「はあ……、びっくりした。……でも、そうだよな。あんな目に遭った後だもんな。――大丈夫? 未花ちゃん」
真っすぐな瞳が心配そうに私を見ている。なんだろう、目の奥と胸の奥にじわじわと熱いものが広がって行く。
あ、ヤバい。これ油断したら泣いちゃう奴だ。
なんでだか分からないけど、ここで泣くのは嫌だと思った。恥ずかしいし、絶対秋永君を困らせちゃうだろうから、私は意地でも泣くまいとキュッと唇を噛み、汗を拭うふりをしてさっと涙を拭きとった。
「……大丈夫、だよ?」
「……そっか。――じゃあ学校、行こうか」
「ん」
駅までの道を歩きながら、二人ともなんとなく無言だ。私なんて、さっき秋永君に抱き着いたことが今頃になってじわじわと恥ずかしくなっていた。
「そういえばさっきのストーカーさ」
「うん」
「電車で俺が止めた奴だったな」
「えっ? そうだった?」
「なに? 忘れてたの? 未花ちゃん」
「……たぶんあんまり顔見てなかった」
「そうなの?」
私の言葉に秋永君は本気でびっくりしたみたいで、目を見開いて私を見た。
以前の私だったら考えられないことなんだけど、たぶん秋永君がいてくれたことに安心しきってしまって、相手の顔までしっかり見ていなかったんだと思う。
これもやっぱり、秋永君が傍にいてくれたことで、私が変わったことなんじゃないかな。
「……秋永君ってさ、本当に良い人だよね。優しくて正義感強くて、おまけに聞き上手だし。……みんなに慕われるだけあるよね」
しみじみと私がそう言うと、秋永君の表情が微妙なものに変化した。せっかく褒めたのに、あまり嬉しそうじゃない。
「……未花ちゃん」
「なに?」
「俺……、もしかしてすごく他人思いな優しい奴だと思われてる?」
「違うの?」
「ん~」
秋永君は困ったような顔をして、後頭部をガシガシと掻いた。
「困った人がいれば気の毒だと思うし、居合わせれば助けたりするとは思う。……だけど、自分の予定を変えてまで守りたいとか助けたいと思うのは、……俺にとっては未花ちゃんだけだよ?」
「……え?」
一際大きく、トクンと心音が鳴った。秋永君の顔も、心なしか赤い。
「好きなんだ、俺。未花ちゃんの、彼氏になりたいと思ってる」
真っ直ぐ告げられた思いもよらないその言葉に、私の顔はまたカーッと熱くなった。
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