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第一章

初日は空振り

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 その後私たちは他愛ない雑談をしながら、のんびりと歩いた。もちろんついてくる気配が無いかと、背後に神経を張り巡らせながら。

「……足音、聞こえる?」
「ううん。そう思ってさっきから注意してるんだけど、気配全く無いんだよね。あ、次、右に曲がるんだ」
「分かった」

 気配は無いけど万が一のことを考えて、私たちは変わらないスピードで歩く。そして角を曲がり、少し歩いたところで足を止めた。

「しばらくここで待ってよう。昨日の感じの人が現れたら、教えて」
「うん」

 荷物を脇に置いて塀に凭れかかった。なんとなく二人無言で数十秒過ごす。 

「なあ、別に黙ってなくてもよくない?」
「あ、そうだよね」

 犯人を待ち伏せ、って気持ちになっていて、知らないうちに息を殺し身を潜めなきゃと思いこんでいた。

「小さな声で喋るくらいなら、いっか」
「うん。……あっ」

 私たちがここで犯人を待ち始めてから数分後、初めて人が現れた。足音にハッとして、私も秋永君も顔を上げて、力を抜いた。
 私たちの前を通り過ぎていくのは、二十歳くらいの女性だ。そのあとにまた二人来たけれど、どちらも中学生だった。

「……もう、二十分くらいは過ぎてるな」

 時間を確認した秋永君が呟いた。

「もしかしたら、私に昨日気づかれたから諦めたのかも」
「……だといいけど。ちょっと見てくる。未花ちゃんは、ここで待ってて」
「うん、わかった」

 秋永君は荷物をここに置いたまま、少し速足で元来た道を戻って行った。
 秋永君を待っている間にも、何人か人が通り過ぎて行ったけれど、誰も昨日の犯人像には当てはまらない人たちばかりだ。小学生が数人に、おばさん一人。あとは犬を連れたお爺さんだ。

「未花ちゃん」

 速足で秋永君が戻ってきた。

「怪しい人、いた?」
「いや、いなかった。隠れられそうなとことか全部見てきたんだけど、誰もいなかったよ」
「……そっかあ。じゃあ、諦めてくれたのかな?」

「――だといいけど、まだ油断はできないよ。とりあえず今日は家まで送って行くよ。それからしばらくは、家まで送るから」

「え? でも……」
「大丈夫かもしれないけど、万が一のことも考えてさ。しばらくは、俺が良いと思うまで送るから!」

 あんまりにも真剣な秋永君の表情に、私の方が押されてしまった。

「う、うん。じゃあ、お願いします」
「うん。任せて!」

 そうしてその日から私は、秋永君に毎日家まで送ってもらうことになったのだ。
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